見出し画像

僕にとってのピアス

高校を卒業した春、ピアスを開けた。
14Gのインダストリアルと耳たぶ2連。
やたらと派手に空いた穴と鈍い痛みは、
昭和の軍隊みたいな校則から解放された、
世間知らずの僕を、大人にしてくれて、
「何者」かにしてくれた。
どこか退屈でくすぶっていた僕に
個性をくれたのだ。
初めて話す人が、自分のピアスを見て、
「すごいね!痛くなかったの?」
と言ってくれることが増えた。
これと言った特技もなかった僕には、
周りの人に何かで認めてもらえることが
嬉しかった。

夏休みになって、調子に乗って7個増やした。
調理学生のくせして。
(師匠のシェフと先生にちゃんと怒られた)
気づいたら両耳たぶに四つ開いてた。
こうなってくると、周りの人にピアスの相談をされたり、開けて欲しいとお願いされることも
増えた。
すっかり「ピアスの人」になった僕は、
思い切ってリップピアスを
開けてみることにした。
長いコーン型のキャッチがついた
スパイラルバーベル。
初めてにしては、
いささか派手なモチーフである。
また一つ大人になった気がした。(しただけ)

同じ時期に大きな恋をした。
自分と同じようにピアスが好きで、
恋愛に対する半ば諦めた様な価値観が似ていて、
バンドに支えられて生きてる、そんな子だった。
普通になれなくて、目の前の現実にもがいて、
それでも優しく振る舞うところが好きだった。
キスする時にリップピアスが刺さるって
怒られた記憶がある。
みさきくんとお揃いにしたいって言うから、
長いコーン型のキャッチがついた
スパイラルバーベルを買ってあげた。
たいした値段でもないのに
ブランドものみたいに喜ぶ姿が
愛おしくて仕方なかった。
でもどんなに好きでも、物理的な距離には
勝てなかった。
会いたいと気持ちを伝えても会える距離では
なかった。
恋愛に不安ばかり抱えた自分では、
なんとかこのピアスが自分たちをつなげて、
ずっと一緒にいれると信じることしか
できなかった。
結局お互いの環境の変化ですれ違って、
分かり合えなくて、別れた。

ずっと引きずってた。
その後に気になった人は、
みんなその子にそっくりだった。
その子が好きだったバンドのライブ
ばっかり行ってた。
それほどまでに、俺にはあの子以外
考えられなかった。

最近、久々にその子に会った。
特に気まずくもなく、
「最近どう?あの頃楽しかったよね」
なんて話をした。
久しぶりに撫でたその子の耳には、
ピアスが少し増えて、
口元には相変わらず刺さりそうな
お揃いのピアスが付いてた。
自分といた時間が、彼女の中で
まだ残ってる気がして、
「ほんとにあの時間はあったんだ
夢じゃなかったんだ」
って思えた。

多分大勢の人にとっては、ピアスは
なんでもないアクセサリーの一つ。
向き合い方は人それぞれ。
僕とってピアスはきっと、
誰かと自分を繋いでくれて、
誰かといた証を残してくれて、
自分を少しだけ大人にしてくれる、
そんなおまじないみたいなものなのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?