見出し画像

国民的vs国民的という名のチェスボードの上で~Mrs. GREEN APPLE×乃木坂46 in 横浜アリーナ・完全ライブレポ~

音楽とは、勝ち負けのないゲームだ。

こういう言葉を、誰かは忘れてしまったが、何処かで聞いたことがある。

音楽的な話に結び付けるとするのなら、「対バン」という言葉がある。○○対◇◇のように、ひとつの対決のような形で、数組が同じステージで共演するというものだ。

案外、その「対バン」で共演するアーティストは、対決するかのように、ひとつの「勝ち負け」を定めるかのように、ライブを展開することも多い。はたまた、観客も優劣をつけるかのように、比較対象として音楽を解釈することも、時たまにある。

この日、チェスボードの碁盤の上に乗ったのは、音楽ジャンルからしても、はたまたファン層からしても180度違う世界線の話だと思える。

言葉を変えるなら、異種格闘技、異色マッチというような…

少なくとも、開演前まではそんなことを思っていた。

現実は違った。

それは、ぶつかるからこそ生まれる化学反応が、それぞれの音楽を紡いでいるという構図だった。

極論を語れば、国民的ロックバンドと国民的アイドルグループ。
それぞれが各々のスタイルを確立しているのは当然のことだし、わざわざぶつかる必要もないのかもしれない。

ただ、この日その2つがぶつかった。

ぶつかる必要があったのだ。

何故か??

Mrs. GREEN APPLEは
乃木坂46の音楽を少なからず辿っていたからだし、
乃木坂46はステージに立つにあたって、
Mrs. GREEN APPLEに大きな影響を受けていたからだ。

異色マッチと思われた対バンライブ

それは、何故それぞれの音楽が
「国民的」という冠を着けるに等しいかを証明する
圧倒的なステージだったのだ。

故に、この日のライブを「勝ち負け」で決めることができないと察した。

だって、どちらも最強だったんだから。

横浜アリーナでの対バンライブ

日本を代表するライブ会場のひとつ・横浜アリーナ。
私自身も、何度も足を運んだ場所だ。
立地の良さ、集客のしやすさ、そして全体的な見え方の良さ。
全てにおいて良いといえる会場は数少ない。

このライブのヘッドライナーを務めたMrs. GREEN APPLEにとって、この横アリでのライブは、キャリア初のアリーナツアーとなった2019年12月の「エデンの園」ツアー以来約4年5ヶ月ぶり。その当時のツアーは観に行けていないものの、映像作品として記録されている。

そのBlu-rayをみると、当時のミセスが満を持してアリーナ規模でライブをしている姿が映し出されている。はっきり言えば、初々しい。右肩上がりで人気が伸びていったひとつの集大成みたいな様子もあった(事実、このツアーを最後に活動休止期間に入るのだから、そういう要素があったのは事実ではあるのだが)。

しかし、今のミセスの人気を見よう。

ストリーミング再生回数は日本一
アリーナツアー・ドームライブは即完
「ケセラセラ」は日本レコード大賞を受賞
遂に、紅白歌合戦初出場・後半戦のトップバッターを担当
今年開催のスタジアムツアー・15万枚が完売

圧倒的である。
今、日本で一番勢いのあるバンドのひとつと言っていい。

そんなミセスが、前述のスタジアムツアーの前に控えていたのが、2024年5月21日(火)・22日(水)の2日間、横浜アリーナで行う『Mrs. TAIBAN LIVE 2024』だった。昨年、結成10周年を記念した行ったライブのひとつだった『Mrs. TAIBAN LIVE』の第2弾となるライブイベントだ。

普段、ワンマン公演が多いミセスのライブが故に、対バン形式のライブは滅多にない。だから、この日のライブの注目度は高かった。そして、その注目度を高めたのは、対バンゲストのメンツだった。初日・21日には乃木坂46、2日目・22日にはキタニタツヤ・imaseという布陣。

特に、初日の組み合わせが大きな注目を浴びていた。

対バンゲスト:乃木坂46

この字面よ、はっきり言って怖いと思った。

それは、アイドルのライブとロックのライブは全く系統が異なるし、曲のノリ方もリズムの取り方も全く違うからだ。

私自身、普段はロック系のライブにしか行かない人間だ。正直に言えば、モッシュやダイブのある景色のほうが好きだし、それがない系統だったとしても大きい声がステージ上からもフロアからも響きぶつかってる景色が好きなタイプだ。

故に、アイドル系のライブへの偏見は強い。
どこぞの界隈では、口パクが当たり前とか聞くし、かわいさとかカッコよさを優先してるが故に、全然声出てないイメージしかなかった。というか、それは今でも変わらない。

((個人的な諸事情を挟み込んでもいいのなら))、私が小学生のころ、ハードロック系が好きだった父親の影響でX JAPANやKISSとかを聴いていたのだが、ある日を境にアイドル系を好んで聞くようになった姿に愕然としてしまっていた。父親は元々は、松田聖子とか中森明菜が世代な人間だから、ドルオタな要素は確かにあったのだが、AKBや乃木坂を聴くようになってから、かつてのようなハードロック系に目を向けないことが多くなったことが、自分自身の中で退屈に見えてしまったのだった。音は軽いし、安っぽいし… みたいな偏見が、中高時代の私の中にはあったのだ。

故に、アイドル系のライブをこの日まで一度も観ることはなかった。

だけど、この年齢(25歳)になって、聴く音楽の幅も広くなったように思える。今時、ジャンルレスに良い曲はいい曲という時代になったことも大きな要因だろうけど、昔ほどアイドル系への偏見は少なくなったように思える。

かくいう私は、なにわ男子の大西担(推し)でもある。人生、何があるかわからないものだ。。。
(ちなみに、今年のツアーは全滅だったので、復活当選やら機材開放で1公演は観たいです。というか、誰か連れてって欲しいです…!)

そうなると思うのだ。
今の自分が「アイドル系のライブ」を観たら、何を感じるのだろうか?

偶然、仕事的に火曜日が休みだったことも相まって、ミセスのFC先行で取れた今回のライブのチケット。国民的ロックバンドと国民的アイドルグループの異色マッチを見届けることになったのだった。

そして、当日・2024年5月21日(火)。
5月にしては蒸し暑さを感じながら、新横浜に辿り着いた。

((もうちょい可愛い系のデザインならなぁ…))とかボヤキつつも、事前に頼んであったグッズを受け取り、気付けば会場時刻に。

(このシャツのデザインは好きだった)

入り口前には人人人。横アリでここまで密集しているのを見るのは、いつ以来だろうか…?とか考える。そして、その服装はもう見て分かる。ミセス好きなんだなぁ、って人と乃木坂目当てだよなぁ、って人。バンド界隈とアイドル界隈は、どうやら持っている空気感が違うらしい。それが、入り混じっている。

"対バン"らしさを感じながら、アリーナDスタンドへ。横アリは、センター・アリーナ・スタンドと分かれているので、アリーナ席とはスタンド1階席と言ったほうがわかりやすい。しかし、それでも花道はしっかりと見えて、ステージも肉眼ではっきりと見渡せるいい位置。

定刻を少し過ぎ、ステージは暗転。
対バンの幕が、切って落とされた。

乃木坂46

開演 19:05  終演 19:58

長く語ると、言いたいことがまとまらなくなるので、まず思ったことを書きたい。

あれは… 乃木坂のワンマンだったのだろうか?

そんな錯覚と、狂気じみた興奮を、ライブが数日経った今も手元に感じている。そして思う、アイドルのライブのノリ方は、難しい…と。やっぱり、拍の取り方が違うなと思った。バンド系のノリとアイドル系のノリの違いを終始感じていた。

ライブの話を進めよう。

暗転して、ステージのスクリーンには「Mrs. TAIBAN LIVE 2024」と題された映像が流れ始める。そして、乃木坂46のグループロゴ・この日出演したメンバーの映像が1人ずつ映し出される。映像が終わり、ステージ中央にフォーメーションを組んだ状態でメンバーが登場。

「Mrs. TAIBAN LIVE、盛り上がっていくぞー!」1曲目の「おひとりさま天国」で、乃木坂の交戦が始まった。

正直な話、1曲目から私は面を喰らっていた。

何故なら、客席の8割方が乃木坂ファンに見えてたからだ。

ミセスのTシャツやタオルを持っているのに、乃木坂の公式のペンライトを振る人があまりにも多かった。ミセス界隈には、隠れ乃木坂ファンがいるものなのか?!開演前から、その匂いを感じたのは、客席全体が色とりどりのペンライトの色に染まっていたから。バンド界隈のライブにしか行ったことのない人間からしたら、それだけで相当異質な景色だった。

そして、その状況の中で、1曲目から銀テープが飛んできたのだ。ロゴを見たら、しっかりと「Mrs. TAIBAN LIVE 2024」という文字が。乃木坂を意識してか、紫色と銀色のテープがフロアへと飛んで行った。

その勢いのまま、「ガールズルール」、「裸足でSummer」と盛り上がる曲でトドメを刺してくる。花道を駆けていく乃木坂メンバーご一行。興奮でペンライトを振りながら、図太い声をしたコールがきっちりとメロディの隙間に挟み込まれる。

私は、その空気感に飲まれていた。
うろたえていたことだけは、きっちりと覚えている。

空気感に飲み込まれた理由をもう一つ語っていいのなら、それはどの曲も聴いたことある曲だったからだ。めちゃくちゃウブな発言に聞こえるかもしれないのだが、それってどのアーティストのライブに行っても簡単に経験できる事ではない。

言い方を変えたら、「キャッチーの暴力に襲われた」という表現が正しいはず。そこまで、今まで乃木坂の音楽に関心があったわけでもないのに、どの曲も1度は聴いたことのある曲。なんなら、イントロ聴いた瞬間に「やるのか?これを…!」と、驚く場面も多かった。

もはや、それは一種のアハ体験に等しいだろう。
なんとなく触れていたものを、いざ正面から目の当たりにしたときに、そのエグみに気付いてしまい、うろたえてしまうようなやつだ。

簡単なMCを挟んでからの”ダンスパート”として、かっこいい部分を映し出した3曲の中の「制服のマネキン」や「Monopoly」でそのアハ体験に等しい何かを感じていた。はっきり言うが、この日のために予習したことと言えば、LINE MUSICのプレイリストにあった上の3曲を聴いたくらいだった。確か、「インフルエンサー」と「サヨナラの意味」と「帰り道は遠回りしたくなる」の3曲だったと思う。それを聴いた程度だった。「制服~」に至っては、聴いたのは数年ぶりのことだったと思う。テレビでもそんなに聴く曲じゃなかったと思う。なのに、イントロ聴いた途端に震えた。"知ってる、この曲"ってやつに、襲われたのだ。

その途端、乃木坂46という存在の凄さを知ってしまったのだ。
確かに、ビジュアル面では凄い綺麗で端麗で可愛い人が多いのだと思うし、THE アイドルと言えるようなプロポーションをしているのは事実なのだが、その音楽1曲1曲の存在がぎっちりと目の前に現れてくる。可愛い系の曲にしても、かっこいい系のパフォーマンスにしても。

前述の"ダンスパート"を終えたときには、もう拍手する余力しか残っていなかった。今更ながら、なんて恐ろしいものを見てるんだろうという、衝撃だけが強すぎたから。

だが、その感覚は一瞬にして崩れ去る。
それは、この後のことに続いていく。

一旦、MCのことに触れておこう。
やはり、メンバー全員がミセスとの対バンに興奮しているようだった。この日出演していたメンバーのひとり・佐藤楓は「ミセスさんの曲の中では『光のうた』が特に好き、泣いたっていいのと自分を肯定してくれる大好きな曲です」と語り、伊藤里々杏は「『StaRt』が特に好き、この仕事は現場が初めてとか初対面とかで怖いこともあるけど、この曲で元気づけられて。心の鎧になってくれる宝物のような曲」と話していた。さらには、「小学生の時から聞いてたミセスさんと対バンできるなんて光栄です」と五百城茉央は語った。

そんな中、乃木坂とミセスの大きな接点となった話題へ。
先月、日本テレビ系で放送された乃木坂46・5期生のレギュラー番組「超・乃木坂スター誕生!」にて、ミセスのフロントマン・大森元貴が出演し、共演したことを話し始めた。

「番組で一緒に歌わせていただける機会はうれしかったんですけど、すごく緊張してしまって。みんな緊張していたんですけど、リハーサルのときに大森さんがちょけて下さって。それをみんなで見ていて、ちょっと和んでリラックスして本番に挑むことができた思い出があります」と、その日の収録の様子を語り、当日コラボしたMrs. GREEN APPLEの「春愁」をカバー。原曲にはない振り付けを差し込み、乃木坂ならではの「春愁」をパフォーマンス。

ここまでは、多くのファンが想定していたことはず。
番組でやっていたもんね、ということで。

が、サプライズが起こった。

続く曲で、メンバーのフォーメーションが2つに分かれ、センターが空いたときに、ステージ中央から青の服を羽織った人が現れる。

その人こそ、大森元貴・本人だった。

続く「きっかけ」を、大森とパフォーマンス。
この日、最大のサプライズに、ミセス・乃木坂両ファンから大きな歓声があがった。このコラボに、大森自身も「緊張しました。曲の最後の振り付けを合わせるとかね、どうしようかと思った」と語ったが、この日の乃木坂のセンター・大森元貴はステージ上の誰よりも完璧なアイドルだった。

ここからライブは終盤戦へ。
タオルを振り回す「好きというのはロックだぜ!」から、ラストの「Sing Out!」まで一気に駆け抜けた。紙吹雪が舞う中、乃木坂パートのカーテンコールへ。1時間弱のライブ、これでもかという勢いと爆発力を目の当たりにした。

この1時間さえあれば、ロックファンのライブの価値観は大きく変わるのは言うまでもなかった。アイドルというなかれ。彼女らのスタンスこそ、ロックそのものだったように思える。

昨今、「○○はロックじゃない」とかいう論争はあとを絶えないが、私自身思うのは、「ロックとは自らの理想を納得するまで追求して、提示し尽くすこと」だと思っていて。それは、どんな形態であれ、音色であれ、スタンスで十分にそいつは提示されると思うからだ。

この日、乃木坂46が提示したものは、彼女らがアイドルとしての理想を徹底的に追及して、ライブパフォーマンスとしてきっちりと昇華し切った景色だった。魅せ方のひとつひとつ、所作のひとつひとつ… 無駄がなかった。

何よりも、フロアを完全にものにしていた。
恐らく、多くの席がミセスファンだというシチュエーションの中で。

この人たち、どんな状況でもフロアをものにしてしまうのだろう。ステージング、曲、パフォーマンス… すべてを含めて、乃木坂46は「国民的」である。その事実をがっつりと残し、彼女たちはステージを後にしたのだった。

((セットリスト))


01, おひとりさま天国
02, ガールズルール
03, 裸足でSummer
04, Monopoly
05, 制服のマネキン
06, ごめんね Fingers crossed
07, 春愁 [Mrs. GREEN APPLE]
08, きっかけ feat. 大森元貴
09, 好きというのはロックだぜ!
10, 帰り道は遠回りしたくなる
11, Sing Out!

Mrs. GREEN APPLE

開演 20:19  終演 21:22

満を持して登場した、Mrs. GREEN APPLEの3人。
もちろん、サポートメンバーを引き連れている。この日は、ドラマーはお馴染み・"ダニキ"こと神田リョウ、ベースは(ひょっとしたらお初?の)二家本亮介というメンツだった。

言うまでもなく、ミセスは圧巻だった。
というか、貫禄すら感じていた。

そして、ふと思ったことがある。

「ミセスの"ライブ"を観たの、いつ以来だろうか…?」と。

極端な話、私自身昨年8月のベルーナドームでの『Atlantis』が当時5年ぶりのミセスのライブだった。5年前が、18年6月の神戸国際会館での『EMSENBLE』ツアー、でその前が初参戦した17年3月・浜松窓枠での『MGA MEET YOU TOUR』だった。

この疑問を感じたのは、はっきり言えば、近年のミセスの演目は、"ライブ"というより"エンターテイメント"という側面が圧倒的に強かった。昨年のアリーナツアー『NOAH NO HAKOBUNE』も、今年3月まで開催されたFCツアー『The White Lounge』も、どちらかと言えば"エンターテイメント"としての、ひとつの"ショー"としての演目だったわけで(FCツアーは、正直に言えば”ミュージカル”だったんだけれども)

この日のミセスの演目は、がっつりと"ライブ"だった。
派手な装飾は控えめに、バンドとしての演奏のダイナミクスや求心力だけで、ライブを展開していたし、フロアをものにしていった。

私が過去に観てきたミセスのライブで(5公演と少ないものの)、こういう景色は初めて観た17年3月の「MGA~」以来だったと思う。それが、一周回って新鮮だったし、むしろ安心したのだった。

ミセスって、バンドだよなっていう感触。
エンターテイメントという多面性や表現性はあるけれども、根幹は間違いなく「バンド」ってやつだよな、という実感。

そんな感触を、1曲目の「ANTENNA」から感じていた。
フェーズ2になってから初パフォーマンスとなった「ナニヲナニヲ」、「SimPle」と初期のナンバーで会場を沸かせたかと思えば、最新曲「ライラック」で大きな歓声とシンガロングが。

近年の曲の密度や曲の純度が圧倒的に高いなと感じていて。それって、結構さっきまでの初期のナンバーと最新曲の手触りが似ているからなのかなとも思うからで。編成は変わり、音に対する柔軟性が高くなったから、より音楽性が濃くなったというか… 言い方を変えれば、「ミセス」が「ミセス」たる意味や覚悟がより濃厚に表れているというか… そんな匂いをふと感じていた。

それは、続く「青と夏」と「Loneliness」の流れを見ると、より感じることだった。 いまや日本の音楽シーンにおける"夏ソング"の鉄板ナンバーのひとつとなった「青と夏」での客席の熱量と、近年のアルバム曲ながら表現性の奥深さを映し出す「Loneliness」と続いたのは、やはりこのバンドにしかできない表現だよなぁと思う一瞬だったわけで。

一方で、熱を高める部分に次いで、しっかり聴かせ切る部分も、フェーズ2以降のミセスでは強くなった部分なのかなと感じたのも、このライブの側面だった。それはやはり「Soranji」の大ヒットが関係しているように思える。中盤のパートで、出だしの”貴方に会いたくて”と歌い始めた瞬間、歓声が上がる一方で、静かに聴き逃さまいと耳を傾ける様子は、フェーズ1よりも濃く見えたように思える。実際問題、この日披露されなかったが「鯨の唄」や「僕のこと」のように聴かせる歌はミセスのレパートリーの中には十分あるのだが、そのギアをより高い場所まで引き上げたのが「Soranji」なんだなぁと、、、いちファン以前にいち音楽好きとして、その瞬間をふと思うのでした。

8曲披露したところで、この日最初のMCへ。
前述の乃木坂のMCより、「五百城さんの『小中学生の頃から聴いてて』という言葉を僕は聞き逃さなかった。『小中学生!?』ってびっくりしちゃった。いつからやってるんだ、俺らって」と驚く場面もあった。その一方で、「MCが上手、無駄がない。僕たちなんか大したこと喋ってもない」と、ライブを称賛する場面もあった。

話題は、前日にリリースされた新曲「Dear」へ。
「昨日かな?リリースされて、MVも公開されて… で、演っちゃってもいいですか?」と続き、新曲をライブ初披露。この曲も、どちらかと言えば聴かせる系の1曲だが、バンドのアンサンブルと壮大さが奥深い1曲。思えば、ミセスにこういうニュアンスの曲なかったような。きっと、スタジアムロックに昇華していくのかもしれない新曲「Dear」の初披露の様子だった。

「後半戦、まだまだ盛り上がれますか?」と、間髪開けずにバンドは「Magic」を披露。映像演出を言えば、1曲目の「ANTENNA」での花火と、ここでの映像演出は昨年の『Atlantis』と同様のものだった。しかし、この曲もライブの鉄板チューンになったようで。今回のセットリストの中では、大きい盛り上がりを見せたのは、きっとこの曲だったかもしれないから。

演奏を終え、大森は7月に開催されるツアー『ゼンジン未到とヴェルトラウム~銘銘編~』のチケット・15万枚が完売したことを触れる。「ソールドアウトしてんじゃねぇよ、という方もいると思いますので…」と焦らしたのち、重大発表が。10月に、Kアリーナ横浜での8daysの定期公演『Mrs. GREEN APPLE on "Harmony"』の開催を報告。全16万人を動員する定期公演の発表に、大きな歓声が響いた。これも、きっとレアチケットになることだろう。

新たな発表の興奮に包まれる中、「最後の曲を…」として歌い出したのは、乃木坂46のデビュー曲「ぐるぐるカーテン」。サビをワンフレーズだけ歌ったのだが、恐ろしいくらいに自分たちの曲にしていた。

「普通に僕の好きな曲歌っちゃいました」と笑うが、私からしたら続く「ケセラセラ」で大団円をしたことよりも、その一言が結構残っていた。

「大森さん、『ぐるぐるカーテン』好きなんだ」と。

それも間違いないことだろう。
この曲がリリースされたのは、2012年2月。
当時、大森は15歳、中学卒業くらいの時期ではないだろうか?小学6年から楽器を持ち、オリジナルを作り始めたと語っていたから、この時期のポップスから受けた影響もきっとあるはずだ。その1曲に、「ぐるぐるカーテン」があったというわけだ。

大森が「ぐるぐるカーテン」が好きと語り、一方の乃木坂46のメンバーが「ミセスの曲に影響受けた」と語っている。一種の相互作用だった。

もはや、対バンライブという域の話じゃないと思った。
お互いの音楽が、どうして成り立っているかが、しっかりとぶつかり合って示しあった景色だったんだなと、今となっては感じたわけで。

ラストの1曲のアウトロが終わり、銀テープが華やかに舞う中、ふとこのライブのアートワークにチェスの駒が用いられていることを思い出した。

チェスって、結構深層心理をつく側面が多いと思っていて。
ボードゲームの大半がそうだと思うけど、相手の一手が自らの攻撃の方向性を左右させるし、一方で自らの一手で相手の思考を読み解く部分もあったりする。

変な話だが、この対バンはそういう側面がよく見えていたと思う。
チェスの一戦ように、乃木坂だからできるライブの一手を提示したし、その中にはミセスの音楽に触れて影響された一手が存在した。一方、ミセスのライブにも乃木坂からもらって紡がれた音楽の一面があったように思えたし、それを称えながらも自らの一手に揺るぎない確信を持っていた部分があったわけで。

ただ、どちらが勝って、どちらが負けたという構図は、そこには存在しなかった。というか、存在するはずがないのだ。勝ち負け以前の問題として、各々が圧倒的過ぎたのだ。対戦相手がいる不戦勝のような景色を、両者ともはっきりと示してしまったのだから。

アイドルとしての矜持を示した乃木坂46

バンドとしての威厳を示したMrs. GREEN APPLE

両者とも、最初から勝ってたんだよな。

勝ち同士がぶつかるから、何故それぞれが”勝っている”のかという意味が、このライブには映し出されていたと思う。

故に、お互いが「国民的」だったんだと。
感じずには、いられなかったんだよなぁ…

((セットリスト))


01, ANTENNA
02, ナニヲナニヲ
03, SimPle
04, ライラック
05, 青と夏
06, Loneliness
07, Feeling
08, Soranji
09, Dear
10, Magic
11, ぐるぐるカーテン [乃木坂46]
12, ケセラセラ

最後に…

終演後の、横浜アリーナは、相変わらず帰路に向かう足でごった返していたが、どこか満ち足りた景色に見えていた。私自身が、少なからずそうだった。

エンターテイメントとしてのライブも好きだけど、ライブとしてのライブっていう、演出に頼らない音楽だけの求心力ってものを、この日ずっと感じていた。純粋な意味で、"対バンライブ"とはこのことだったと感じていた。

私自身、7月には前述のスタジアムツアーの横浜公演に行く。次回の演目も、"エンターテイメント"というよりかは"ライブ"というニュアンスが強い感触がどこかしている。この横アリでの対バンのその先を目の当たりにできるということ、それがとても楽しみで仕方がない。

そして何より、ミセスファン・乃木坂ファンが両者のことを称え合ってる景色が、会場の周りに溢れていた。SNS上でも、「乃木坂のライブがカッコよかった」とか「ミセスが超よかった」とか投稿している人を多く見た。

音楽っていいよなと思う1日だった。
私自身、元々偏見もあってしっかりと手に取っていなかった音楽の、いいところに出会えた日でもあった。それが、この日の大きな収穫だったし、何より「いいものはいいよね」と素直になれた気がした。

こういう純粋さを、見失いたくないよな。

そういう気付きを得れたのが、この日行けてよかったなと思えた何よりの出来事だったのだ。

(銀テをしっかり取れたの久々かも)
(当たるといいな、行きたいね)



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?