善き人の為の最中

読書感想文と小話を書きます

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最近の記事

異国

肺腑を擦り抜ける夜風の冷たさが異国への到着を告げていた。 頭上を見ると、砂漠だった地の名残か、イヌサフランが敷き詰められた天井の紫が途絶える。半月が淡く照る夜空に覆われた。 荷物受け取り場で受け取った象牙色のキャリケースは、四輪のキャスターの一つが欠け、斜めに傾けたり持ち上げたり引きずった腕が痺れていた。 左右を見回しても大手配車サービスのアプリケーション上で待ち合わせる参考画像の車種が見当たらないうちに、何度目かの電話が鳴る。 大陸

    • 自販機

      不経済な夜だった。 日中の消費はきちんと予算通りの千五百円で済んだというのに。 日が沈んだ束の間に、節約気分が反転して、日中の予算に迫る額まで既に使い込んでいる。 本日、最後の用事を済ませようと、普段利用する立派な駅から数分の距離のある路傍の駅に向かう。 道中、空きっ腹の補充にちょうど五百円の丼を啜って、昼の予算を超過していた。 近距離といえど旅の支度を整えて出発した。 今時めずらしく切符を買って、一時間に三、四本しか訪れない列車にようやく乗る。

      • いちスポーツ記者の涙の成長譚

        もっと自分の仕事に真剣に向き合え 気が緩む時に、Youtubeの自動再生で何気なくながれた落合監督の言葉 透徹な響き、そこにおらずとも威力を失わない雰囲気はどこからくるのか 監督が退任したのは10年前の今日 (2011年10月30日) "穏やかな陽光の" 秋暮れのことで、背筋を正すべく読み始めた この本は、落合さんという人間像をもとに、いちスポーツ記者の物語が展開されていく 記者の界隈で疎まれていたオチアイと、いち若手記者の出会い 時にオチアイの琴線に触れる言葉を発