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願いをみっつとなえる頃

1.バースデイ


カレンダーの日付に思い出す人がいる
いつだって思い出は僕を海へ連れていくよ

カレンダーの日付に書かない予定をもって
世界をちょっと盗んだ 僕らはきっと夢を見てる

「…今なら死んでもいいな」
夕暮れ 微笑み はぐれぬように手を繋いだ

約束なんて、いつか忘れるのにね。

愛しい波が足跡を消す
強くはならないで そのかわり優しくいてね
光に包まれてく
僕らは思い出になる

今日みたいな日は灯りを点けて 思い出の話をしようよ
今日みたいな日は灯りを消して 思い出に一人触れるよ

君の夢を見ていたんだ
心を壊すほど とても優しい夢だよ
思い出は美しいまま でも
歳をとった君はもっと美しい
きっと美しい

カレンダーの日付に思い出す、なんて嘘だ
本当は一度も忘れたことなんてないのに




2.魔法みたいなもの


四月になったらあっちに行くんだね
そう言って海の向こうを眺めた
ねぇ、手を振ったら見えるかな
ベンチの上 桜が舞った

それは二人だけに見える魔法みたいなもの
きっと叶いっこない言葉

結局いつでも踏み出すのはその足で
竦んでしまうのは僕のほうで
だけど先に泣いていたのは
どっちだろう どうしてだろう

それは二人だけに見える魔法みたいなもの
きっと叶いっこない言葉 でも
春が芽吹くたび 桜が咲くたび
思い出すよ、なんて
変かな 変だよね
ごめんね

むせ返るような幸せの中で
壊れかけだって美しかったの
花束のようなまつげが揺れたら
頬には雨が降って桜が散るよ

隣をあけたこのベンチで
きっとこないその時のため
僕は君を待てるかな




3.美しい残像


夢だったらいいのにね
壊れた心飲み干して
僕らは笑った
帰れないよ もう海辺には

言葉が泡になって消えていく

「忘れていて?」
「忘れないで。」

咲きだしていく光を束ねてみた
たとえ渡せない希望でも
間違えたような笑顔で溺れていく
美しいあなたの醜さも愛してる

ちぎった花に水をやろう
色をわすれた絵の具たち
夕凪と嘘つき
ガラスのひび 綺麗だった

フィルムを巻き戻して笑いあう

「言いたくない」ってあなたは言う
「泣きたくない」ってあなたは

手を裂いたような花束抱えていた
痛みさえあなたのため
絵に描いたような幸福を塗りつぶした
そんな強いあなたの弱さも愛してる

涙を食べては身籠もる春のあなた
透明なゆりかご揺れる
産まれるはずだった思い出をのせ

裂きだしていく光を渡しあった
二度と消えない魔法でも
泣きだして振り返る頃 僕らきっと
酷い笑い方で

目を閉じてあなたを見る 思い出の中
色が、音が、匂いが、泣くよ
ねぇどうして?それでも息がつまるほど
美しい世界の醜さも愛してる

あなたを愛してる




4.ペトリコールが消える頃


名前のない手紙をひらけば
見覚えのある文字が君の声に変わった
割れたグラスに花をあげよう
それでも綺麗と伝えるために

君が笑って手を振っている
思い出の向こう

あめ、あめ、あふれだして
きみ、きみ、こわしていく
ゆめ、ゆめ、おぼれそうなくらい
色をなくしていく
もう、笑わないで
ねえ、ずっと祈ってたんだね
心が名前をなくすまで

「雪が降ったら 遠い国へ行こう」
こんな僕たちだけのSOSがあればいいな
誰かと笑っているかもしれない君に
僕と同じように泣いているかもしれない君に

予感がする 息が白くなる
見上げた先は、雨

あめ、あめ、まいあがって
ゆき、ゆき、そまっていく
いき、いき、つまりそうなくらい

君のことを

ねえ、もう、泣かないで
ねえ、きっと大丈夫だよ
心の名前が変わっても
季節が変わっても
君の名前が変わっても

生まれ変わったら 一緒になろうね
生まれ変わらなくたって 僕はいいけど




5.まばたき


雨が一粒落ちてきた 君の瞳の下あたり
僕ら傷をつけ合う度
抱きしめるふりをして ずっと目を背けてた

愛が怯えはじめてた たぶん心の奥のほう
僕ら終わりを見ないように
キスするふりをして ずっと目を瞑ってた

君の目に溢るものを 僕の手で触れてみても
どうして ねぇどうして 壊してしまうよ
君のいない悲しみも 君のいない幸せも
そんなものは見たくない

過去に変われない過去と 未来になれなかった未来
眩しくて切なくて見えないから
繋いだこの手と手が 命綱なんだよ

「まだここにいてね」
「まだここにいるよ」

君の目が映す明日と 僕の目が映す明日は
どこで ねぇどこで 違ってしまったの
雨が強くなってくよ 世界が滲んでいくよ
もうなんにも見えないや

またたくように去った いくつかの季節と願い
またねって瞳閉じて 愛に触れて
まばたきに閉じ込めた 永遠をなんて呼ぼう
またそれが動く 今日をなんて呼ぼう

君の目に溢るものを 僕の手で触れてみても
やっぱり ねぇやっぱり 止まらないんだよ
君のいない悲しみも 君のいない幸せも
もう見たくない だけど

僕の目に君はいるよ 今 僕の目に君はいるよ
確かに そう確かに 僕らが見えるよ
君の目に僕はいるかい 君の目に僕がいるなら
もうなんにも見なくていい
今から目を瞑ってよ

雨が一粒落ちてきた 君の懐かしい笑顔に




6.思い出のつづき


ページめくる
あとがきのない本を今閉じて
光る先を見る
泣き出しそうなほど 青い色をした空だった

桜 言いたかったこと 栞とその続き
夕暮れ 言えなかったこと 線香花火の永遠
枯れ葉 忘れちゃったこと 金木犀に誘われた手
「雪」「雪?」 思い出したこと 君が笑ったこと

思い出から君が消えたこと

忘れ物が指に残り続けている 約束だろう?
君が君を許せますように
落とし物が空に昇ってくよ 風船みたいに
どうか君が君を愛せますように

いつの日にも




7.ねがいごと


世界が眠った暗闇も 秘密のお祈りも
ずっと覚えてるから 夜空に線が走る
願いをひとつとなえる頃 君はもう忘れてるかな

流れ星の行き先が 君の元ならいいのにな、なんて思う
まじないをかけたよ きっと大丈夫なように
だから蓋をしよう 思い出に

「星が見えたら何を願おっか」
「言いたかったの。月が綺麗、って」
「ずっと、ずっと待ってたんだよ」
「名前で呼ぶの、慣れるかな」
「ねぇ、今度はどこに行こうか?」
「死ぬまでこんな風にいたいな」
「もう来ないでよ」
「今日見えるらしいよ」
「来年もまた一緒に、」

叶わない未来も 悲しい結末も
目を瞑るように 君は祈ってたね
願いをふたつとなえる頃 君はまだ泣いてるかな

僕みたいに

「星が見えたら何を願おうか」
「今もこっちは月が綺麗で」
「ずっと、ずっと待っているから」
「名前で呼ぶの、最後だね」
愛しい幻が遠のいて
まつげに朝が乗っかる頃
きっと君が夢を盗んでく
一粒の涙を残して

綺麗すぎた君の思い出も 最後の約束も
ずっと覚えてるから そっと忘れてね
君のいない街で 僕も朝を迎えるよ
願いをみっつとなえる頃
君は幸せでいるかな

「幸せでいますように」




コトハ「願いをみっつとなえる頃」各種配信
https://big-up.style/bmu2YSGNrt

※このアルバムは昨年リリースしたものをリマスタリングし再配信したものになります

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