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2024/1/13 Mr.Children tour 2023/24 miss you @東京国際フォーラム ライブレポ

"miss you"という英熟語を直訳すると、「恋しい」「寂しい」という意味になるけれど、転じて「あなたに会いたい」と意訳することができる。
これは、2023年にMr.Childrenがリリースしたオリジナルアルバムのタイトルであり、前年に「半世紀へのエントランス」と銘打った30周年を経た次なる第一歩となった作品だ。

それは、かの盛大なアニバーサリーとは全くもって真逆の、極めてパーソナルというか、内に秘めた気持ちをそっと吐き出すようなアルバムで、シングル曲やタイアップ曲が1つも無いという、「SENSE」(こちらは既出のタイアップ曲こそあれど、ほとんど内容を明かさず一切プロモーションされないまま発売された2010年のアルバム)を彷彿とさせるようなものだった。

直前に『ケモノミチ』『Fifty's map ~おとなの地図』が先行配信された以外は、アルバムを買って初めて聴くことができる曲がほとんどだったので、相変わらずCDを手に取る聴き手のワクワクを掻き立ててくれた。
サブスク配信が解禁されたのも、リリースから1ヶ月ほど経った後だったと記憶している。

それだけにアルバムの内容は飾らない曲、尖った過激な曲もあり、ファンの間でも「暗い」「ネガティブ」「攻めている」という印象が大半を占めるようなものだった。
たくさんのファンに応援され求められてきた30年間を経た反動とでもいうだろうか、今度は自分たちがただ歌いたいこと、鳴らしたい音をそのまんまパッケージ化したようなアルバムだった。

だから自ずとそれを引っ提げたツアーも、めちゃめちゃ多くの人がワーッと盛り上がれるドームやスタジアムの規模ではなく、シンプルかつストイックにただ鳴らしたい音楽だけに向き合えるホール規模の会場を回るものとなった。

そのため倍率もかなり高かったであろうが、まだ比較的キャパの大きな東京国際フォーラム初日の公演へ幸運にも行くことができたので、今回はそのライブレポを綴りたいと思う。

来たる2024年1月13日土曜日。
前述のアルバム「miss you」を聴き込み、既にリリース前の9月から始まっていたツアーに参加した方たちの感想を次々と目にしては、期待に胸を膨らませ、ようやく自分の番が回ってきた。
東京公演、奇しくもMr.Childrenにとっての2024年ライブ初めである。

会場となる東京国際フォーラム ホールAは自分としては初めて訪れるライブ会場で、ホールにしては約5000というかなり大きなキャパシティだったので中に入って圧倒されたが、それでもドームやスタジアム、小さくてもアリーナ会場でワンマンライブをするのが常となるMr.Childrenにとっては小さな会場。

巨大なLEDスクリーンや派手なセットも一切無いステージ。
背面には樹木のシルエットのようなものが見えたり、暗くなると上部に星空のような照明が散りばめられていたのが分かるくらいだろうか。

そのため定刻になってももちろんオープニングSEや映像が流れることもなく、やがて静かにメンバーが登場し、配置へ着く。
このとき、客席は皆が一斉に立ち上がって歓声を上げるわけでもなく、着席したまま拍手で見守るように出迎え、じっとステージに集中する。

そんないつものMr.Childrenのライブとは違う雰囲気の中、桜井さん(Vo&Gt.桜井和寿)がアコギを鳴らし始め、やがて歌い出したのは、

"しばらくして 気付いたんだ 本物だって"

というフレーズで、そのまま一人で弾き語るようにライブがスタート。
そう、アルバム「miss you」の曲ではなく、直近のシングル曲ながらライブではまだ一度も演奏されていなかった『Birthday』から幕を開けたのだ。
2番からバンドも加わり、だんだんとリズムが速くなっていくにつれ、固唾を飲んでいた観客たちも手拍子をしながら、前方から徐々に、自然に立ち上がっていった。
それはまさに、ロウソクに小さな炎がひとつひとつ灯っていくような光景で、それが会場全体に拡がっていった瞬間、パーっと緊張が解け雰囲気が明るくなっていった気がした。

"どうも、Mr.Childrenです!"
と間奏で挨拶をし、さっそく\oh-! oh oh~!!/のコール アンド レスポンスを促す。
思えば、コロナ禍を経て再び声出しができるライブ環境が戻ってきてから、Mr.Childrenにとっては初めてのツアーである。
さっそく皆の声がこだまする会場は、生ま
れてきて、そしてここまで大変だったことも乗り越えてまた再会できた今日を祝うような歓喜に包まれているような気がして、自分も歌いながら早々に涙が溢れてきてしまった。

「新しい曲です、『青いリンゴ』!」
と、続けてさっそく「miss you」の収録曲を披露。
爽やかな疾走感をまといながら、間奏ではオシャレなサックスプレイが炸裂する。
そう、このツアーではMr.Childrenのメンバー4人と、お馴染みのSUNNYさん(Key.)に加え、同じく度々ミスチルのライブを彩ってきてくれた山本拓夫さん(Sax.)もサポートに加わってくれているのだ。

そしてそのまま間髪入れずに『名もなき詩』へ。
ここではSUNNYさんもアコーディオンを披露。この曲は前回のスタジアムツアーでも演奏されていたが、ホールだとやはりサポートミュージシャン含め1人1人の演奏がより際立つ気がするので、目と耳が同時に楽しい。
言わずもがな、会場の盛り上がりも既にピーク感があった。

「ありがとうっ、東京ー!今日が2024年の一発目です!」
と、曲終わりの桜井さんのテンションも高いように見える。
同時に「年明けから大変なことが起こって…」と、具体的には明言せずとも、数々の辛いニュースが襲った新年を悔やみながら、「でも、そんなことも引き連れて、今日は今日しかない夜を!」と語ってくれるのは、良いことばかりではないということを歌い続けてきてくれた彼らしい。

「今日は「miss you」の曲を中心に届けていきますが、アルバム聴いてくれた人…?」
もちろん会場のほとんどの手が上がる中、
「聴いてない人…………も大丈夫です!笑
これからじっくり浸ってもらえたら。」
と笑いも交えながらさらに会場を温めていく。
この桜井さんの語りかけに時折ドラムでJEN(Dr.鈴木英哉)が合いの手を入れるというMCのスタイルはホールツアーでも変わらない。笑

「続いても「miss you」から『Fifty's map』という曲をお届けしますが、あれ?どっかで聞いたことあるな…と思うかもしれません、そう、尾崎豊さんの『SEVENTEEN'S MAP(十七歳の地図)』です!
僕らの世代は尾崎にずっと憧れていて、『15の夜』や『卒業』や『SEVENTEEN'S MAP』をたくさん聴いたし、歌ってました。
そんな僕ら50代、あの頃のような青春はとうに過ぎてしまったけれど、未だに苛立ちや悩みを抱えもがきながら生きているよっていう曲です。」

そんな丁寧な曲紹介から『Fifty's map ~おとなの地図』へ。
この曲は尾崎豊の曲名以外に、自分たちの過去の名曲『くるみ』のMVをオマージュしていることでも話題になったけれど、その中でも中年のおじさん4人が日常に葛藤しながらバンド活動をするという場面が、翻って今、2024年のMr.Children4人を表しているようで、"似てる仲間が ここにもいるよ"と歌ってくれているように、歳をとっても悩みは尽きないけど、一緒に頑張ろうぜ!と背中を押してくれる強さがある。
ライブではJENのドラムが一層その心強さを増してくれており、ラスサビでは現代の東京のビル群を首都高で駆け抜けていく映像が幕に投影されていて、今を生きる彼らと同じ50代はもちろん、自分のような一回り下の世代にとっても将来の不安を安心に変えてくれる。

次は果たしてどんな曲が…?という想像力を掻き立てるように、様々な効果音が鳴ってから始まったのは『口がすべって』。
『青いリンゴ』のときも樹木のシルエットが幕に投影されていたのだが、ここでは2人の人間の顔が向き合うようなシルエットが映し出され、2番になると歌詞に合わせてその2人がメガホンやピストルを携えるという、まるで影絵を見ているかのような演出に、曲と共に引き込まれてしまう。
まさにホールならではの演出と言えよう。

こうしてまずは「miss you」に既存曲も交互に織り交ぜながらのセットリストが続く中、次の『常套句』にはハッとさせられた。
収録アルバム「(an imitation) blood orange」のツアー以来、実に久しぶりに披露された曲だけれど、この曲の中でひたすら繰り返されてるのが、"君に会いたい"、英訳するとまさに"I miss you"というフレーズなのだ。
「なるほど!」というカタルシスと、曲の持つ切なさにダブルで感動を覚えてしまう。

するとここで、「ここからは「miss you」の曲をたっぷり、じっくりと…」という桜井さんの言葉を合図に、客席も再び皆が自然と着席する。
そして『Are you sleeping well without me?』からより深く「miss you」の世界に浸るゾーンへ突入していく。
照明も少し薄暗くなり静かに紡がれていく演奏の中、"教えて欲しい…" "答えて欲しい…"という桜井さんの叫ぶような歌だけがエモーショナルに、切なく響く。

そしてエレキギターのイメージが強い田原さん(Gt.田原健一)が意外にもアコギを構え、掻き鳴らして始まった『LOST』ではガラリと雰囲気も変わるが、気付けばステージからナカケー(Ba.中川敬輔)の姿が消えている。
かと思えば、ラスサビで合流しそこで初めてこの曲にベースラインが加わるのだが、やっぱりベーシストがいるのといないのとでは、音の厚みがそれだけで全然違って聞こえる。
まさに"LOST"=失って初めて気付く存在の大きさ。
失うことがどれだけ怖く、立ち尽くしてしまうほど絶望的なのか、原曲よりも語気の強い歌唱も手伝ってより切実に伝わってくるが、こんな形で曲を表現してくるのもまた、バンドという形式にとらわれない斬新さで見事だ。

続けてトラックのような音が流れ始めると、今度は幕に記者会見の傍聴者が座っているかのようなシルエットが映し出され、ドラムセットの後ろに据えられたお立ち台に桜井さんが立つと、おそらく今回のアルバムで最も物議を呼んだであろう、あの曲が始まった。
そう、『アート=神の見えざる手』である。
音源では半ば無感情にラップをしているような印象だったけれど、ライブでは対照的に語尾を上げたり下げたり、かなり感情的に歌っていたのが印象的で、歌詞カードでは"、、、"と伏せ字にされピー音が被せられていた部分もはっきり聞こえてしまいそうなほどだった。

そんな過激な歌詞に加え、投影されるシルエットも早口でまくし立てるような人の姿やハサミ、血が滴る様子などが目まぐるしく変わっていった。
だがそれ以上に桜井さんがまるで取り憑かれたように狂っていく様子が激しくて、「重力と呼吸」ツアーの『Monster』や「REFLECTION」ツアーの『WALTZ』など、時々こうした狂気的な人格が頭角を表す歌唱シーンを見ていると、桜井さんはボーカリストであると同時に役者にも近いような表現者だなと思わされる。

そんな表現に圧倒されているうちに曲が終わると、次第にポツポツと雨音が響いてくる。
幕には傘の形をした枠の中にビル群が密集しているようなシルエットが映し出され、『雨の日のパレード』が始まった。
前曲とはまた打って変わって、穏やかで優しい雰囲気の曲調。
"見上げればRainbow"の部分で照明が虹色に変わるのを観ていると、同じように雨の日をもプラスに変えようとする『エソラ』も彷彿とさせる。

次に「今回のアルバムで最もシンプルな曲を、アコースティックギター2本だけでやりたいと思います。」と、桜井さんと田原さんが2人だけで息を合わせて演奏し始めたのは『Party is over』。
気持ちはあるのに漠然と立ち尽くすような様を表すリアルな歌詞が共感できて、虚無感が漂うような渇いたギターの音がさらにその気持ちを高めてくれる。

ここまでアルバム曲順通りながら、本当に目まぐるしく曲調や雰囲気が切り替わるな…という感じだが、続いての『We have no time』でまたガラっとダンサブルなモードへ。
イントロこそアコギ始まりだけれど、徐々にドラムが躍動感を加えて走り出していく様はライブで聴くとめちゃめちゃ映えるし、踊れてしまう。
この曲はそれこそ『Dance Dance Dance』等とも相性が良さそうなので、今後ライブの定番になっていってほしいなとも思ったり。

そして『ケモノミチ』へ。
この曲でも田原さんが力強くアコギをストロークしていくのだが、一番最初にアルバムのスポット映像が公開されたときは桜井さんがこの曲を爪弾いていたので、やはり意外だ。
その瞬間に最も曲が届く形を常に追究してるのだなと分かるし、変化を厭わない強さは音にも滲みまくっている。

引き込まれる演奏が続き、ここで『pieces』へ。
「miss you」ゾーンを一旦抜けて、これまたワンマンでは「(an imitation) blood orange」ツアー以来の久しぶりの選曲となった。
昨年のap bank fes'23では日替りで披露され、30周年のベストアルバムでは、"今日まで僕等が共に夢を追った軌跡"というこの曲の歌詞がフィーチャーされていただけに、30周年ツアーで演奏されると思っていたので、ここにきて聴くことができて嬉しい。

そして、もう二度と会えない人に対して募る想いが歌われた『放たれる』もライブではかなり久しぶりの披露となったけれど、やはり曲の持つテーマは「miss you」と通底していると改めて気付かされる。
昨年は音楽界でも悲しい別れが多かった。
Mr.Childrenに近しいところで言えばKANさんだったり…。
でもそんな、もう二度と会えない人たちに対する恋しさをも音楽に変えて、これからも彼らは進んで行ってくれるに違いない。
どんなに困難でくじけそうでも、払い落としても消えない愛があるはずだから。

そんな『放たれる』と同じく「REFLECTION」に収録されている『幻聴』の、徐々に高まってていくイントロが鳴り始めると、また空気がガラリと変わる。
桜井さんも、この何年間か聴けなかった客席の声に耳を澄ますかのようにステージの縁ギリギリまで前に出て手を伸ばし、ラスサビでは、"人懐っこくて 優しくて …東京! みんなの微笑み~!"と感情を昂らせて歌う。
もはや、この想いの込もった歌唱そのものが「miss you」 を体現している。

そんな「miss you」の気持ちが最も爆発したように感じたのは、ゆったりとしたイントロから始まった『声』。
個人的に、コロナ禍以降一番ライブで聴きたいと思っていた曲。
タイトルの通り、Mr.Childrenも、観客も、全員が\イエーーーーーーイ!/と気兼ねなく声を出せる日がいつ来るだろうか…とずっと待ちわびていたから。
マイクを客席に向け、「行くよ!東京ー!」と桜井さんが促し、全員が\イエーーーーーーイ!/を返す、このやり取りを。

またみんなで乗り越えて、こうやって集まることができた。
もちろん、良いことばかりではないし、胸にしまってあったもやもやも一緒に引き連れてきたり、一旦とりあえず棚の上に置いてきたり、人それぞれではあれどいろんな想いを持ち寄って、また生きてライブに集まることができた。
もはや、そこに言葉もメロディーも要らないし、リズムなんてどうでもいいのだ。

"たまらなく君に逢いたかった"

バンドの演奏が全てピタリと止まり、このフレーズを桜井さんが情感たっぷりに歌った瞬間、やっぱりこれなのだ!と。
今、Mr.Childrenが伝えたい気持ちは"I miss you"、つまり「君に会いたい」「逢いたかった」なのだと。

そう気付いた直後のラスサビでは、自分の口から渾身のイエーーーーーーイ!と同時に、目からも大量の涙が溢れ出していた。
そして曲が終わりに差し掛かろうとしても、コール アンド レスポンスを一切止めようとしない桜井さん。
いつまで続くの?という空気になりあちこちから笑い声も漏れるが、それぐらい気持ちが募っていたのかと思うと、それも愛おしい。

と思えば間髪入れずにJENがカウントをして始まったのは『Your Song』。
別に巧くなくても、声が枯れてたって、みんなで\イエーーーーーーイ!/と同じ歌を口ずさんでいたりしてるこの瞬間が、特別に大きな意味を持ってる。
こうやって互いに想いを声に乗せて届け合えるワンマンライブは、それこそこの曲が1曲目に収録された「重力と呼吸」を引っ提げたドームツアー以来。
本当にこの約3~4年間、長かった…。
そんな感慨に浸りながらまた、\Oh-! Oh~!!/とみんなで歌い合った。

「Mr.Childrenでした!」
と桜井さんが締めの挨拶をし暗転したので、ここで本編終了かと思いきや、程なくしてまたステージがライトアップされ、
「今日、新年一発目でしょ? 特別なことをさせてください!」
この桜井さんの一言に沸く会場。

"特別なことをさせてくれ!"
我々ミスチルファンはこの桜井さんの言葉にテンションが上がらざるを得ないよな~と、かつてクリスマスの夜に行われた「SUPER MARKET FANTASY」ツアーの東京ドーム公演で、アンコールに『抱きしめたい』を追加で演奏したときにも同じことを言っていたのを思い出す。

「スペシャルゲストです、小谷美紗子!」

そう、後で他会場の公演ではなかった東京限定のゲスト出演だと知ったのだが、アルバム「miss you」でも2曲レコーディングに参加しているシンガーソングライター・小谷美紗子さんがサプライズゲストとして登場したのだ。
小谷さんとは、2015年に行われたMr.Childrenの2マンツアーからの縁である。

「小谷さんがピアノを弾くと、不思議なことに全く違う曲になるんです!
今日は一緒に、その「miss you」の曲を届けたいと思います。」
そんな桜井さんの紹介に「えへへ…」と照れながら、まずは『deja-vu』を共に演奏してくれた小谷さん。
ステージ中央でMr.Childrenの4人と目を合わせながら一音ずつ丁寧に紡いでくれたのが印象的だった。

「そしてもう一曲小谷さんと、今日のライブが終わって会場を出た皆さんが眠りについて、いいライブだったなぁという余韻に包まれながら、また明日、良い朝を迎えてくれたらいいなと願って、最後にこの曲をお届けします。」
と、もう1つの小谷さんアルバム参加曲『おはよう』を披露。
"駅前には自転車を…" "賞味期限ギリギリの…"といった日常の何気ないワードが散りばめられたサビの小谷さんのコーラス、そしてラストの桜井さんの口笛がとても優しくて、また明日からも暖かい気持ちで過ごしていけそうだなと感じられた。

ここで本当に本編が終わってしまうのだが、後で振り返ってここまでで20曲も演奏していたことに驚いたくらい、かなりあっという間だった。
1曲『deja-vu』が追加されたセットリストにも関わらず、既に自分の中にも"I miss you…"という気持ちが募り始めていた。

そしてアンコール、ステージに登場したのは桜井さん1人。
続けてSUNNYさんも配置に着き準備する中、アンコールありがとうございます!と語り始める桜井さん。
「時々、どんな気持ちで何を歌ったらいいかわからなくなるときがあります。
でもこうしてたくさんの人が集まってくれたように、こんなにも聴いてくれる人たちがいることを忘れないでいたいと思って作った曲を、今日はMr.Childrenを代表してお届けします。」

そうして弾き語りを始めたのは『優しい歌』。
アコギと鍵盤だけのシンプルなアレンジは、どちらかというとBank Bandの「沿志奏逢」に収録されたバージョンに近かったけれど、だからこそより歌詞がダイレクトに響いてきた。

"誰かの為に小さな火をくべるよな 愛する喜びに 満ちあふれた歌"

これもまた、コロナ禍を経てたくさんの人に30周年を祝福され、そしてまた皆と歌い合うことができるようになったからこそ、Mr.Childrenが再認識した想いなのかもしれない。

そして再びステージには他のメンバーも登場し、「メンバー紹介させてください!」と、改めてまずは今回のツアーをサポートしてくれた拓夫さん、SUNNYさんを称え、拍手を贈る会場。

続けて「ギター、田原健一!」と紹介されると、「どうもこんばんは。」の声に沸く会場。
「1つお話させてください。僕らはファンクラブで「誰も得しないラジオ」というのをやっていて、コロナ禍でライブができなかった間も本当にたくさんのお便りをいただき、励みになりました。どうもありがとう。」

そう、ライブができない期間にもMr.Childrenの4人は以前にも増す頻度で定期的に会員限定ながらWEB上で声を届けてくれていたのだ。
レコーディングの秘話や、レアなライブ音源、来たるライブに向けたあれこれ、ファンからの質問に対するレスポンスなどなど、本当に真摯に、丁寧に届けてくれていたので、こちらこそありがとうだ。

するとさらに「紹介します、ドラムス・鈴木英哉・JEN」と、まさかの田原さんによるメンバー紹介が続き、さらに沸き上がる会場。
「どうも~。いやぁ、今日会場入りしたときは10℃ぐらいあったけど、夕方には1~2℃で雪降ったんでしょ? びーっくりしたわねぇ。」
そんな時候の挨拶が飛び出るのも無理はなく、この日は開演直前、国際フォーラムのロビーの窓から外に目をやると、雪がパラパラとちらついていた。
東京では今シーズン初雪となったのだ。

「桜井も言ってましたけど、年始から本当に嫌んなっちゃうねぇということばかりで…。
でもそれらは一旦置いといて、皆さん、声出していきましょ~。
いきますよー?オイッス!」

「………。」

と、突然のフリに静まり返る会場。笑
「あらら、また寒くなっちゃいますな。
皆さん、いきますよ?オイッス!」

\オイッス!/
\\オイッス!!//
\\\オイッス!!!///

と、だんだん客席のレスポンスも大きくなっていく、謎のコール アンド レスポンスで会場も温まったところで、
「続いてベース、中川敬輔!」
「こんばんは、中川でーす。
今日も楽しくやれました~。」
と、すぐに田原さんに返そうとするナカケーに、「えーーー」ともっとコメントを求める会場。

するとすかさず田原さんが、
「まぁ今回東京だからねぇ。
他の会場では、その土地で昨日の晩に何食べたーみたいな話をしてたんですよ~。
ちなみに昨日は何食べたんですか中川さん?
ほら、もっと喋ってよ~。」

とまさかのフォロー。笑
前述のラジオでもメインパーソナリティでトークを回している田原さんだが、まさかライブのMCでもここまで司会っぷりを発揮するとは。
たまらずナカケーが、
「焼き芋を食べました~、美味しかったです。」と答えると、
「それ茨城から贈られてきたやつでしょ。東京でもない。笑」
と桜井さんがツッコむ。

30年以上にもわたり長いことツアーをやっている中、基本的にはMCで話すのはフロントマンである桜井さんの役割で、JENを除き他の2人はほとんどトークに加わることはなかったので、まさかMr.Childrenのこんなやり取りが見られる時が来るとは。

「そして、紹介します、"Mr.Childrenのすべて"、桜井和寿!」
と田原さんが粋な形容で桜井さんに繋ぐと、会場の歓声もひときわ大きく盛り上がる。
改めて挨拶をすると、再びMCの主導権を取り戻し、次に演奏する曲の話題へ。

「僕らは2020年に「SOUNDTRACKS」というアルバムを作ったんですけども、コロナが明けたらその「SOUNDTRACKS」のツアーを回る予定でした。
でも結局それは叶わずだったのですが、そのツアーでどうしてもやりたかった曲があります。
さっきもたくさんコール アンド レスポンスをやりましたけど、そんなふうにまたこうやってみんなで集まって歌うことができた、この景色を讃えて…良かったら一緒に歌ってください!」

そうして約3年越しにワンマンツアーで初めて演奏されたのは『The song of praise』。
情報番組のテーマ曲だったので、もはや「SOUNDTRACKS」が出る前から毎朝のように聞いていた曲だが、やっと初めてライブで聴けたこの曲は本当に格別だった。
百聞は一聴に如かずというか、やはり生で浴びる\Oh- Oh-/のコール アンド レスポンスは特別な響き方をするものだったし、まさに"ここにある景色を讃えたい"と強く実感した。
「無観客」という言葉が当たり前になってしまっていた数年前には想像ができなかった、尊い景色。
ラスト、桜井さんがそれを噛み締めるように強く強く語尾を響かせて歌ってくれた"讃えたい"は、一生忘れないだろう。

「最後の最後に、お別れの言葉に代えてこの曲を贈りたいと思います。
また会いましょう。
ありがとうございました!」
そうしてこのライブを締めくくる曲となったのは、『祈り ~涙の軌道』。
この曲もまた、ap bank fes'23では披露されたものの、ワンマンではやはり「(an imitation) blood orange」のツアー以来。
当時も、そして20周年の「POPSAURUS 2012」のツアーでもアンコールラストを飾ってきた曲であるが、

"忘れないで 君に宿った光
いつまでも消えぬように 見守りたい"

と、また優しく次の日常へ送り出してくれるような、"さようなら"と歌っているのだけれど、寂しさではなくむしろ、何か力を受け取ったような心強さをくれたこの曲でまた、自分の頬にまっすぐな軌道がスーッと流れていくのを確かに感じた。

- 1/13 Mr.Children tour 2023/24 miss you @ 東京国際フォーラム ホールA セットリスト -

01.Birthday 
02.青いリンゴ
03.名もなき詩 
04.Fifty's map ~おとなの地図
05.口がすべって
06.常套句
07.Are you sleeping well without me?
08.LOST 
09.アート=神の見えざる手
10.雨の日のパレード
11.Party is over
12.We have no time
13.ケモノミチ
14.pieces 
15.放たれる
16.幻聴
17.声
18.Your Song 
19.deja-vu w/小谷美紗子
20.おはよう w/小谷美紗子
en1.優しい歌
en2.The song of praise
en3.祈り ~涙の軌道

ホールツアーならではの演出があったり、既存曲との交わりもあったりして、改めてアルバム「miss you」の解像度がめちゃめちゃ上がったと思えるライブだった。
歳を取って時を経て、時には喪失も味わいながら、とてつもない寂しさに襲われ、時にねじ曲がったアートにもすがり、それでも身近な愛する人の存在に気付いたとき、また明日も生きていける。

"I miss you"という感情を抱くからこそ、その恋しい人・会いたい人に会えたときの愛しさがたまらなくなるのだということを改めて教えてくれたアルバムでありツアーだったが、思えばMr.Childrenは今回演奏した『常套句』や『放たれる』『声』のように、ずっと前から"I miss you"、"I miss you"、"I miss you"…と繰り返し歌ってきた。

それこそアルバム1曲目の『I MISS YOU』は意外にもこのツアーでは披露されなかったが、そうやって繰り返してきたフレーズを歌う自分を"殺したいくらい嫌いです"とまで言い切ったこの曲は、初めて聴いたときは殴られたような衝撃だった。

でもライブを観て改めて、その曲を敢えて歌わなかった意味がわかったような気がする。
いや、自分たちファンを前に歌うことを想像したら歌えなかったのかもしれないし、もう歌う必要はなかったのかもしれない。

改めて、Mr.Childrenが大好きだと、強く強く感じた夜だった。

P.S.
終演後の挨拶で桜井さんが再びメンバー紹介をしたとき、田原さんの紹介が
「ギター、そして"MC"、田原健一!」
だったのが、この日一番のハイライトだったかも。笑