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あの夏の島の苦しい潮の香り

盛岡で生まれ育ったわたしにとって
台風は「いつもよりちょっと強い雨風」
くらいの存在でしかなかった。

大阪で過ごした大学時代
ニュースでは盛んに
今、迫ったきている台風について報じていたけれど
いつものように準備をして
原付は無理だから
さすがにバスで
キャンパスに向かった。

キャンパスはがらんとしていたけど
みんな雨だからズル休みかなくらいにしか思わず
朝イチの講義が行われる教室に向かう。

ところが教室も、
がらん…

待てど暮らせど
講義の開始時刻になっても
教授すら来ない。

はて…??

当時、山奥にある私たちのキャンパスで
唯一アンテナが立った
J-Phoneを取り出し
クラスメートにメールする。

「今日の一限、休講だっけ?」

即座にアッコから電話がかかってきた。
「miche、一限ゆうか
今日は台風で休講やで!」
「え?台風だと休講なの?」
「だって警報出てるやん!」
「え?警報出たら休講なの?」
岩手では台風で警報が出ることなんてなかったから
台風で学校がお休みになるなんて
考えてみたこともなかったのだ。

姉御肌のアッコに
「はよはよ!バスが動いてるうちに
はよ帰り〜」」
と促され、
キノコ傘を作りながら帰宅した。

大学時代の大阪と
社会人になってからの東京で
台風だとベランダの物が飛ばされたり
電車が止まったりするらしい
ということをようやく学んだ。

子どもの頃は
三陸沖の地震が多かったから
学校でも火事や地震の避難訓練はしたけれど
大人になってしまうと
その地域特有の災害について
学ぶ機会ってないよなあ
と思う。

ともかく
台風の季節になると
あの静かなキャンパスに
ずぶ濡れになりながら行ったあの日のことを
思い出す。

私の胸の奥に生まれた台風が
シーツの海を吹いてゆくの
哀しくてこわいからあなたを離さないわ
もう すぐに外はタイフーン

TYPHOON

TYPHOON
作詞:松任谷由実
作曲:松任谷由実

『VOYAGER』 1983/12/1



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