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人肌が恋しくなる季節ってこういう意味でしょ


ふとした瞬間に孤独に噛みつかれる。

眠気が一気に覚めて、体を起こした。
夢も何も見てなかったはずなのに、心拍数だけ高く、
手先が震えて、ため息がこぼれた。

ふと隣を見ると規則正しい寝息を立てている彼。

自分の気持ちをあやすように、
彼のほおをさらさらと3回ほど撫でてはみたが、
口からこぼれたため息が諦めを物語っていた。

どうしてこうも、孤独を感じる瞬間があるのだろうか。
大好きな彼が隣にいて、友人たちとも順風満帆、
特に身内で不幸ごともなく、仕事だって、まぁぼちぼち。

彼を起こさないように、静かにベランダに出る。
日中はまだ少し暖かい時間もあるが、夜はやっぱり寒い。
冷え切った物干し竿を触り、
孤独をかき消すように冷たさを突き刺す。

凍りついているような空気を、意識して吸って吐いた。
眠たいを引きずっている体に、
この仕打ちが酷いことは分かっているが、
孤独を振り切りたいがために、息だけじゃなくて、頭も真っ白にしたかった。


そんな努力も虚しく、気分は戻らない。
ただ、ひたすらに悴んだ指さきに耐えられなくて、ベッドに戻る。

布団に入ると指先の冷えがじわじわと温められていった。
横になる前にもう一度彼の寝顔をさらさらと撫でた。
すると彼が私の手をぎゅっと掴む。
少し驚いて「起きてるの?」と聞くけれど彼から返事はない。

ぎゅっと固く結ばれた指先は布団より暖かく、
さっきまで私に噛み付いていた孤独はその暖かさにとけていった。



この時期になるとよく聞く「人肌が恋しい季節になりました」をショートショートショートストーリーにしてみました。

今回は孤独を取り上げてみたけれど、なんだっていい。単純に悲しくったって苦しくったっていい。自分でもわからない、ふとした瞬間に起こるネガティブな感情。

そのネガティブ感情がねちっこい時は涙だって出てきてしまう。どうして泣いているのかだって、どうしてこんなにつらいのかだってわからない。ただただすごくネガってだけ。

冬はふとした瞬間にこうなりがちなのではないだろうか。特に根拠はないけれど、あんな言葉が出てくるような季節なんだ。きっとこんな経験をしたことのある人だって、少なくないのではないだろうか。

お風呂だってお布団だってヒーターにだって変えられない。人肌の暖かさ。そんなほっこりした暖かさが、必要な季節になってくるね。

#冬
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#人肌
#恋しい
#季節

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