ChatGPTが最新言語モデルを採用した新バージョン、GPT-4をリリースした。
ネット上の噂では、これがかなり凄いらしい。従来のGPT-3.5と較べ、飛躍的に精度が向上しているという。
GPT-3.5に音楽関係の質問をすると、でたらめな答えや無難な回答しか返ってこなくて使い物にならなかった。しかしGPT-4ならいけるかもしれない。
ということで、「乗るしかない!このビッグウェイヴに!」の精神で、ChatGPTの有料会員登録をおこない、早速GPT-4を試してみた(2023年3月17日現在、GPT-4は有料会員のみにサービスを提供)。
GPT-4はガチの音楽評論を書けるのか?
まずは、GPT-3.5ではでたらめな回答しか返ってこなかった質問を幾つか訊いてみる。なるほど、確かに精度が向上している。わからないことはわからないと言うし、回答の正確さもアップしているようだ。
それならばと、まずは小手調べに以下のような質問をしてみた。
PGT-4の回答は以下の通り。
なるほど、ChatGPT特有の浅くて無難な内容にはなっているが、表現は菊地成孔を真似ようとした痕跡が見て取れる。事実関係で嘘もついていないようだ。
これはもしかしたら使えるかもしれない。そこで私は試してみることにした。GPT-4にガチの音楽評論は書けるのか? これが出来てしまったら、はっきり言って退屈な文章しか書けない世の中の9割の音楽ライターは不要になる。
GPT-4にブラーのアルバムレビューを書かせる特訓
今回私が設定したお題は、ブラー『Modern Life Is Rubbish』のアルバムレビューの執筆。
お題の選定理由は、
名盤と名高い作品なのでネット上にたくさんの情報がありそうだから(ChatGPTはネット上の情報を収集して回答を綴る)
自分もそれなりに聴いているアルバムなのでレビューの善し悪しを判断できそうだから
サマーソニックのヘッドライナーに決まっているので旬なお題だから
といったところ。
では、早速はじめてみよう。
なぜ菊地成孔の文体にこだわったかは自分でも謎。GPT-4の回答はこちら。
おお、やはりChatGPT特有のぼんやり感はあるけれど、そんなに悪くはない。これは期待できる。なので、このレビューのぼんやり感を払拭するため、いくつか追加質問をしてみた。
「風」は「変化の兆し」か、なるほど。次の質問。
出た、ChatGPT得意の箇条書き。でもわかりやすいし、回答もズレてはいない。次の質問。
またも回答は箇条書き。しかしこちらの要望どおり、かなり具体的に答えている。いいぞ。次の質問。
少し雑だが、大枠では間違っていない。悪くない。次の質問。
なるほど、なるほど・・・ん? それらしい口ぶりで書いているが、アルバムカバーにタワーブリッジとかユニオンジャックって描いてなくね? 裏ジャケとかインナースリーブに出てくるんだっけ? 微妙なのでツッコんでみる。
出た~、それらしい口ぶりで、堂々と大嘘ぶっこくやつ! これ、自分の知らない作品だったら信じちゃうよ。でも訂正後の回答はなかなかいい感じだ。
それなりに具体的になってきたので、改めてChatGPTにレビューを書いてもらった。
ふむ、最初よりだいぶよくなったのでは? もう少しだけ頑張ってみよう。
うーん、今度はシューゲイザーを強調し過ぎている。バランスが難しい。一旦そこは置いておき、別の箇所を修正しもらう。
うむ、この変更はいまいち。ChatGPTの無難さに偏る性分が悪い方向で出てしまっている。ここは諦めて、まとめに入ろう。
なぜ菊地成孔風に私はこだわるのだろうか・・・。
あれ、文章が急に短くなった。菊地成孔の真似もあまり面白くない。ここは軌道修正しておこう。ついでに気になっていた箇所の修正も入れておく。
あ、シューゲイザーの段落を丸ごと削りやがった。グランジの記述も消えているじゃないか。
もうこれ以上はドツボにハマりそうなので、ここからは簡単な修正だけを加えていく。
よし、わかってる奴が偉そうに書いている感じが出ていいぞ。
最後にやっぱり、どうしても気になる箇所の修正にもう一度挑戦してみる。
いや、ダメだな。もっと具体的な指示を与えた方がいいのかもしれない。
うん、これの方がいいんじゃないか? だいぶ良くなったと思うので、最後は人力でChatGPTが書いたレビューをまとめてみる(どの回答のどの部分を使って、どの回答のどの部分を削って、という指示が文章では難しそうだったので)。
最終的に出来上がったレビューは、以下のような感じだ。
いや、これはなかなか良いんじゃないだろうか? 少なくともファッション雑誌の音楽コーナーに載っているレビューより、よっぽどしっかりしているぞ。これは期待以上の出来だと言っていい。
ChatGPTは音楽ライターを駆逐する?
結論として、ChatGPTにはそこそこの音楽評論が書ける。ただし、質問を入力する者には対象作品に対する一定以上のリテラシーが求められる。ここが最大のネックだろう。
基本的にChatGPTを使う人は、自分がわからないことを訊くはずだ。あるアーティストや作品についてもっと知りたくて、ChatGPTに訊いてみる。でも、ただ訊くだけでは答えがぼんやりしていて、いまいち。それなりの回答を得たかったら、自分が対象のアーティストや作品に詳しくないといけない。なので、ググるような感覚では使えない。
現時点で考えられる使い方としては、音楽メディアの編集者がライターに原稿依頼する代わりに、ChatGPTをしごいて原稿を書かせるとか? しごくといっても、このブラーのレビューが完成するまでには1時間程度しかかっていない。ライターに原稿依頼するよりずっと効率的だろう。今のところ月20ドルの使用料はかかるが、いちいちライターに原稿料を支払うよりはよっぽど安上がりのはずだ。
しかし、この使い方にもネックがある。ChatGPTはリアルタイムの情報にはめっぽう弱い。最近の話を聞こうとすると、2021年6月までにネット上にアーカイブされている情報を基にしか答えられないと言ってくる。なので、マイリー・サイラスのアルバムが出たからと言って、そのレビューを書いてもらうことは不可能なのだ。
今回試したみたいに、過去の名盤の解説だったら既にChatGPTはそれなりのことができる。だが今すぐ音楽ライターにとって代わる存在になるかというと、それはあり得ない。
とは言え、GPT-3.5からGPT-4までのバージョンアップにかかった時間はわずか半年。このペースで進化が進めば、文章の精度はみるみるうちに向上し、リアルタイムの情報収集にも対応していくだろう。世の中の9割の音楽ライターが不要になるという未来も、現実的にあり得るのではないか。
AIが進化した未来に音楽ライターが求められるスキル
では、ChatGPTがきちんと音楽評論を書ける未来が到来したとき、人間の音楽ライターは何を求められるのか?
ChatGPTはネット上の情報を基に文章を生成する。その性質からして、まだこの世の中に存在しない視点から論評を書くことができない。
あなたが音楽を聴いて何を感じたのか?ーーそれはあなたという人間だけが感じることができる固有の体験だ。それをまだ世の中にアウトプットしていなければ、ChatGPTは決してあなたと同じ文章を書くことができない。
つまり、AIが進化した未来において、人間の音楽ライターは状況論の整理や海外メディアの論評のまとめは求められない。あなたがその音楽を聴いてどう感じたのか? を魅力的に記述することだけが求められる。それは、音楽評論がその原点に立ち返ることを意味するだろう。
AIの進化によって、音楽ライターは本当に意義のある、真にクリエイティブな仕事だけをすればよくなる。だがそうなったとき、「便利」だったり「役立つ」文章ではなく、人を魅了できる文章を書ける音楽ライターはどれだけいるだろうか?
結局のところ、世の中の9割の音楽ライターは駆逐されるのかもしれない。そう、(好き嫌いは別にして)あなたが菊地成孔みたいに妙に人を惹き引きつける文章を書けるようにならなければ。