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認知的不協和を超えて|失敗の科学

2021年最初に読んだ本は、マシュー・サイド著「失敗の科学」であった。

本書では、航空業界、医療業界、法曹界、ソフトウェア開発業界など、様々な業界における「失敗」事例が紹介される。そして、各業界・組織が、如何にして失敗から学んだか?あるいは、学べなかったか?それはなぜか?などを紐解いていく。実事例を起点として、ストーリーに沿って理論の説明や筆者の主張が展開されるため、非常にわかりやすく、リアリティと説得力のある内容となっている。

ここでは、本書の重要なキーワードである「認知的不協和」についてまとめておきたい。

認知的不協和

失敗から学習できない原因として「失敗をなかなか認められない」という人間の心理がある。その理由の多くが、社会心理学の用語で「認知的不協和」に陥っている。一言でいうと、自らの信念と反する事実が生じた場合、その事実によって自尊心が脅かされ、苦痛を感じることである。

卑近な例で言えば、自分で購入した高価な商品に関して、ある欠点が見えてしまった際に、自身の判断を疑ってしまうような状態のことである(悪い買い物かもしれない・・)。この場合、この「認知的不協和」を解消するため、無意識のうちに、自分の判断を正当化するための情報を集めてしまう。

多くの人間は自分自身が有能で筋の通った判断ができると考えているため、自分自身の信念を否定して、その新たな事実を受け入れることは容易ではない。なぜなら、人は、自分自身の無能さをなかなか認められないからである。

また、自分自身が認知的不協和に陥っていることに気づくことは非常に難しいことが知られている。そのため、「無意識的に」自身の信念と沿うように事実の解釈を曲げ、非合理な判断を下し、自己正当化に走ってしまうのである。つまり、無意識のうちに解釈を曲げているとも非合理とも思わず、正当な判断と信じ込んでしまうようだ。

この認知的不協和が、失敗からの学習を阻む、主要な心理的な原因である。

認知的不協和が起きやすい状況と立場

認知的不協和は、自尊心を脅かす可能性があれば、業界や立場に関係なくおきうる心理状況である。ただし、ある行動や判断のために費やしたコスト、努力などが大きければ大きいほど、その行動や判断が失敗であったことを認めることは困難となるそうだ。また、組織の上層部に行けば行くほど、社会的地位が高いほど、顕著となり、失敗を認めにくくなってしまうという。

これは、自尊心への脅威が大きくなることに起因する。失敗によって失うものが大きい状況や立場になればなるほど、自尊心への脅威が大きくなってしまうのだ。自尊心が失敗から学ぶことを妨げてしまうのである。

認知的不協和に陥らず、失敗から学びを得る方法

本書では、失敗から学ぶことで成功に近づく、という事例(リーンスタートアップにおけるMVPの考え方や、ツールドフランスや F1におけるマージナルゲインによる優勝事例)を多数挙げている。読者に対して、失敗から学ぶことの恩恵や効能そして実績を説明することで、認知的不協和に陥らずに失敗から学ぶべき理由を説いている。

しかしながら、認知的不協和は無意識的に起こることが多いため、自覚するのは容易ではない。そこで、本書の終章では、そもそも失敗を正しく認識できる仕組み作りの一環として、データ(客観性)にもとづいたフィードバック(学習)の重要性を述べている。

客観情報をもとに、自分自身の判断や行動の是非を評価し、失敗から(認知的不協和から生ずる自己正当化のための解釈ではなく)意味のあるフィードバックを得られるようにする必要がある。

また、同時に、客観情報に基づいていない、感情に任せた、失敗に対する「早計な非難」は害悪である。情報が隠蔽化され、適切なフィードバックがかからなくなるためだ。この点も考慮して、学習できる組織文化を構築する必要がある。

ということで、2021年は、noteを含め、まずはアウトプットする頻度を増やし(失敗する回数を増やし)、多くの客観的なフィードバックを糧に、判断力を養っていきたい。


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