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「映研の怪談ドッキリ」 後編

例のドッキリの数日後、私は昼飯を食べようと下宿を出て商店街を歩いていました。
「先輩」
そう声をかけられて振り返ると、映研の新入部員の女の子のYさんがいます。
「よう、今日も暑いね」
なんて話をしながら、一緒に昼食を食べることにしました。当然のことのように先輩としてはおごることになってしまいましたが。
「そういえば先輩、この間のドッキリなんですけど。あのとき窓際にいた女の先輩って、誰だったんですか?」
食べ終わって、食後のセットコーヒーを飲んでいるときに後輩女子がそう言ってきました。私は返答に困りました。あのとき、あの教室にいた女性は、新人の一年生の2人だけだったのですから。
「誰か、男の部員と見間違えたんじゃないの?」
「そんなわけないじゃないですか。それとも、女装趣味の先輩が映研にはいるんですか?」
まぁ、映研なら男が女役をやることもないわけではないが、その彼も私と一緒に白塗りで脅かし役に参加していたのだ。
「本当にいなかったんだ。あ、ひょっとして、俺たちに逆ドッキリをやろうとしてる?」
「しませんよ、そんな暇なこと」
ドッキリを暇なことと言われてしまった。
「それじゃ、これからKのところに寄ってみるか?」
Kとは編集担当で、多分今頃は先日のドッキリの映像を編集しているはずだ。編集した映像は、秋の文化祭のときに流す予定になっている。
私達はKのアパートに向かった。

Kは実家が裕福らしく、彼の部屋はマンションと言えるほどきれいで立派な建物にあった。下宿生の私とは雲泥の差だ。
一人暮らしなのに部屋もいくつもありそのうちの一つを編集部屋にしていた。
聞けば親が小さな会社を営む社長で、そこを継ぐために工業経営科のある我が校に入ったらしい。
「編集どう?」
私がKに問うと彼はちょっと顔を曇らせたんです。
「何かね……まぁいいや、とりあえずこれ見て」
何かを言いかけて、Kはデッキを動かし、モニターに映像を表示させました。
『その友人の彼女というのが、彼以上に霊感が強い人でね……』
あの夜のドッキリに至るまでの偽霊媒師の話が流れてくる。そしてそれを怯えた顔で聞いている新入部員の三人。
Kは客を飽きさせないように、複数のカットをつなぎ合わせて画作りをしていました。カメラマンなしの複数の固定カメラのみの撮影だったから、パンなどは基本的にはできない。それでも動きがある映像担っているのはKの編集テクニックの妙だったのでしょう。
ある程度のところで、Kは再生を止めて「な?」と言いました。私には何のことかわからなかったのです。ですが、Yさんは違いました。
「ほら、先輩! 私が言ったとおりだったじゃないですか!」
その言葉で私は今の映像の中に、Yさんが言っていた謎の女性が写っていたのだと知りました。
「ごめん、もう一度みせて」
今度は見逃さないように、モニターに顔を近づけて待ち構えました。
「このあとの、窓が映るアングルです」
Yさんが先回りして私にタイミングを教えてくれました。

それは霊媒師の後ろから、新入部員たちに向けて撮ったアングルで、窓からの月明かりで教室内の無人の風景が一緒に写っている。もちろん、この机の影には脅かし役の私達が隠れていたのだが、人が隠れている気配はない。……いや、画面の一番右、窓際の席に確かに真っ暗な人影があるように見えました。
話の間をとるためのカットだったので、時間にして2秒ほどでしょうか?
「これ?」
私はモニターの真っ暗な影が写ったあたりを指差して言いました。当然その頃には別のカットに写っていて、私の指先は別のものを刺していたわけですが。それでもYさんには伝わったようでした。
「そうです、その女の人です」
「う~ん」
私は腕組みをして唸りました。確かにそう言われれば人に見えなくもないのですが、ただの真っ暗な影で、私には性別も判断できない状態です。Yさんはあのときに見ていたので、女性だと断言できるようですが。
「もう一つおかしい点があるんだよ」
Kが口を開きそう言いました。そして問題のカットに巻き戻し、一時停止させます。当時は今のデジタルと違って、ビデオテープの一時停止ですから、停止と言っても画面は細かく揺れているような状態です。そうなると本当にこの真っ暗な影が人かどうかも正しく判断できません。
「窓からはかなり明るい月明かりが入っている。それは照らされている机の面を見てもよく分かると思う。だけど、この人影は照らされていない」
やっとKの言いたいことがわかりました。人物の照らされている面がないのです。すべての光の飲み込む闇の塊、そうとしか表せない何かでした。
「一体何だったんだろうね」

色々悩んだ末、私達はその影が写っているカットは使用しないことにして文化祭で上映することにしました。

11月の文化祭の当日を迎え無事3日間の祭りを終えました。
そして上映を見たお客さんのアンケートをチェックしていたとき、私はある文章を見てゾクッとしました。

『・窓のところの女の人が怖かった』
『・すごく怒った顔で写ってた、おそらくスタッフの方だと思うのですが、あのシーンは見ていて不快でした』
『・素人だからといっても、スタッフが写っているカットは使わないほうが良かったのでは?』
『・あの窓際の女の人はやりすぎ』

あんなにチェックしたのに、どうやらカットしきれていなかったようです。

【終】

ゲーム業界に身を置いたのは、はるか昔…… ファミコンやゲームボーイのタイトルにも携わりました。 デジタルガジェット好きで、趣味で小説などを書いています。 よろしければ暇つぶしにでもご覧ください。