【読書感想文】舞姫/森鴎外

恥ずかしながら、30歳も超えたいい大人が初見。
青空文庫で読もうと思ったら文語体の難解さに一行で挫折したので、現代語訳してくださっている記事を拝読しました。
ありがとうございます<(_ _)>

率直な感想は
「え、これで終わり!?」
豊太郎の苦難の冒険はこれからだ!!
というアオリが空目で見えるような、打ち切り漫画の最後のような終わりに唖然としました。

でも、この最後を読み終わってから冒頭に戻って心を支配されている「恨み」について語る文章を読むと


誰も知らない深い恨みに頭を悩ませているからだ。
この恨みは初めは一抹の雲のように心をかすめ、そのせいで、スイスの山景色が目に入らず、イタリアの遺跡に心をとどめもしなかった。中頃になると、世の中に嫌気がさし、自分の身をはかなみ、内臓が日に何度もひっくりかえるようなひどい痛みを感じた。今は、心の奥に凝り固まり、一点の影だけとなっている。だが、文ふみを読むたびに、物を見るたびに、鏡に映る影や声に応じる響きのように懐かしむ気持ちが際限なく呼び起こされ、何度となく私の心を苦しめる。

https://note.com/onoken_nobelles/n/n8369d1eda676?magazine_key=m05eb9bea7b2d


ああ、どうすればこの恨みを消せるのか。もし他の恨みだったら、詩にしたり、歌に詠めば、そのあとはすがすがしい心地になるだろう。この恨みはあまりに心の奥深くに刻み込まれているので無駄かもしれない

https://note.com/onoken_nobelles/n/n8369d1eda676?magazine_key=m05eb9bea7b2d

あー、察し。

そりゃ恨むわ。
「怨む」のではなく、悔恨の「恨む」なの察し。

うちの高校は現代文で舞姫は取り扱わなかったので、私の中の舞姫情報は
「エリート官僚が留学して、娼婦と恋に落ちて、子どもができたけど置いて帰った話」

教科書に載せるような話ではないのではー!?と勝手に思って、何なら今日まで嫌悪感すら抱いていたけれど。

親に支配されて自分を確立できなかった男が「判断」を見誤った悲劇

で、モラトリアム期間真っ盛りの高校生が早めに気づいておくべき問題なのかもしれないと思いました。

「親の言うことを聞きすぎて自分が何をしたいのか分からない」って身に覚えある人は少なくないのでは。

私もそうだった。
これね、とても困るんですよ。人生の判断を求められる時、特に。
・進学
・就職
しなきゃいけないけど、何がしたいのか自分で分からないから決められない。

で、親に助言を請うのだけれども。

親は「自分で考えて決めなさい」って言うけど、それは建前で。
親には親なりのプランがあるのね。
だからそれから外れたことをしようとすると怒る。

私は京都の大学に進学して、就職も関西でしようと思って内定までとって。
内定決まったことを報告したらひどい剣幕で怒られて。
で、地元で就職活動しなおしました。

私の場合は私一人の問題だったからまぁ何てことはなかったんだけど。
これが他人の人生が絡むと面倒なことになるよなぁ・・・と思った。

「豊太郎はクズ」っていうレッテルが貼られていることが多いけれど
本文だけを読んだ感じ、甲斐性はないけれどクズだとは思わなかった。偉い人に言われたら逆らえない気持ちも分かるし、決まってしまったことを言い出せないのも分かる。
(多分、これを読む前に人間失格を読んだのが悪い。あいつにクズ男度ではかなわない。)

相沢くんという友達が悪いのかといえば、私はそうではないと思う。
彼は友達を助けようとしてくれただけだし、あの時代の男性の価値観でエリスちゃんたちを見殺しにしなかったのはむしろ紳士。

じゃぁエリスが悪いのか。それも違う。
最初は父親の葬儀のお金を見ず知らずのお人よしな日本人にたかる女で嫌な感じだったけど。彼女は純粋に豊太郎を愛して、身ごもることも覚悟して、出産を心待ちにしてた。男性が理想とする女の子っていう描き方で女子目線から読むと若干癪だけど。

豊太郎の恋愛事情をお偉いさんにチクった奴らが悪いのか。
悪いっちゃ悪いけど、あーゆー奴はどこにでもいる。必ずいる。し、奴らにとってはそれが正義だったりする。
豊太郎側にも落ち度はあるし、それをはねのける立ち振る舞いできなかったのは事実。

結局、誰が悪いって話ではない。

皆悪いし、皆仕方ない。
精いっぱい生きた結果の悲劇。

私が大好きで大嫌いな太宰は「幸せ」について斜陽という作品でこう書いてた。

幸福感というものは、悲哀の川の底に沈んで、幽かに光っている砂金のようなものではなかろうか

https://www.aozora.gr.jp/cards/000035/files/1565_8559.html

舞姫は、この砂金に手を伸ばして掬おうとしながら流された人たちのお話で、時代や舞台は違えど誰の身の上にも起こりうる話なんじゃないかな、などと。

今の私はそう感じました。
豊太郎、あんたは悪くないよ。いや、悪いんだけど。仕方なかったんよ。せいぜい苦しんでできることをしなよ。


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