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「映研の怪談ドッキリ」 前編

私は学生時代に映画研究会、いわゆる映研に所属していた。
私たちが3年生になった夏、新入生たちにドッキリを仕掛けないかという企画が持ち上がった。
ちょうど夜間の撮影などもあり、学校に宿泊の許可を取っていたこともあり、簡単なドッキリをやってそれを録画してみんなで楽しもうと決まった。
当然ながら新入生達には内緒だ。

本来の撮影もあるので、ドッキリの内容は簡単な物にした。
そもそもこの学校の敷地は旧帝国陸軍の用地だったため、兵隊の霊が出る、夜に走る軍馬を見たなどの噂が後を絶ちませんでした。
新入生も夏休み頃になると、一通りそういう噂は仕入れている様子。
そんな中でのドッキリです。
「君たちの先輩で、ちょっとした霊能力を持っている人がいるから、彼から怪談を聞く。テレビでやっている心霊特番みたいなのを撮る。君たち新入生はスタジオに招かれたゲストのような感じで、先輩の話す怪談を聞いてくれればいい。うまくいれば心霊映像が撮れるかもしれない」
そう説明して、教室の一つで撮影を開始した。
この霊能者役の先輩というのは、実はまったく霊能力はなくて、彼の知り合いにそういう怖い体験ばかりをしてしまう人がいる。
彼にはそれを非常にリアルに怖く語る話術があるだけだった。
我々の急遽の呼び出しにも快く応じてくれた。

教室のホワイトボードの前にパイプ椅子を用意し、そこに新入生3人が座る。男が1人と、女が2人だ。
少し話して向かい合うように、霊能者役の知り合いが座る。
雰囲気が出るように窓からの月明かりと、キャストを照らす程度の証明だけにして、あとはビデオカメラを数台設置して、他の人は隣の教室からモニターするという形で撮影に入りました。

霊能者役の話術のうまいところは、緊張と緩和を絶妙に織り交ぜてくるところで、単純に話が面白いためその話に引き込まれるところにあります。
話し始めてすぐに新入生達は食い入るように彼の話を聞き、時に笑い、時に固唾をのんでいるのが分かりました。
そして後半のクライマックス。
「ずっと声がする。本当は無視したい、無視したいんだけど、もう限界だった。仕方がない! そう決心した私が、声の方を振り返ると、そこには……無数の腕がっ! ほら、そこに!」
話術師が指さす教室の席、新入生もつられてそれを見てしまう。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
ここで机の影に隠れていた私たちが一斉に起き上がって腕を出したのです。雰囲気を出すために脅かし役の私たち数人は、上半身裸になり、白粉で真っ白になっていました。まぁ、怪談でなくても異様な光景であったには違いありません。
実は撮影時にスタッフがこの教室から出て行ったのは、他に人がいないと思わせるためでした。
おかげでドッキリは大成功。男子新入生は早くも「来年はもっとすごいので脅かしてやる!」と意気込んでいました。
女性達も安堵からか、口々に感想を述べていました。
「話してる間も、本当に怖かったですよね。とくに窓際の真っ黒な女性とか。あれも仕込みだったんですね!」
この言葉を聞いて私は首をひねりました。
脅かし役の私たちは5人全員が男だったのです。先ほども書いたとおり、上半身裸で、白粉を塗っているので、そんなことを女性スタッフにやらせるわけにはいきませんから。
「おいおい、怖いこと言うなよ。この教室にいた女性は、君たちの2人だけだよ」
「え? でもいましたよ? 窓際の席に座ってじっとしてて。話が始まってからずっといたから、機材を見てる先輩の誰かなんだと思っていたんですけど……」
あとで霊能者役の知り合いにも確認してみましたが、彼は何も見ていたなかったと言います。
それは彼が本当に霊感がない人物だったからなのか、女性新人が仕返しについた小さな嘘だったのでしょうか……?

《後編へ続く》

ゲーム業界に身を置いたのは、はるか昔…… ファミコンやゲームボーイのタイトルにも携わりました。 デジタルガジェット好きで、趣味で小説などを書いています。 よろしければ暇つぶしにでもご覧ください。