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"やめない"理由・16曲の決意表明 〜sumika『AMUSIC』より〜

2021年3月になりました!

どーも、毎度おなじみの
#Shiba的音楽レコメンド でごさいます。

今月は、何作かレコメンドをやろうかなと予定しています。どれも、好きなものばかりでヨダレが出てしまいそうなんですけども 笑

毎度のことながら、今回もこのアルバムを私なりに少し考察しながらまとめています。曲について深く聴いてみたい方も、初めて聴く方にもわかりやすく、両者ともに楽しめる内容になったのではないかと思っています。

今回は、約7,600字記載しております。
いつもよりは、ちょっと短いレコメンドになるのですが、その分濃いものが仕上がったのかな、と思っています。よかったら、最後まで覗いてみてください!!

遅くなりましたが、noteを開いてくださり、ありがとうございます!これから始まる新たな音楽の旅に、少しだけお付き合い願えたらと思います。

前説

3rd Albumというと、人はどんなイメージを抱くものだろうか? 特に、バンドという形態を持つ音楽にとっての、3枚目というのは、大きな起点になることが多いような印象を覚える。

例えば、1枚目の作品がこれまでのバンドのベストを尽くしたとすれば、2枚目の作品は1枚目以降の歩みがまとまった作品になることが多い。具体的に言えば、1枚目のアルバムにインディーズ時代の名曲やこれまでのベストオブベストの楽曲を詰め込むこととか、2枚目のアルバムにそれ以降の楽曲や1枚目の作品で得たことから新たな挑戦に挑んでみたことが音に表れてくるというような。こんな作品、バンド界隈だと多いんじゃないかな?

そして、至る3枚目。
ここに、バンドの色というものが色濃く出る傾向がある。

それ以前の問題に、2枚目の作品で見たこと・歌ったこと、それまでに経験したことというものが、3枚目やバンドのスタイルに表れてくる。そこには、これまでの作品やライブを通じて出会った人たちや広がった世界を見て感じたことが、経験だとか意識に変化して、今を作り上げていく。そこから、新たな一歩を踏み出していく。それが、3枚目というアルバムになる。

つまり、ゼロから始まった物語が1枚目というアルバムになるとするのなら、3枚目は色んな経験を積んだバンドがこれからをどうするのか提示する、いわば"新しい"ゼロ=よりワクワクする方向に進むためのスタートを切るための作品になることが多い、ような印象を私は覚える。

少なくとも、このアルバムからは、聴く前からそんな匂いが漂ってきて、胸をウズウズさせていた。こんな気持ちになるの、いつ以来なんだろう?

そして、私はこのバンドのレコメンドを書く日が来ることを、この上なく楽しみに待っていた。2枚目のアルバムは買っていたけど、そこから今日にいたるまでに、彼らのファンクラブに入るなんて思ってもいなかったし、ここまで彼らの音楽にワクワクし続ける未来に生きてるとは、当時は思ってもいなかった。少なくとも、こんな未来はとても幸せだから、それで素敵だと思っているんだけども。

2021年3月3日 3rd Album『AMUSIC』

今日は、sumikaというバンドの話をしたい。

『Chime』以降の2年間

2013年結成のロックバンド・sumika。

彼らが今日・2021年3月3日に3rd Album『AMUSIC』をリリースした。全16曲入りという大作は、バンドの現在が存分に詰まった1枚となっている。

このアルバムのリリースまでには、ここ2年の濃密さが大きく関係している。その2年とは、バンドの勢いが高まった2019年と世界中が不安に包まれた2020年のコントラストがある。

2019年3月にリリースされた2nd Album『Chime』は、14曲中6曲がタイアップを獲得し、彼らの人気をより高い域に押し上げた1枚だった。その年には、アルバムのリリースツアーで日本武道館・横浜アリーナ・大阪城ホールと大規模な会場を満員にしたり、全国のロックフェスでは最大規模のステージに出演して、大きな動員を集めたりと、バンドの勢いが高まったことが、楽曲やライブで示した1年だった。

そんな勢いで迎えた2020年は、3月にリリースされたEP盤『Harmonize e.p.』を引っ提げて、バンド初のアリーナツアー「sumika Arena Tour 2020 -Daily's Lamp-」の開催を予定していた。しかし、昨今のウイルス感染拡大により、ライブが全公演延期(最終的には中止が決定)となってしまった。

そんな彼らは、2020年5月に「Dress farm 2020」と題して、リモートで制作された新曲4曲と過去のライブ映像を公開した。これを見た人は、自由に価格を設定して「Dress farm 2020基金」に募金を行い、集まった金額は医療従事者やエンターテインメント業界に寄付されるというアクションを起こした。基金は2020年12月31日付で終了したものの、およそ1,100万円が集まり、その収益は後々上記の方面への寄付が行われる見通しだ。

同年9月には、初のオンラインライブ「Little Clown 2020」を木下サーカス立川会場から開催した。この2つの取り組みについて、バンドは2020年春に全てのライブが出来なくなって感じた絶望や不安、そして新曲の発表とライブの開催で感じた思いについて、雑誌でこのように語っていた。

小川「とにかく自分が何者かわからなくなっちゃいましたね。ライブをやることで自分が自分であると理解していた部分がかなりあったんだなと。(中略) 最初の"ツアーがなくなっちゃいそうだ"と思った瞬間は本当に胸にぽっかりと穴が開いたみたいな感覚になりましたね」

荒井「最初は現状に対する実感がなかなか湧かなくて、健太が言ったようにすぐにできると思っていたし。(中略) 自分の生活から音楽が縁遠いものになることが信じられなくて、やがてその現状が身に染みてきて、本当に4月ごろの失望感がすごかったですね」

片岡「ライブができないからお客さんにも会えないし、スタッフチームにもメンバーにも会えないことで、自ずと身の回りに居てくれた人や、今まで支えてくれた人たちのありがたさを感じたし。今一度そういうつながりを大切にしつつ、動き始めようと思ったときに、ここまでの活動を振り返って、これはやってよかったねというものよ一個ずつ試していくのがいいんじゃないかと。(中略) そういう意味では、自分たちのこれまでを振り返ることができた面も含めて、結果的にですけど、いい機会だったのかなと」
(「Talking Rock!」2021年4月号増刊より抜粋)
黒田「音楽ができなかった期間というのがあって。いつも人と話す時は、『sumikaでギターを弾いてます、黒田隼之介です』っていう挨拶することが多いですけど、そういう期間には、自己紹介をどうしていいかわからないような状態になるじゃないですか。(中略) まず、みんなでこれをやろうよって言って音楽ができるということが、すごく幸せだなって改めて思って」
(「ROCKIN'ON JAPAN」2021年4月号より抜粋)

この活動によって、sumikaはバンドとしてのモチベーションや音楽への思いがより強まったと語っている。その思いの中創られたアルバムこそ、この『AMUSIC』であった。

失くし、楽しみ、鳴らす音楽

このアルバムを全体を通して聴いたときに感じたのは、「バンドのことを歌った曲がとても多いな」というものだった。それは、前作『Chime』とは大きく違うベクトルを向いている印象を覚えたことにある。

sumikaの曲には、バンドの思いが強く込められた曲がとても多い。例えば、彼らの代表曲のひとつである「Lovers」は、バンドが再び動き出したときに感じた周りへの愛情や思いを歌詞にしている。このように、バンドの思いや自らのことを歌うというのは、今までにもあったアプローチだった。

そんな中で『Chime』でやっていたアプローチって、そんな側面もありつつも、曲の中に強かったのは「聴いているあなたに届ける」という部分を強調した音楽だったようなものだった。アルバムのコンセプトが「自分たちの足でsumikaに触れてくれている人たちの家にチャイムを押す」というものだった故に、外へ広がる部分というものが強い1枚に。事実、アルバムに収録されたシングル曲の「フィクション」や「ファンファーレ」、アルバム曲の「Flower」はライブの定番曲となっていることから、このアルバム・曲が広がることを念頭に置いた1枚であったことが、印象的だった。

一方の『AMUSIC』は、確かに「願い」や「イコール」、「絶叫セレナーデ」といったポップス色の強いシングル曲が多いのは確かなのだが、それ以上に、歌っていることの矛先が曲を作った自分自身=sumikaであるような印象を覚える曲や歌詞が多いなということを、この1枚から感じる。

その理由って何なのか?
それは、このアルバムが、バンドの現在の意思表示を示した作品となったことが根幹にある。

このアルバムタイトルである『AMUSIC』という言葉は、実際に存在する英単語であるわけじゃない。片岡健太(Vo/Gt)は、この言葉に対して3つの意味を込めてタイトルをつけたと各雑誌で語っている。

1つ目は、”失音楽”という意味がある"amusia"という言葉。それは、2020年という1年で感じた音楽を1回失ってしまったときに感じてしまった感情。2つ目は、"娯楽"という意味を持つ"amusement"という言葉。ここには、前述にあるように、「Dress farm 2020」や「Little Crown 2020」を通じて、取り戻し始めた"音楽を楽しみたい"という感情。3つ目は、"ひとつの音楽"という意味合いの"a music"という言葉。"music"という単語は、そもそも数える単語ではないものの、先ほどまでの2つを通じて感じた"バンドが今できる唯一無二のものを"という思いが、ここにはある。

そのことを読んだときに、腑に落ちたことがあった。それは、このアルバムには、バンドの2021年の存在表明があるように思えたことだ。それは、かつて1st Album『Familia』を聴いたときに思ったことに近いかもしれない。そのアルバムは、リリースした2017年が結成5周年を目前にした時期ということもあったのか、今のバンドの姿を投影した1枚だった。故に、一つ一つの音がしっかりとした箱に収められているような、襟を正したように凛とした音に仕立てられていた。

この『AMUSIC』の曲も、そんな姿をしているように感じる。それは、1曲1曲の中に「sumikaとはこんな音を鳴らすバンドです」みたいな思いがあるような気がしたからだ。

sumikaってどういうバンドか?

ここには、バンドの持つパブリックイメージではなく、バンドとしての本質的な要素が強い色がある。バンド=音を鳴らし、曲を作るという根本的なことに意識が置かれたために、色付いたような気がしている。

このアルバム自体、大きなコンセプトを決めずに曲を作ったということから、様々な色を持った曲が揃っている。荒井智之(Dr.)が作ったAOR感の強い「Jamaica Dynamite」や黒田隼之介(Gt)が書いたプログレ要素が織り込まれた「白昼夢」、久々に小川貴之(Key.)がボーカルを務めた「わすれもの」など、sumika史上最もバラエティに富んだ1枚となっている。

そもそも、シングル曲自体でも8曲もあるなかで、対抗的にアルバム曲を8曲入れた結果、ただただ幅広い曲が作品として並んだわけではない。それは、1曲1曲にバンドの意志や思いが込められているから、16曲というボリュームになったように思える。

例えば、アルバム曲のひとつである「惰星のマーチ」は、"惰性"という諦めからひとつの希望を探して進んでいく、マイナスから一歩踏み出す姿が描かれている。90年代ポップスのようなさわやかなメロディが印象的な「わすれもの」には、大切なことは何なのか、そんな気付きが描かれている。

シングル曲でも、そんな姿が映し出されている。特に、緊急事態宣言後に作り出された曲の中で、全国高校サッカー選手権の放送テーマソングに起用された「本音」は、タイアップにあるような選手やピッチでのプレイへのエールが込められている以上に、言葉の中にバンドの姿や未来を投影しているような印象を覚える。それは、かつてバンド自体が止まってしまって、悩んだとか、それを超えて生きてきた今が映し出されているように思えるからだ。

挑め挑め
痛み悩み知る君と
醒めない醒めない
夢の続きがまだ見たい
(sumika「本音」より抜粋)

事実、2020年という1年が、誰もが悩み苦しんだ中で、誰もが本質的なこと... 今を生きていく中で何を求め何が必要なのか問われたからこそ、見えた言葉だとか、過去との共通項というものが、バンドの中にあったのだと思える。

バンド自体、特に2015年の活動休止から復活して以降、曲の中にバンドの意志や存在証明を映し出すことが多くなったように思うのだが、このアルバムには、そんなsumikaの2021年の存在証明 ― 音楽を通じて自分たちが自分たちであるんだという思いが強く投影されている。その為の、16曲なのだ。

片岡「結局は音楽好きの兄ちゃんの集まりなんだなと。音楽が好きで、音楽しかないと思っていて。だから音楽家であり、それ以上でも以下でもないというのが自分の中ですごく腑に落ちたというか。(中略) "sumikaの4人はミュージシャン/音楽家だよね"という。そこがすごく素直に出せたタイトルであり作品になったなと思いますね」
(「Talking Rock!」2021年4月号増刊より抜粋)

sumikaとは、音楽家である。
2020年というものが、大きく自らの意義を問うた1年であり、その先にあった確かな答えこそが、そのアンサーだったのだ。

進み続けるための歌・やめないための歌

そしてもうひとつ、このアルバムを聴いていて感じたことがあった。

それは、2019年の『Chime』リリース以降の2年間の間にsumikaが言ってきたことって、大まかに一貫しているような印象を覚えたということだった。それは、アルバムの大半の曲から「進み続ける」という意思が込められているような印象を覚えたからだ。

このアルバムの最初のピースとなった2019年6月リリースのシングル曲「イコール」と「Traveling」。特に「イコール」について、描いた理想と現在に姿を繋ぐために、進んでいくという思いが込められている。

そんなシングルを引っ提げ、2019年9月から11月まで全9会場18公演を巡ったライブハウスツアー「sumika Live Tour 2019 -Wonder Bridge-」を開催した。このライブは、そんな思いに加えて、バンドやスタッフ、そしてファンとの絆や繋がり、それらが橋のように繋がっていることを伝えるセットリストだった。アンコールラストの「彗星」が、大きなハイライトとして印象的なツアーだった。

そして来る2020年が… というのが、前述までの話だ。

未曽有の事態の中で、一歩進むために、「Dress farm 2020」や「Little Crown 2020」というアクションを起こし、sumikaは音楽を通じて自分たちの存在意義やバンドというものを再確認して、進んでいった。その状況というのは、どこか過去の活動休止から復帰に至るまでの時間軸に似たようなものを覚える。当時は、片岡健太の体調不良によって、バンドはボーカリスト不在の状況の中、ゲストボーカルを迎えるsumika[roof session]という形での活動を行った。その後、片岡がバンドに復帰、そして現在に至る。そんな歩みを見ていると、事態の大小はあれど、自らの存在意義までを見失ってしまった緊急事態宣言の最中の状況とかつてのバンドの危機は、同じようなデッドラインをバンドにもたらしたように思える。

最終的に、アリーナツアー「Daily's Lamp」が中止になってしまった中で、アルバムの1曲目が「Lamp」という曲で、歌詞の中に"焦らなくていいんだよ 歩け歩け歩け 今世を"とあるのが、何もかもが無くなってしまいそうな中で、不安になることがあっても一歩ずつ進んでいこうという思いに感じて、「イコール」のときに感じたような感情と近いようなものに思えた。

アルバムのラストトラックが、EP盤『Harmonize e.p.』にも収録された「センス・オブ・ワンダー」なのだが、この曲も「Lamp」にあるような一歩を踏み出す希望の曲となっている。

進め
1001行目の自分へ
泣けるような未来へ行く
諦めかけていた運命の向こうへ
進め それが全てさ
進め スタート切れば
自分の好きな自分になる
(sumika「センス・オブ・ワンダー」より抜粋)

アルバムのタイトルのように、一度は失くしながらも、楽しい方向に進んでいく音楽というものを、1から16まで体現している。

特に、アルバムのリード曲となった「祝祭」にそれが強く映し出されているような印象を覚える。"検索のサイトで覗く前に 正しく傷付けば"とか"群れのち一人だって進む 道は楽じゃないだろう"など、何かを叶えるために傷ついて、その後に進んでいくというこの曲は、まさにバンドの今そのものがあるように思う。

晴れのち雨になってもゆく
怖がる暇ないから
凪のち風になってもゆく
嘘つきが消え

雨のち晴れになって架ける
虹を今潜ったら
新世界 雨の向こう側
人影が見えるなら
やっと出会う時だろう
君と出会う時だろう
(sumika「祝祭」より抜粋)

この歌詞のフレーズを見ていると、バンドが初めて出したCD『新世界オリハルコン』に収録された「雨天決行」にリンクしたフレーズであることが分かる。片岡自身、雑誌のインタビューで「雨天決行」の向こう側に行くようなイメージで書いたと話している。

思えば、「雨天決行」はsumikaとしての最初の曲であり、バンドをまた始めていく、どんな状況でも進んでいきたいという思いが込められた1曲だった。「祝祭」がその曲の先を行く覚悟... それは当時バンドを辞めるか否かのビハインドで進んでいったように、2020年・音楽をする自分が何なのか見失った時間の中で突き進んでいった今が、祝うべき未来であり、称えるべき世界なのだという、sumikaの存在証明と確かな意志そのものであるわけだ。

かつて、"やめない やめないんだよ まだ"と叫んでいたバンドは、より広いステージの上で、未曽有の2020年代を進む覚悟を鳴らしている。その姿っていうのは、状況が変わってしまったとはいえ、2019年の「Wonder Bridge」ツアーで見たような景色に近いものだった。

進み続ける思いを歌う、決意の16曲。
それが、この『AMUSIC』という1枚には収められているのだった。

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