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新たな時代の風が吹いた日 〜藤井風アリーナツアー2021を観て (セトリ記載あり)〜

⚠️⚠️⚠️今回のライブレポはセトリの記載が含まれています。これからの公演に行かれる方で、ネタバレを避けたい方は読むのを控えておくことをお勧めいたします⚠️⚠️⚠️

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日本の音楽シーンにおいて、新たな時代を作り上げたアーティストは、なんかどこか不思議な空気感を帯びている気がする。

私が過去に行ったライブだと、2018年の宇多田ヒカルを観に行った際に感じたことが最たる例だと思う。事実、1998年のデビュー曲「Automatic」、ファーストアルバム『First Love』は日本のこれまでの音楽史を覆し、未だに破られることのない金字塔を打ち出した。

そのときに見た彼女の印象といえば、「意外と普通の人間なんだな」ということ。曲の凄さばかりがフォーカスされがちだが、人間性としてすごい親しみを持ったり、ひょっとしたらどこかにいるのかもしれないみたいな空気感を帯びていたりするように思える。

((↑その時のライブ、ライブ中の模様も見れるよ))

そのときに似た感情を、2021年10月16日(土)の大阪城ホールで感じていた。

藤井風 初のアリーナツアー

デビューから僅か2年にも関わらず、音楽ストーリミングサービスでの楽曲再生回数は1億回越え、その知名度をより広げている。9月4日に行われた日産スタジアムでの無観客ライブで、多くの音楽ファンに衝撃と感動を与えたことも記憶に新しい。

そんな彼が、初めてのアリーナツアーを開催する。さっき書いた「僅か2年」という言葉が、枕詞や謳い文句じゃなく、彼の今の注目度と人気を鑑みたら、それは「待ってました!」って声になるのかもしれない。

事実、この日の大阪の観客の熱気はとんでもなかった。感染症の影響をコンサート業界が受ける前にも、この大阪城ホールで何本もライブに行ったことがあったのだが、ここまで厚くよく響き、そして温かみのある拍手を耳にするのは、この日が初めてだった。マスクをする、声を出さないなどの制約があるにも関わらず、そんなことを遥かに超えてくるような熱気がこの日の城ホには包まれていた。

これから、この日のライブの模様をまとめたい。
これを書いているのは、帰路に着く新幹線の中、まだライブが終演して1時間半くらいしか経っていない。忘備録のつもりで書くのだが、どこかこの興奮を刻み込みたくて書いている(故に更新できるのが翌日であっても、ライブに関しては「今日」と表記してることがあるかもしれない、そこはご理解願いたい)。

これは、人生で初めて藤井風に遭遇したいち音楽ファンのドキュメントだ。温かい目で見てほしい。

⚠️以下、ライブのネタバレが記載されます。これから参戦される方で、セットリストの情報を知りたくない方、ネタバレを避けたい方はここで引き返すことをお勧めいたします⚠️

初遭遇したその瞬間

開演 18:07   終演 19:43

物販のこととか、普段ならライブ前の様子も一気に書いちゃうんだけど、今日はライブの模様から書いていく。

感染対策のため、グループディスタンス(2席購入された方は連番で隣を空席にするシステム)が施された大阪城ホールは、およそ5,000人以上の観客で埋まっていた。もちろん、観客全員がマスクをしたり声を出さないというガイドラインを遵守しており、開演前の客席は客入れのBGMがじっくりと流れ、それが鮮明に聞こえるほどだった。

定刻を数分過ぎた18時07分、客入りのBGMに藤井風の歌声が乗り始めた。Lizzoの「Good As Hell」のピアノ弾き語りカバーだ(配信限定作品『青春病 EP』に収録)。それに合わせて、観客が一斉に手拍子をし始め、曲の終盤にサポートメンバーの3人がステージに登場。ギターのTAIKING(Suchmos)、ベースの真船勝博、ドラムの佐治宣英の3人だ。各々が定位置についたところで、ステージが暗転した。

すると、聴こえてきたのはアルトサックスの音色。
ステージの真ん中にピンスポットが当たると、そこにはサックスを持ちながら「風よ」を吹く藤井風本人の姿があった。

それに気付いた瞬間、歓声のような大きな拍手がホールに鳴り響く。そして、ホールにいる全員が、その音に酔いしれていく。

その客席の様子、そしてステージを観たときに、私は震えたのだ。今どき、K-POPやダンス系が世の中の主流になっていく中で、このジャジーな音がメインストリームのど真ん中で、観客が求めているっていうことに、感動したのだ。

そして何より、音がいい。
開口1発目のサックスの音の良さ、そしてバンドのグルーヴの良さ、そして曲のメロディの良さに震え上がる。歌でもなく、持ち味のピアノでもなく、サックスの音で魅了する彼の姿がとてつもなく神々しく見えたのだった。

サックスを置き、その手にマイクを持った彼は、その音の余韻がホール全体に残る中、「調子のっちゃって」を歌い始める。R&Bの心地よさが、素敵なコード進行が展開される1曲、そして艶っぽい声にまた耳が恋してしまうのだ。

この日、私の耳元に起きてたことは、一音一音に恋して蕩けてしまう瞬間の連続だった。普段なら最大1万人以上を収容するこの大きなアリーナで、ここまでいい音が鳴り響くということの衝撃に加えて、彼の音そのものの魅力が、ダムの決壊以上のインパクトと相反するようなその優しさで鼓膜を抱きしめたのだった。

サックスの音に酔いしれ、歌声に震え上がったあとは、そのピアノの音に酔いしれる番だった。最初の4音を聴いた瞬間に、その曲のタイトルが頭の中に浮かび、頭の中の回路が繋がった瞬間にその歌声が身体を包み始める。「優しさ」というナンバーは、そのピアノの音の巧みさだけで無く、バンドメンバーのグルーヴが光る曲でもあった。スネアが静かに跳ねるドラム、ずっしりとした低音の鳴るベース、程よく挟まれるギターのストローク。そこに、風さんのピアノと歌声が乗り、極上の5重奏が奏でられるのだ。

最初のMCが挟まれる前の3曲で、もう観客全員が風さんの音に耳がチューニングアップされた。いや、元から耳がそこに照準があってたとしても、ピント僅か0.数ミリの誤差を、最初の3曲だけでピチッと耳だけでなく、身体や心そのものまでそこに向いてたのだった。

もはや、オールマイティー

序盤3曲を終えたところで、「こんにちは、藤井風です」と挨拶をする。その一言で、それまでその音に酔いしれていた客席が一気に解れる。

歌っている時の凜とした格好良さと喋っている時の緩さのギャップが、彼の持ち味のひとつだ。

「ライブ始まる前に、客席の色んなところからステージを見たんですけど、物理的な近い遠いがあったとしても、心の距離は近いと思ってるから。(中略) 今回のツアー “HELP EVER ARENA TOUR”、略して“HEAT” 熱です。良い意味で… 良い意味で?いや、良い意味でも悪い意味でも、互いに熱くなって楽しみませんか?」

その言葉に応えるように、優しい拍手が城ホを包み込む。そうすると、その言葉の通りに一気に会場の熱気が高まる瞬間が続くのだった。

「みんなが好きなこの曲を行きましょう」と始めた今年を代表する1曲となった「きらり」では、MVと同様にダンサーたちが登場し、風さんが踊りながら歌った。序盤で一気に驚かせたのに、まだまだその引き出しがあったのかとまた興奮する私。

武道館ライブでも登場したロボットダンサーと踊りながら歌う「キリがないから」では妖しい照明がステージを彩り、続く「へでもねーよ」では先程登場したダンサーたちと吐き出すようにそのリリックを歌い上げる。

一度MCを挟み、「このツアーではサポートダンサーがいます。踊り盛り上がったところで、次はバンドの皆さんいきましょうか。Next song… “Flevor of Sins"」とイントロが印象的な「罪の香り」をドロップ。スタンドマイクで歌うその姿は、踊って歌うさっきまでの姿とは打って変わり、艶っぽく色気のある男の姿だった。

「もうええわ」では、会場に常時置かれている卓上ピアノではなく、可動式の電子ピアノがフロントに置かれ、立ちながら弾いて歌い上げた。ブレイクを挟むことなく、続けて歌った「死ぬのがいいわ」との繋ぎの巧妙さといったら、何を例えよう?

ここまでの6曲で一気にたたみかけてきた、という感じがあった。それは、どれも雰囲気も系統も違うようなものなのに、どれを切り取っても藤井風にしかならないことに、観客は骨抜き状態なのだ。

歌って弾けるだけじゃない。
踊って魅せるだけじゃない。

なんでもやりきっちゃう。
どれも、圧巻のパフォーマンスとして。

そこに、藤井風たる凄さがあった。

最近、テレビ番組のインタビューに答えた映像で「マイケル・ジャクソンに影響を受けたこと」だとか、「90年台のR&Bが好き」ということを答えていたのが記憶に新しいのだが、彼はその懐かしいような要素に加えて、今の2020年代の音をしっかりと昇華してみせている。

懐かしい、という言葉でまとめるのなら、前述のマイケル・ジャクソンに限らず、プリンスや岡村靖幸といった歌って踊る、そして自ら曲を手がけるスタイルを彷彿させるのは事実としてある。一方の新しい、という言葉を触れるのなら、既存のポップスにはないような音作りに加えて、彼自身が発信し続けたYouTubeというフォーマット、そしてそれを飛び越え今の音楽の聴き方や寄り添い方にあっている曲があるという手腕。例えば、「きらり」のMVにあるような振り付けを「踊ってみた動画」として出して話題にするなど、今の話題やトレンドを意識した発信(意図せずになっている部分もあるにせよ)が挙げられる。その二つの掛け合わせで、彼の音楽が成り立ってるんだなと、ここまでのパフォーマンスを観ていると、確かに感じるのだった。

なんでもやってみせる、オールマイティーなものだ。それをそう感じさせずに、藤井風という独自性として提示しきってしまうことが、彼の恐ろしさなのだと思うのです。

ライブとしての圧巻性

「次の曲ではみんなとClap&… 指パッチン、Snap&Clapしてもらいたいです。サポートメンバーのみんながいいタイミングで合図してくれると思うから」といい、ピアノの前について歌い始めたのは「特にない」。タイミングに合わせて、手拍子したり指パッチンしたりする様子は、ライブの中で徐々に観客とステージとの心の距離が近くなっていった証拠だった。

優しく軽やかな歌で繋がった曲に続いたのは、アルバム『HELP EVER HURT NEVER』のラストを締め括る1曲「優しさ」。死生観や生きることの美しさを歌ったこの曲の終盤では、ステージ全体が星空のように無数の光の粒に照らし出されるシーンが印象的だった。

「まだまだですよ、青春は終わりませんから」という言葉で「青春病」を歌い始め、静かに聴き惚れていたフロアはまた温かな手拍子に包まれ始めた。

今回のツアーは、今までとは違いほぼ全曲オリジナル曲で構成されるセットリストなのだが、1曲1曲の濃度の濃さに加えて、それぞれの緩急の付け方、そして曲の魅せ方や繋ぎ方で楽しませる要素がこのライブの中にはいくつもあった。序盤の「調子のっちゃって」〜「優しさ」だとか、「もうええわ」〜「死ぬのがいいわ」のような流れみたいに、ここでの流れは曲ごとのメッセージ性での連動だとか、盛り上がり方での繋げ方がうまく成り立ってるなと思う瞬間に満ちていたのでした。

個人的に、今回のライブはほぼ予習なしで挑んでいました。アルバムや新曲はしっかり聴いてはいましたけど、ライブ自体は映像でもしっかり観たことはなかったのです。そんな中で、このことを一気に成し遂げる藤井風… すげぇなと、なんか最終的な結論は彼になりたいとか考え出したりしてるんです。それだけ… すごいことが目の前では起きているんです…!!

ラストスパートの“HEAT”

ここでメンバー紹介が入り、風さんがメンバーひとりひとりを紹介した。ドラムの佐治さんは「ライブが色々とある中で、皆さんの前に立ててドラム叩けることが一番嬉しいです、ありがとう!」と話し、ベースの真船さんは「地元が大阪の鶴橋なので、この大阪城ホールで偉大なアーティストのサポートでステージに立てて光栄です」と話した。ギターのTAIKINGさんは「バンドでも立ったことのないここ大阪城ホールで、ギターを鳴らせることが嬉しいです」と語った。

そして、「ボーカル 藤井風」と話し、バンドがセッションし始めたのは、TAIKINGが属するバンド・Suchmosの名曲「STAY TUNE」だった。印象的なサビのメロディを歌い出すと、客席は一気にHEATし、踊り始めるのだった。その熱気のまま、「何なんw」でライブは一気にラストスパートを駆け抜け始める。

「心の中で歌ってくれや」と話し、サビでマイクを向ける姿たるや、そしてこの曲での客席のクラップの分厚さたるや… それは聴いたことの無い音楽そのものだった。CDやサブスクの音源よりも、圧倒的にかっこよくて、最高に堪らない音… 言葉にならなかった。

そのHEATの最中、風さんは客席に向かい「新曲聴いてくれましたか?Next song… “MO-EH-YO”」と、最新曲「燃えよ」を披露。ここで再び、サポートダンサーズが登場し、風さんとともに踊り、終盤ではショルダーピアノを持ち、ステージ前方でキーボードを弾く姿で、ライブはよりHEATした。

サポートダンサー 5人の紹介・彼らのダンスソロで、彼らを送り出した後は、ライブ終盤戦のロックナンバー「さよならべいべ」で客席と共に手を振りHEATする。

思えば、ラストスパートの3曲とも、音像が全然違うのに、どれもはっきりとクリアに聴こえたんだよな。風チームの音響さんの仕事すげぇな、なんかどのライブよりも音がはっきりしてて凄かったな。。

そんな心地よい残響音が耳元を抱きしめる中、風さんは名残惜しそうに「次の曲でラストになります。次やる曲は起こること全てに意味はある、そういうことを書いた曲です」と話し始める。そんな切なさと気持ちに包まれた「旅路」を歌い上げ、バンドメンバーはステージ前に並び、お辞儀をしてステージをあとにした。

風さんはひとり残り、ステージの隅から隅を歩き、客席に手を振って応えていた。「また会えるから、元気にしといてな。藤井風でした」と話し、ステージを後にした。

アンコールなし、彼自身のオリジナル曲16曲全てを歌い上げ、約1時間40分のライブが幕を下ろした。

ライブを観終えて…

この欄を書いてるのが、自宅(静岡)に戻って、風呂から出た深夜1時過ぎ。すごい遅い時間の更新になってしまいましたね。

ライブが終わって6時間は経つのかな?
それでも、頭の中にはその時の余韻が綺麗に残ってるし、音の一粒一粒がレコードみたいにしっかりと刻み込まれている。

感想をまとめるってことが、なかなか難しい話なんだよね。実を言うと、それこそが素晴らしいライブの所以なんじゃ無いかなと思っていて。

それは、上手い一言で括ることができるのなら、そのライブや音楽はその概念だけで十分になってしまうから。それはそれで、私からしたら寂しい話に聞こえてしまいそうで。

でも、この日の藤井風のライブは何もかもが凄すぎた。何がすごいのか? それは聴いてるあなたが感じるように… 恐らくそのアンサーは一人一人似てるようで違うものになるはず。

だけど、その違う声のひとつ一つを切り取っても、どれもが藤井風のオリジナリティになるし、どれかが欠けていても藤井風にはならないように思うからだ。

今回のツアー、行ける日程を洗い、横浜・大阪・代々木を応募したのだが、結果取れたのがこの日の大阪初日公演だったのです。

今思うこと、それはまた藤井風のライブに行きたいということ。もしかしたら、次のツアーにはまた大きなリリースがあったりして?その新曲がどんなものなのか、そして次はどんなステージを魅せてくれるのか?耳元が恋しちゃうのか?

考え出したら、キリがないからな。。。

そんな幸せなことを思って、この忘備録を締め括ろうと思います。楽しかったです!!!!♡

P.S. これは藤井風と関係あるようで無いかもしれない話なんですけども。

実はこの日のライブで、少し気になってたことが前からありました。それは、サポートギタリストとして参加していたTAIKINGさんのこと。

彼がメンバーとして所属するバンド・Suchmosのベーシスト・HSUさんの訃報が先日流れたばかりで、この日がメンバーとして初めて表舞台に立ったのでした。

多分、一部のファンからは「HSUさんに関する話が出るのかな」とか思ってたりしたはず。

結論から言えば、その話題に触れることはなかったです。というか、あくまでもサポートとして参加してたからその話題に触れることがなかったんだと思うし。

この日、TAIKINGさんをみていると、盛り上がる曲では誰よりも笑っていたし、しんみりとする曲では誰よりも真剣に弾いていたような印象があったなぁ…

思えば、藤井風の曲の中に生きるとか死ぬとかの話が織り込まれた曲って多いような印象があって。だから、どこかこの日のプレイの中には自ずとその要素を刹那に感じさせる瞬間が多かったような気がしていて。だからなのか、なんか儚くて一瞬な感覚がありました。

うーん、なんか今それとライブを結びつけるのは難しいし、時期尚早な気がしている。何かしら、その件に関しては本人たちからのコメントを待つことにしますね。余談でした。

((この日のセットリスト))

Fujii Kaze “HELP EVER ARENA TOUR”
2021.10.16 大阪城ホール

01, 風よ
02, 調子のっちゃって
03, 優しさ
04, きらり
05, キリがないから
06, へでもねーよ
07, 罪の香り
08, もうええわ
09, 死ぬのがいいわ
10, 特にない
11, 帰ろう
12, 青春病
13, 何なんw
14, 燃えよ
15, さよならべいべ
16, 旅路

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noteを最後まで読んでいただき、
ありがとうございました!

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