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孤独のドアを叩き合いはしない

20代、30代は
毎晩のように六本木へ
サルサを踊りに行っていた。

一晩で数えきれない人と踊るのだけれど
その中の一人と仲よくなって
お付き合いをするようになった。

彼は医療系SEで
1年の3分の2はクライアント先病院に出張していた。
当時、同じ会社に勤めていた先輩社員
アリちゃんからは「マグロ漁船の船長」から
「マグロくん」と呼ばれていたほど
とにかく、忙しい人だった。

たまに東京へ戻ることがあれば
「今夜会える?」と携帯メールが届き
一晩だけのデートをすると
また翌朝には出張先に戻っていく、
そんな人だった。

が、
あるときいつものクラブで踊っていると
彼によく似た人影が。
女性と一緒にいたその人影は
一瞬わたしが目が合ったと思ったときには
すでに暗闇に姿を消していた。

またあるときには
いつも踊りに行っているクラブの同じく常連さんが
「昨日、彼が来てたよ。女性といっしょに…」
なんて教えてくれた。

クラブのスタッフとも仲よしだったので
聞くと、彼はわたしのいない日に
他の女性とたびたび訪れているらしい。
福岡に出張中であるはずの彼が。

はじめは思い違いかと思ったけれど
自分の目だけでなく
数々の目撃情報が寄せられるにつれ
全貌を理解するに至った。

夜な夜な
彼の影を探して
六本木に繰り出した。

そのうちに
他の女性と一緒にいる
彼の影をたびたび見かけるうちに
頭だけでなく心も納得して離れることができた。

心はぐちゃぐちゃだった。

ただ、今思うことは
彼に出会う前から
わたしの心はぐちゃぐちゃだった。
わたしが自分で彼を引き寄せただけだった。

若くて愚かで貴重な時間。

私を置いてゆくのならせめて
みんな持ち去って
あなたが運んでくれた全てを
私のことを傷つけてつらいと
ひとに云わないで
すぐにすぐに忘れてしまうのに

NIGHT WALKER

NIGHT WALKER
作詞:松任谷由実
作曲:松任谷由実

『REINCARNATION』 1983/2/21

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