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忘れ得ぬライブ ~Mr.Children Stadium Tour 2015 未完~

9月6日になると思い出される、Mr.Children Stadium Tour 2015 未完。
もうかれこれ5年も前になるが、ミスチルライブ参戦史上、5会場・6公演という最多参戦のツアーであり、未だに忘れられないツアーだ。

・7/18 ヤフオクドーム公演(福岡)

・8/1   エディオンスタジアム広島公演

・8/16 東京ドーム公演

・8/17 東京ドーム公演

・9/6   日産スタジアム公演

・9/20 京セラドーム公演(大阪)

各地で様々な出会いがあり、またいろんな仲間と参戦できたのも大きく、口下手で人見知りな自分でも、人との繋がりや暖かさも感じることができた。

たまたま同じ飛行機に乗り合わせてタクシー相乗りでヤフオクドームに向かったり、エディオンスタジアムで遠征者どうし初めて出会ったり、ツアーファイナルの京セラドーム終演後、なんばのお好み焼き屋で世界一の酒を飲み交わしたり…。

当時24歳だったけど、今思えば自分にとってはこのときが遅れてやってきた青春だったのかもしれない。
こんな世の中だけど、皆元気にしてるだろうか。

近年では、ミスチルのライブチケットへの考え方も、転売防止の観点からかなり厳しくなっており、一人一公演・地元優先の原則が暗黙的に成り立ちつつある。

その場所・その会場でしか出会えない人や空気、景色があって、その場所ごとまるっと好きになる、また行きたくなる。
そんな旅の醍醐味を教えてくれたのも、思えばミスチルのライブ遠征なので、正直寂しい。
もっとも、今このコロナ禍では遠征自体できる状況ではないのだが…。

話が逸れてしまったが、未完ツアーの中でも特に忘れられないのが、9月6日、日産スタジアム公演だ。
未完のみならず、今まで行ったミスチルのライブをすべて振り返っても、やはり未だに一番かもしれない。

初めて雨を好きになれた、初めて自分の感情を全方向に解放してはしゃいだ、唯一無二のライブ。
そんな忘れ得ぬライブを振り返っていく。

ライブ当日。
予報は雨だったため、万全を期して傘やカッパを準備して日産スタジアムへ。
当時は新横浜で働いていたので、毎日通っている見慣れた景色だったが、やはり色とりどりのツアーTシャツで溢れる景色は特別にキラキラしている。

会場に着いた時点では空こそどんより曇っていたが、雨は降っていなかった。
だがやはり、開演時間が近づくにつれてぽつりぽつりと降りはじめ、屋根が無いため入場してしまうとモロにどしゃ降りを喰らうため、不安と戸惑いが募っていく。

この日の座席はありがたいことに、アリーナ席の前から10列目ぐらいという、日産スタジアムの規模では贅沢すぎるポジションだったのだ。
カッパを着込み、完全防備でいざ、入場。
やはり、そこが7万人を収容するスタジアムである実感が無い近さに圧倒されながら、開演。

"私達は何かをしっているようで何もしらない。

ここに一枚の羽がある。

あなたにはどんな羽に見えますか?

銃で打ち落とされた鳥のものかもしれない。

では鳥は生きているとしたら?

大空を飛んでいるときに抜け落ちたものともいえる。



このように、どちらも想像することができる。

すべてはあなた次第。"

そんなメッセージとともに始まるオープニング。
雨だからといって、楽しめないとは限らない。
見方を変えれば素敵な思い出に変わる。
今思えば、この公演に限ってはそんなふうに捉えることもできるメッセージだ。

そして、沸き上がる会場と勢いを増す雨音とは対照的に、そっと静かに登場し、配置につくMr.Children。
桜井さんのエレキギターが『未完』のリフを鳴らし、ライブが始まった。

ツアータイトルにもなっている"未完"。
当時でもキャリア23年を重ねていたバンドが、このとき引っ提げていた「REFLECTION」をもって満を持して独立し、セルフプロデュースの道を歩み始めるのだが、これだけ国民的なバンドが未完成であるが故の無限の可能性=自由を歌い、未だ見ぬ世界へ巣立っていこうとする姿を見せつけてきたのだ。

その背中はあまりにも大きく、心強い。
そんなミスチルの姿にいつも奮い立たされてきた。
間髪入れず『擬態』に入ると、ギターをハンドマイクに持ち換えた桜井さんが、雨をものともせず花道まで駆け出してくる。
歌詞の通り、トビウオのように飛び跳ねながら歌うその姿に、観ている側も気持ちごと、跳ねさせる。
野外では特に音が映える、気持ちいい曲だ。

仮面を着けた群衆たちが行進する映像とドラムロールに合わせ、手拍子をするように促される。
そして田原さんのギターがイントロを掻き鳴らし、特効花火とともに桜井さんのテンションがついに爆発する、『ニシエヒガシエ』。

この曲は1998年のリリース以来、長くセトリのスタメンを担っていると言えるが、毎度アレンジの姿・形を変え進化し続けている。
このツアーのアレンジは比較的シンプルであったが、このイントロからリズム隊が際立ってかっこよかった。
さらに惜しげもなく特効が弾ける『光の射す方へ』でライブの熱も帯びていく。


「20年ぶりぐらいのすごく久しぶりの曲をやります!ライブハウス時代から演奏してました。子どもたちのような無邪気で好奇心旺盛な気持ちをいつまでも抱いてたいという想いを込めて…」と演奏されたのは、『CHILDREN’S WORLD』。

まさかの選曲だったが、無邪気な子どものように新しいことを始めようというこの曲はやはり、この未完ツアーにぴったりだ。
演奏とともにチュッチュル楽しげに歌うメンバーが印象的で、「曲知らなくても楽しむだけだ!チュッ!チュッ!チュッ!」と桜井さんに促されると、もう雨なんてお構い無しに歌い、跳ねたくなる。

曲の中の少年のようなテンションを引きずったままMCに入ると、
「こんなライブめったにないぞ!7万人が同じ雨を浴びてんだ。一緒に濡れるぞー!!」
とやはり子どものように無邪気に桜井さんが叫ぶ。
5年経った今思い返しても、やはりこんなライブはこの後にも先にもなかった。

『運命』『FIGHT CLUB』『斜陽』『 I Can Make It』と「REFLECTION」の曲たちが続き、メンバー紹介を経てステージは花道の先端へ。
男くさい曲を立て続けに演奏してきたので、ここで女性的な曲を…と『忘れ得ぬ人』。
サニーさんのコーラスが最も際立っていたように思える。

"愛"とは何か。
恋人への愛、家族への愛、好きなものへの愛、愛にも色んな形があるが、"死んでしまった子は死んだまま愛すればいい"というブッダの話を用いながら、"愛"とは"想像力"のことではないか…と桜井さんなりの説を立て、『and I love you』へ。
"愛とは想像力"。
オープニングのメッセージとも通じる。

この曲の余韻をサニーさんがシンセで残したまま、
"ディカプリオの出世作なら…"と始まったのは『タガタメ』。
"この星を見てるのは 君と僕と あと何人いるかな"
"左の人 右の人 ふとした場所できっと繋がってるから"
これらの歌詞もまた、見えない誰かを想う想像力。当時、個人的に人との繋がりを最も強く感じたツアーだっただけにグッとくるものがあったが、今、このコロナ禍にもまた考えさせられる歌詞だ。

特にこの日産スタジアム公演では、土砂降りの雨にメンバー全員が打たれながら死力を尽くして演奏する姿に息を飲んだ。


そして再びメンバーはメインステージへ。
神秘的なSEと映像が流れ、『蜘蛛の糸』『REM』『WALTZ』と、「REFLECTION」の中核を担う曲たち、続けて『フェイク』が展開されていくが、曲たちの持つ力強さに比例し、雨足も強まっていく。

ステージ上に作られた動く歩道の上を逆向きに進み、桜井さんが荒野をひたすら歩いていくという演出を見せた『ALIVE』では、共に歩みを進めていく仲間が増えていき、最後は荒野いっぱいにカラフルに広がって花を咲かせるような映像が感動的だった。

"生物の進化論には様々な説が…"とのナレーションで始まった『進化論』。
前曲で夢や希望を探してひたすら歩き続ける姿と、映像の植物型の人間が次世代に夢を繋いでいこうと嵐の中歩いていく姿が重なった。


今でもそうだが、当時、社会人2年目だった自分には、自分の使命って何だろう?と物凄く考えさせられた。
このあたりで一旦、この曲の映像ラストとも奇跡的に重なり雨も止む。

曲が終わり静寂に包まれる中、ブルーフラワーのギターを手に一人、花道先端に歩いていく桜井さん。
弾き語り歌い始めたのは『終わりなき旅』。
そのままスタジアム中の皆で自然に合唱が始まるのだが、もはやその凄まじいパワーに背中を押されているような気がした。

『ALIVE』『進化論』から続く自分探しの旅はまだ終わらない。
荒れ果てた険しい道を、生まれもって携えた使命と、もっと大きなはずの自分を探してひたすら歩き続ける。
時には休憩してみるのもいいかもしれない。

でも、"やっと一息つけるねって思ったのも束の間 また僕は走り出す"…
そんなストーリーを自分の中で描きながら、再び降り始めていた雨をよそに『幻聴』でより没入していく。

このように、きっとリスナー1人ひとりがミスチルの楽曲たちに自分の人生を重ねながら、歩みを止めずにきて、このライブ会場にも足を運んでいる。

それに応えてくれるかのように、
「聞こえてるよ、みんなの"足音"…!」
と『足音 ~Be Strong』が鳴らされる。
幻聴なんかじゃなく、確かに聞こえている。
そんなファンの生き様に耳を澄まし、追いかけ、Mr.Children自身もまた新たな足音を踏み鳴らす…。

自分もそんなふうに、誰かのために誇りと使命をもって生きたい。
そんな新しい靴、見つかるといいな。

そんなことを思いながら、当時はこのライブの一連の流れを観ていた。
そして5年経った今でも模索中である…(笑)
時の流れは速く、もう三十なのだけれど、本当に人生は終わりなき旅だ。

ここで本編は終わり、アンコールへ。
暗がりの中、会場の中央から突如どよめきが。
そう、いつの間にかメンバーたちは花道先端に。
「必要最小限の灯りで…」とスマホライトの点灯を会場に促し、『 I wanna be there』からライブ再開。
これを機にアンコールのスマホライトは定番化し、賛否は分かれるが、どちらかといえば消極的な自分としても、このときの光景はやはり綺麗だった。

そして『overture』が流れ始めると同時に、再びメンバーはゆっくりとメインステージへ。
もちろん自ずと次にくる曲も『蘇生』と分かるが、まさに何かが生まれて何かが始まるような、キラキラした映像とともに演奏されたこの曲はそれまでと聴こえ方が違い、より一層のワクワク感があった。

「もう少しだけ、みんなを道連れに、音楽の中に、夢の世界に連れていかせて!」と『fantasy』へ流れていくが、このとき最も雨足が強くなったのを記憶している。
だが逆にそれも相まって、自分のテンションももはやめちゃめちゃハイになっていて、まさに普段味わえないようなファンタジーの中にいた。

そのまま間髪入れずに流れるイントロに大歓声を巻き起こしたのは『Tomorrow never knows』。
ここにきて繰り出される日本のアンセム。
一緒に濡れる7万人の声が\oh-! oh-!!/と一つになる。


続いてこれまたワクワクするような、楽しそうに弾むドラムが聞こえてくる。
「これまでのMr.Childrenの音楽の歴史と、今持っている情熱の全てをこの曲に捧げます…!」
とクライマックスに放たれたのは『innocent world』。

イントロと同時に赤、白、青、金、銀、紫…と色とりどりのカラーテープが発射されるが、それには目もくれず、全力で飛び跳ねて歌う自分がいた。
もはやその時点では強まる雨にカッパが意味をなしておらず、もういいや!とフードを取っ払い、ただ音に身を任せて楽しんだ。

桜井さんもテンションが上がり過ぎたのか、転びそうになったのかわざとかは不明だが、田原さんサイドに駆けてくるとともに、飛沫を上げ豪快にスライディング。
もはや、スタジアムにいる全員が無邪気な子どもだった。

終盤では田原さんとナカケーも濡れるのに構わず花道に出てきて、桜井さんとともに先端へ。
"いいだろう? mr.myself"を号令に、そこにいる全員が飛び跳ね、大サビを熱唱。
このときの多幸感はあまりに特別で、まさにいつの日も この胸に流れてる思い出だ。

最高潮の盛り上がりを経て曲が終わると、そのまま桜井さんがメインステージに向けてダッシュし、ジャンピングをキメる。
当時、御年45歳とは思えないほどにエネルギッシュで、彼のバイタリティには本当に驚かされる。
どしゃ降りの中、ライブは3時間を越えていた…。

そして再び、オープニングのときの映像に戻る。

"ここにある一枚の羽。

あなたにはどんな羽に見える?

私たちは何かをしっているようで何もしらない。

でもしらないからこそ、存在することもある。

人はそれを"希望"と呼んだり、"可能性"と呼んだりする。

私たちはいつでも生まれ変われる。"

まさにMr.Childrenというバンドがそのメッセージを体現し続けてくれている。
続くラストナンバーの『Starting Over』でも、常に自らの中に潜むモンスターと闘いながら、完成して、壊してを繰り返し、進化していく様を歌っている。

まさに"未完"であるが、この曲の大サビ直前で最後の溜めを桜井さんが忘れてしまい、勢い余ってそのまま"今日も僕だけが行ける世界で…"と歌ってしまうという、最後の最後に痛恨のミスをしてしまう。
演奏と歌にズレが生じるが、それでも最後にはメンバー全員、微調整して合わせたところは流石、長年一緒にやっているJEN・ナカケー・田原さん・サニーさんだ。

桜井さんは相当悔しがっていたようだが、激しい雨に打たれながら歌い続けていたから無理もないし、そんなミスさえも、このツアーのテーマである"未完"感を表しているように感じた。

何より、リアルタイムでそれを乗り越えていこうとするバンドの底力。
そんな推進力を持って、進んでいくMr.Childrenの歩みの強さを確かに感じた。
映像ではうまく編集されてしまっているが…。

実に28曲、3時間半にわたる過去最長ともいえる盛りだくさんのセットリストはあっという間に駆け抜けていった。
本当にメンバー5人ともすごいバイタリティとエネルギーだ。

激しい雨に打たれながら、本当によくやり切ってくれたと思うが、その原動力になっていたのは他でもない、楽しいという気持ちだろう。
自分も、雨なんてどうでもよくなるぐらい、歌って、叫んで、飛び跳ねた、自分のすべてを解放したライブはこの日だけだ。

何してたって頭のどこかで、この日の思い出がそっと微笑んでいる。


-Mr.Children Stadium Tour 2015 未完 セットリスト-

01.未完
02.擬態
03.ニシエヒガシエ
04.光の射す方へ
05.CHILDREN'S WORLD
06.運命
07.FIGHT CLUB
08.斜陽
09.I Can Make It
10.忘れ得ぬ人
11.and I love you
12.タガタメ
13.蜘蛛の糸
14.REM
15.WALTZ
16.フェイク
17.ALIVE
18.進化論
19.終わりなき旅
20.幻聴
21.足音 ~Be Strong

(アンコール)
22.I wanna be there
23.overture
24.蘇生
25.fantasy
26.Tomorrow never knows
27.innocent world
28.Starting Over