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七色のポエジー(書きとめておきたい古今東西の詩句)

第303回 藤の花ぶさ(正岡子規)

瓶(かめ)にさす藤の花ぶさみじかければたたみの上にとどかざりけり
 
 明治の文人、正岡子規(本名は常規、1867~1902)が死の前年に作った一首。『墨汁一滴』に掲載された10首の冒頭歌。病床にあった子規の視線は、花房の先端が畳に届いていないのを捉える。このありのままを写生した歌が人の心を打つのは、<とどかざりけり>という表現が、死期を暗示して何とも切ないからだろう。
 正岡は愛媛県の松山藩士の長男に生まれた。1883年、松山中学を退学し、上京する。旧藩主家の給費生となり、東大予備門から帝国大学に進学した。予備門の同級に夏目漱石や南方熊楠がいた。この頃から俳句を始め、子規と号する。
 子規は大学を中退し、新聞『日本』の記者になった。これを文芸活動の拠点とし、俳句の革新運動を始める。
 日清戦争が勃発すると従軍記者として遼東半島に渡った。そこで肺結核に罹り、亡くなるまで数年間の闘病生活を送ることになる。


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