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下半身不随犬マールの軌跡※前編

■2014年03月20日


宮崎県の「保護犬情報」HPに掲載された
一匹の捕獲犬。
その犬の写真を目にした瞬間、
心が激しく揺さぶられた。

だけど…

その犬が収容されてる場所は、
往復4時間の距離にある
「日向動物保護管理所」

2014年当時の「いのちのはうす保護家」は、
私一人(平日)で、犬猫のお世話にあたっていました。

今、その収容犬に会いに行くべきなのか?
今、そんな無責任なことして良いのか?

自責の念に駆られながらも、
往復4時間…施設の子達のお世話を放棄してでも、
その犬に会いに行く事を選んだ。
その犬にとっての「今日」は、
「生」がかかった運命の日…。
何の根拠もないけど、
そう思えてならなかったから…

こうして…
「日向動物保護管理所」で対面したその犬は、
背骨がバッキリ折れてるのが
素人目でも分かるほどだった。

4日間、何も食べない、水も飲まない状態で、
尿も便も数日間出ていないとの事…。

このままでは脱水か尿毒症で死んでしまう!
間に合ってよかった!
今日行って良かった!

上半身を起こす事すら出来ない…
そんな状態であっても、
この犬は力強い目で「生きたい!」
そうはっきりと望んでいた。

と同時に、私もこの犬に生きて欲しいと願った。
決して同情や哀れみではなく、
2人の意見が合致=レスキュー
自然な流れだったと思う。

レントゲン写真で確認すると、
背骨が真っ二つに折れ、
大きくずれていました。
背骨は、脊髄に突き刺さっている状態で
「下半身不随」
だけど、譲渡の道が閉ざされたわけじゃない!
私の元から卒業できる日が必ず来る!
どこから湧いてくる自信なのか
不思議と絶望感はなかった。

■命名「マール」誕生 

マールとの生活が一週間を過ぎた辺りから
ようやく我を出すようになった。
犬猫の姿が見えると、怒って吠えたり、
「敷物の素材が気に入らない!」と、
びりびり咬みちぎって抗議したり、
「寝かせてる場所が気に入らない!」と、
唸って場所移動を要求したり、
マールは、神経質で自己主張強い性格だった。

上半身すら起こせないため
床擦れ防止の体位交換が必要でしたが…
わずか数日で上半身を起こせるまでに回復!!
下半身麻痺も、いつか治るのでは…?
希望を感じた瞬間だった。

実は…犬の「圧迫排尿」は、
マールが初めての経験だった。
「ヘタクソでごめんね」謝りながら、
時間をかけての圧迫排尿の日々。
だけど私は…
マールとの時間に幸せを感じていた。
「生きててくれてありがとう…」
こうして生きてる事が奇跡のように感じ、
マールには感謝しかなかった。
肝心なマール本人はどう思ってるのか…?
自信はなかったけど…

■自宅を出て保護施設へ


2014年当時の私は、自宅から施設を
往復2時間かけて通っていた。
マールを自宅に置いたまま…

日を重ねるごとに、
マールは後追いするようになった。
「母ちゃん…行かないで!」

自宅より施設での滞在時間が長いため、
マールの保護場所を
施設に移すことを決心した。

ボランティアさん達も
「圧迫排尿」を覚えてくれて、
マールはすっかり保護施設の一員に。

半身不随でも、
立てるようになるかもしれない!
歩くかもしれない!

安静期間を終えたマールの
リハビリがスタートしたが、
マールから伝わるのは
「やる気の無さ」「やらされてる感」
リハビリは無意味なのでは?
違和感が付きまとった。

マールは、野生で育った犬ではない。
狩らなくてもご飯も食べれてきた。
逃げなくても殺られる事もなかった。
環境や本能の違いだろうか…
マールは、多少の不自由さを感じているものの、
「立つ」「歩く」事を
望んでいないように感じた。

今の姿のまま、今を生きようとしている…?
そんな風に感じた。
それが犬猫の強さなのだろうけど…

北海道の技師さんに来て頂き、
リハビリ歩行用の車椅子を特注。
運営資金がギリギリな中での40万円は
本当に死ぬ思いだったけど、
マールが歩けるようになるなら…と、
1%の可能性に賭けるしかなかった。
ほんのわずかでも神経が戻れば
筋力でカバーして歩けるのでは?…と。

残念ながら…
どんなにリハビリを続けても
マールの神経が戻る日はこなかった。


リハビリを諦めるには
かなりの勇気が要った…。
多額の費用だけではなく、
今まで費やした時間を否定するのだから…
これまでのマールの頑張りを
なかった事にするのだから…
ただただ、悔し泣きするしかなかった。

だけど…当の本人、
マールだけは嬉しそうだった。

そうか…なるほどね!
自分の意志関係なく歩行器に乗せられ、
監視のようにずっと見張られ、
あくまでリハビリ用の歩行器だから、
小回りが利かず自由に歩けない。
体を拘束されながらのリハビリ運動。
手から伝わる緊張感。

マールにとっては楽しくない時間であり、
プレッシャーだったんだろうな…
最初に感じたマールの「違和感」を
なんでスルーしたのか!
全ては自分の不甲斐なさが生んだ結果に
マールに申し訳ない事をした…
ごめん。


■普通の犬じゃない?!


マールは特に、ボランティアのi君が大好きで、
毎朝、i君が来ると大喜びではしゃいでた。
マールの目線の先には、いつもi君が居た。

そんなある夜…
圧迫排尿中に大量の血尿!
避妊手術を控えてたこともあり、
子宮蓄膿症」が頭をよぎった。

私が身動きが取れないため、
一緒に作業してたi君に託すしかなかった。
「i君!マールを病院に連れて行って!」
i君から返ってきた言葉は…
「今から彼女とデートだから、明日じゃダメ?」
カチンときてi君を罵倒ものの、
i君がやっと掴みかけた幸せだからな…と、
予定を蹴ってマールを病院に緊急搬送した。

重症化した子宮蓄膿症。
緊急オペとなった。
「今夜連れてこなければ死んでたよ…」
獣医さんの言葉に血の気が引く思いだった。

術後、施設に帰ってきたマールは、
あんなに大好きだったi君を見ても
喜ぶどころか、視線すら合わそうとしなくなった。
まるで、そこにi君が居ないかのように…
あのとき病院に連れて行かなかった…
それだけで?
その姿はまるで、
「100年の恋が冷めた女子」に見えた。

このときはじめて「マール」という犬は
普通の犬ではない事に気付きはじめた。


■譲渡への道のり


マールは、人間に絶対的な信頼を持っていた。
人間に危害を加えることは一切なく、
「おとなしくて穏やかな子」
マールを知らない人達から
そう言ってもらえてたが、実は…
マールにはもうひとつの顔があった。

マールは犬と猫が大嫌い!
それが子犬だろうが老犬だろうが
容赦なく牙を向ける。
そこには一切の躊躇もなく、
下半身を引きずりながら飛びかかる程の
気性の荒さだった。

だけど…
「下半身麻痺」の犬にだけは優しかった。

同じ境遇の子達の痛みが分かるのか?
「下半身麻痺」の犬たちを尊重する心が
マールから感じた。

強そうな体の大きい下半身麻痺の犬たちも、
マールの前では子犬のようだった。
下半身麻痺の犬たちは、マールの姿が見えなくなると
分離不安でパニックになる。

下半身麻痺の犬たちがここまで慕う
マールの存在とはいったい…?
不思議でならなかった。

歩行器から車椅子に乗り換えたマールは、
心底お散歩を楽しめるようになった。
いつか、マールの足である車椅子と一緒に
施設を卒業する日が来るかもしれない!
私たちは、マールの未来を信じた!

マールは、譲渡会に何度も参加した。
障害犬=かわいそう
障害犬=飼うのは難しい

これらを失くしていきたいと思ったから。

障害関係なくマールは可愛い!
歩けないだけで、普通の犬と何ら変わらない!

多くの人にマールの良さに触れて頂き、
譲渡につながれば!
そんな思いだったけど…

マールに向けられる「偏見」は、
決してゼロではなかった。


かわいそう…と、マールを見て泣かれたり、
「見世物小屋」扱いだと怒られたり、
障害犬を連れまわして不愉快だと言われたり、
良い事ばかりではなかった。

それでもマールを譲渡会メンバーから
外さなかったのは、
「マールの譲渡を諦めない!」
強い信念…だったのかな?

■マールから嫌われた日


そんな中…
ようやく譲渡が決まった!
…のは、マールではなく
マールの下半身麻痺の相棒
「よっちゃん」の方だった。

よっちゃんは、マールレスキュー一年後に
同管理所からレスキューしてた子だった。

マールの倍はある体の大型犬で、
よっちゃんの譲渡の道は厳しいだろうな~
半ばあきらめてたのに、
わずか一年で良縁を掴んだよっちゃん!

よっちゃん、保護家卒業の日、
マールも、車までお見送り。

よっちゃんを乗せた私の車が見えなくなるまで
ずっとずーっと、目で追っていたそう。
マールの心中は…
「よっちゃんをどこに連れていくの?」
だったのかもしれない

マールがうちに来たこの2年間、
多くの犬たちを見送ってきたマールだけど、
私達同様、マールにとってよっちゃんは、
「ずっと一緒にいるのが当たり前」
よっちゃんは、特別な存在だったのかな…

そのよっちゃんが、待てど暮らせど帰って来ず…
「母ちゃん!よっちゃんをどこにやったの?」
マールは、よっちゃん卒業の日から、
あの日よっちゃんを見送ったメンバー4人全員に
心を閉ざしてしまった…

お見送りの日、不在だったメンバーには、
いつものマールなのに、
私達4人には、目も合わせくなった…

そう…
マールの病院を断ったi君への対応が
ガラリと変わった
2年前のあの頃と同じように…

「母ちゃん達がよっちゃんを捨てた!
次は私を捨てるんでしょう?」

マールは、私にそう言った。
何度も「譲渡」の事を言って聞かせるけど、
マールにはなかなか伝わらず、
心を閉ざす日が続いた…。

今まで譲渡した先に出向き
ケアに行く事は多々あった。
環境が変わり、戸惑いを隠せない犬達に、
ここがあなたの家だと、家族だと、
安心させるために…。
居残り組の心のケアなんて、
私にとっては初めての経験。
よっちゃんの譲渡先に事情を話し、
マールをよっちゃんのお家に連れて行った。

よっちゃんを決して捨てたんじゃないって事、
よっちゃんは幸せになってる事、
マールに見せて証明したかったから。

よっちゃんは、マールとの再会に大喜び♪
問題のマールはというと、
再会に喜ぶわけでもなく…
「あら、よっちゃん居たのね?
捨てられてなかったのね?」

マールらしいツンデレ対応だった。

でも、納得はしたようで、誤解は解けたようで、
この日を境に以前のマールに戻った!

ツラツラ淡々と書いている文章だけど…
実は、私が一番、
心にダメージを負う形で終わった。

マールから信頼されていなかった事に
ただただ、ショックだったな…。

だけど、よっちゃんの「譲渡」は、
保健所にも私達にも、そしてマールにも、
「希望」を与えてもらった出来事だった。

…にしても、
この「マール」という犬は
いったい何者なんだ???

完全に人の心を見透かす能力がある。
その反面、思い込みも激しい。
自分がそう思ったら、
一切聞く耳もたない頑固さ。
凄いけど凄くない。
マールって…何者なんだろう?

マールの軌跡の物語は、
多くのことがありすぎて
一回の記事では収まらないので、
後編に分けて書きたいと思います。

後半記事の公開日は未定ですが、
またこのblogにたどり着いて頂けますように…

いつか必ず
マールの全てを書きます。

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