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さようなら…マール!※後編

↓ 前編はこちらから ↓

▼(1) 2020年8月

下半身不随「マール」とは
6年の付き合いになった。
ご縁が繋がることなく
あっという間に6年が経過…


▼(2)「半身麻痺」個々の異なり


お尻を引きずりながら移動(歩行)するため
膀胱炎の繰り返しだった。
サプリメントを服用しつつ、
悪化したときは病院の処方薬に切り替えながら
管理してきたが…
薬の服用を続けると薬がどんどん効かなくなり、
年々強い薬へ変わっていく…
いずれ効く薬がなくなるだろうと危機感はあった。

そして、
いつかこの日がくるだろうと覚悟はしていたが…

最後の砦に達してしまった

膀胱にバルーンカテーテルを入れる手術…
カテーテルでおしっこを抜いて膀胱洗浄をする方法。
この判断が正しかったのかは
正直自信がなかったけど…

一切暴れることなく
静かに身を任せたマールの姿が
「答え」のように感じた。


▼(3)バルーンカテーテル手術後1ヶ月

いつものように仲良しの「しげる」と
キャッキャッとはしゃぎまわったとき
バルーンカテーテルがずれて肺を圧迫!
呼吸困難の状態に!

直ぐに病院で処置してもらい
命に別状はなかったが…

あの日体験した苦しさは、
マールの中で「恐怖心」として残った。

​​【 ワイワイキャッキャ楽しくはしゃぐ 】
↓ ↓ ↓ ↓
​【 すっごく苦しくなる 】


あの日を境に
楽しそうにはしゃぐマールの姿は
すっかり消えてしまった…

あんなに大好きだったお散歩すら
拒絶するようになったマール。

確かに…
安静にしてればバルーンもズレないけど、
そんなマールに、私は苛立っていた。
「犬」ではなく「マール」という
人物(犬物?)を知ってるから…

《​​そりゃあ~1日中おとなしくしてれば安全でしょうよ!​
でもね、マール!あんたそれで良いの?!
一生、楽しい感情に蓋をするの?!
バルーンがズレると確かに苦しいだろうけど、
一生、死んだような顔で生きてくつもり?!
はぁ~…!つまらん人生やねっ!!​​》

少しでもモチベーションが上がれば…と、
毎日マールに言い続けた。

マールに思い出して欲しかったから!
負の感情記憶に勝ってほしかったから!
ヒャッホーイ!しながら車椅子で走ってた
あのときの楽しい感情を…

来るかもしれない?来ないかもしれない?
分からない未来に怯えながらの
安心安全な生き方なんて
マールに選んでほしくなかった!

マールという犬は繊細で気難しい性格。
無理矢理外に連れ出すと逆効果。
好きだった散歩を嫌いにさせるだけだろう…

ある日ふと思った。
私がマールのモチベーションあげるのは
不可能じゃないか?…って。
私とマールの関係性じゃムリだなって…。

マールのモチベーションを
上げられるのは私じゃない!
ボランティアさん達が適任だ!…と。
優しい声でマールをヨイショするみんな!
みんなマールの甘やかしが上手い!

マールの幸せそうに甘えた顔…
私には引き出せないマールの一面だ…。


▼(4)飴と鞭作戦。


私が「ムチ」役、
ボランティアさん達が「アメ」役、
それぞれの役割に徹すると
効果は直ぐに表れた!
お散歩を催促するマールの姿も
ワイワイキャッキャ嬉しい感情表情も
どんどん出すようになった。
​それでこそマールっ!!​


先程書いた「マールと私の関係性」について
詳しく説明します。
マールは私に甘えることがありません。
私が嫌いだから…ではなく、
マールと私の関係性の間に
好き嫌いの感情は存在しないのです。

大げさに言えば「一心同体」なのかもしれません。
マールの体と私の体は連動しています。
マールが膀胱炎になると、私も膀胱炎になっていました。
マールがお腹を壊すと、私もお腹を壊していました。

マールが自分の苦しみや痛みを私に伝えるため???
病気に気付いてもらうために???
非科学的で説明しようがないのですが…
※耳の不調を訴えてきたときのマール。
このときも、私は突発性難聴を発症。
マールといつも病気がリンクしてました。

マールは、私に甘えないと書きましたが、
本当に困ったときだけは、
私の目をジーっと見て
側から離れなくなります。

※その場に私が居ないと、部屋中を荒らしたり
扉を破壊してでも、私を探してまわります。

マールが私に求めているものが「強さ」…だから。
堂々とした私の姿、声、オーラ(?)で
マール自身も安心できてたんだな…って。
私の役目はココだったんだ…って
あらためて気付きましたね…。

※嫌いな薬の服用の際も、従順に応じてくれるマール。


▼(5)閉ざされた譲渡の道

2020年の8月、マールの体に異物である
バルーンカテーテルが入った時点で
譲渡の道は閉ざされた。
いいえ…
生きるだけで精一杯の日々だった。
1年生きれば良い方だろう…と。

それでも私たちは
2020年8月のあの日、
バルーンカテーテルの手術を選択した。
マールが生きるために、
生き抜くためには、
それしか選択肢がなかったから…

※私は、マールの人生を背負った。
最期は私が看取ろうと…

2023年3月…
マールをレスキューして9年目に入った。
すっかり老犬になったマール…

最期は老衰で看取りたいな…
そう思っていた矢先
「家族として迎え入れたい」
マールの譲渡希望者が現れたが
私は半信半疑だった。
なぜならこの9年間、
「転職したらマールを…」
「引っ越したらマールを…」

何度も何度も声が上がりながらも、
誰ひとりとしてマールを迎えに来なかったから。

どうせ今回も『考えてるだけ』の人だろうと、
「なぜ、マールなんですか?」
断る気満々で話かけると
「…自分でも分かんないんです」
この言葉を聞いた瞬間、
マールにはこの人しかいない!!
大事なマールをこの人に託したい!!

そう強く思えた。

「わかんない」は、
あきらかに不利になる答えなのに、
耳障りの良い返答なんて
いくらでもできたはずなのに、
この人は正直に答えてくれた!
嘘偽りのない言葉に
信用できると思えた!
だって…
過去の私もそうだったから。

※管理所のマールをレスキューしたことに
特別な理由なんてなかった。

前編でも書いたけど、
マールは普通の犬ではない。
「譲渡」はマール自身が引き寄せた
運命なのだろうか…?
なんて思いながら
譲渡先の住所を聞いたとき、
それは確信に変わった。

マールが行くお家は、
マールが捕獲された場所と
目と鼻の先だったから…。

マールは、山から高速道路に迷い込み、
料金所付近で車に轢かれてしまった…
目撃した守衛さんが安全な場所に移動し、
三日間そこで見てくれてたが、
ご飯も食べない、立たない…

これ以上どうすることもできないと、
動物保護管理所に連絡したそう…。
あのとき、
守衛さんが安全な場所に移動させなかったら、
動物保護管理所に通報しなかったら、
マールとの出会いはおろか
二次被害に遭って死ぬか、
衰弱死してただろう…

マールにとってあの場所は
思い出したくもないはずなのに、
マールは帰りたかったんだろうな…
自分が生まれ育った故郷に…

▼(6)マールの帰る場所


マール卒業の日。
マールと譲渡先に向かう道中
私は良からぬことを考えていた。
やはり譲渡はお断りします…と、
マールを連れて帰りたいな…

自分本位の淋しさから
最低な衝動に駆られてる自分がいた。

譲渡先のお家に着いても
断る理由を探してる自分がいた。
悪く言えば「粗探し」
だけど、何一つ見つからない…

環境も、先住犬達も、ご夫婦も、マールも、
何一つ断る理由が見つからない。
何一つ「粗」が見えない…
私は何てことを考えてたんだと
ようやく我に返り自分を恥じた。

「マール…今日でお別れだからね」
「マール…今日からここがあんたのお家だよ」
ようやく、自分の仕事に徹し始めたが、
マールは全て理解していた。
「はぁ?そんなの知ってるよ」
そんな感情が伝わってくるようだった。

あんなに神経質で変化を嫌がるマールなのに…
やはり、マール自身が選んだお家、
家族だったんだ!!

マールの飼い主さん「むっちゃん」ご夫婦は、
マールを溺愛してくれた。
頻繁に写真や動画を送ってくれた。
マールは本当に幸せそうだった。

ようやく幸せになれたのに…

譲渡からわずか三ヶ月後
マールは永遠の眠りについた…

「あのまま保護家にいたら
まだ生きれてたんじゃないか?」
「譲渡すべきじゃなかったのでは?」
譲渡して直ぐの訃報に
様々な声が上がったけど、
私たちは自信満々に言い続けた。
「譲渡してもしなくても
マールの運命は変わらなかった!」

…って。
私たち以上にむっちゃんご夫婦は、
マールの医療や心身ケアに
一生けんめい向き合ってたのを
知っていたから…
私たちの誰よりも
マールを愛してくれてたから…

マールは、自分の死期が近いことに
気付いていたと思う。
マールが最期の場所に選んだのは、
私でも保護家でもなく、
自分が生まれ育った地であり、
一般家庭だったのでしょう…
「むっちゃん」ご夫婦だったのでしょう…

「迎え入れる気もないくせに」と、
歴代の譲渡希望者たちへの怒りは
申し訳なかった…という気持ちに変わった。
譲渡希望者たちが悪かったわけじゃなく、
マール自身が「この人じゃない」って
拒否してきたのだろう。
目に見えない何かの力で…

私は…
マールの最期を看取ってないからか
未だマールの死を受け入れられずにいる。
マールと生きた9年という歴史が
あまりにも長すぎたから…

だけど、私以上に苦しんでいるのは
むっちゃんご夫婦だ。
マールと過ごした時間はわずか3ヶ月だけど、
重く深く尊い時間だったと思う。
私とマールの9年が霞む程、
私とマールの絆なんて比じゃない…
マールが最期に選んだ家族だものね。

マールとの出会いは、
多くの経験と自信に繋がった。
マールの存在が、多くの命を救った。

※下半身不随の「モミ」
※下半身麻痺から完治した「キイ」
※下半身不随の「サンバァ」
※下半身麻痺手術で完治した「エル」
※下半身不随の「よっちゃん」
※下半身麻痺が完治した「ヒコ」
※下半身不随の「しげる」

この子達みんな、
マールが繋げてくれた
「命」だと思えてならない。
マールから与えてもらった
経験値と自信があったからこそ
レスキューできたような気がするから…。

※タイ国の保護施設「犬の家」の下半身不随犬達…

「下半身不随犬」をもっと学びたい!と、
「下半身不随犬保護施設」に行く勇気も、
マールの存在があったから。
マールが遺してくれたものは
あまりにも多すぎる…

マールが亡くなったことで
むっちゃんご夫妻との繋がりもなくなった…
そう淋しく思っていたが、
マールは、私の中でちゃんと生きていた!
マールが私とむっちゃんご夫婦を
繋げてくれたある出来事があったのです。
それはまた別の話で…


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