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ぼくは植物がこわい

 ぼくは植物がこわい。
 なぜといえば、見せかけは静的なのに、その内部に、燃え舐める炎みたいな得体の知れない生命力を蠢かせているから。たとえば駐車場のアスファルトを突き破って綿毛を風に揺らす埃まみれのタンポポ。日照を追って首をまわす向日葵の花群。街路樹の切り株に寄生する野芥子。除草剤を撒けども撒けども執拗に生えさばらえる雑草。とうに土から切り離されているのに冷蔵庫の奥で息づき、徐々に黒く変色していくレタス。ぜんぶがこわい。

 植物のおそろしさを思い知ったのは、学生時代、田舎から送られてきた段ボール箱の中身をふと覗いたときだった。中には、大量のじゃがいもが入っていたのだけれど、数ヶ月くらい部屋の隅で放置されていたせいで、芽が出てしまっていた。それを目の当たりにしたときの衝撃。それまで、収穫された野菜はいわば死体であると思い込んでいたぼくは、段ボールの暗がりで、数ヶ月かけて、ひそやかに芽ぶくその死体の生命力におぞけが立った。

 サイコパス。植物は究極のサイコパスだ。

 それ以来、ぼくはずっと植物がこわい。
 今日もまた食卓でぼくは身震いする。手にした茶碗のなかでは、炊きたてのお米の一粒一粒が美味しそうな匂いを立ててふっくらと微笑んでいる。


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