自由の奴隷

俺には中学の頃恋人がいた。家が近くって一緒によく学校から帰っていた。
別に何をするわけでもなかったが、交換日記をしたり、プリクラ撮ったり、むずがゆい気持ちになったり楽しかった。
付き合っては別れて付き合っては別れて、それぞれの高校に進学した。それから大学に入り、彼女は短大に入った。それからも仲良くしていた。
だがある日、彼女に彼氏ができて音信不通になった。

ずっと心配していた。友達も音信不通のようだった。
ある日、彼女の地元の女友達と話す機会があった。どうやら彼氏の束縛が強く、彼女は男友達は全て切らなければならない状況だった。
俺は少し寂しくなった。遠くに行ってしまうような。だが、その頃俺は付き合っていた彼女がいたので自分には正直関係ない、または人生ってそんな感じでバラバラになってくんだと考えてた。ちょっとだけそんなやつに捕まった彼女を蔑んだ。少し調子に乗っていた。

それから付き合っていた彼女と別れ、成人式。地元のホールで地元の小学校、中学校の友達にたくさんあった。俺は身長があんなに小さくて華奢だった子がデカくなったのに驚いたり、女性陣はみんな振袖を着て華やかだった。
まだ大人になりきれない、青い活気がホールの周辺に沸いていた。そんな中、彼女を探していた自分もいた。

彼女は成人式に来ていた。

振袖を着て、手を振って俺の名前を呼んだ。
「1番会いたかった」と言われた。
俺はなんで言っていいのかわからなくて「うん」とだけ頷いた。変な顔、声をしていないか。気になった。少し蔑み、強がりたかった。でも心の底から心配していた。生きて動いてる変わらない彼女がそこにいた。嬉しかった。嬉しかったのに少し素直になれなかった。その上の濁った感情を取り除くにはもうちょっとだけ長い時間が必要だった。
ふと、「ねぇ、会いたくなかったの」と言われた。
そこからはよく覚えていない。多分上手く答えられてはいなかった。

それから俺は、今。
気になるんだ。彼女が今何をしているのかなって。今どんな気持ちでいるのかなって。生きているのかなって。電話しちゃおうかな。かけても出ないや。めっちゃ気になるんだ。あの夜公園でタバコを吸っていたら近くを通り過ぎた若い子が君だったんじゃねぇかってずっと思い出すんだ。
探してしまうんだ。朝の駅のホーム。道端。飛び出した道の向こうの塀の裏に隠れた。イヤホンから流れるシューゲイザー。眠い講義中。夢の中。かったるくって吐き出した煙の先の景色。階段。バイト先で見かけた?さっき通り過ぎたビルボード。着信拒否。既読のつかないチャットボックス。普通印旛日本医大行き。駅のホーム。イヤホンから流れるノイズミュージック。あの夜の公園。
あの彼氏と付き合う前に俺に教えてくれた。
「あたしいじめられてたから地元の人信用してない。」「(⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎)だけだよ」
脳が鳴る。ひどく歪んだノイズで忘れかけそうになる。かき消されそうになる。
やめとけって言っただろ。俺が1番知ってるよ。俺が1番わかるよ。俺がぜってぇに幸せにしてみせるよ。モラハラされてるんだろ。そんな束縛おかしいよ。俺絶対そんなこと言わないよ。絶対離さないよ。ごめんね、ごめんね、ごめんね。最低でも俺そのまま連れて行けば俺の気持ちは晴れたね。君は嫌だって手を振り解くのかな。それかどこか行けたのかな。わかんないね。ごめんね、あんな顔してごめん。ごめんなさい。
ていうか俺俺おこがましいのかなぁ。俺、お節介なのんだよな。俺、寂しいのかなぁ。俺、イカれてるんだなぁ。ごめんね。わかんだ。わかんだけどでもさ、俺お前と付き合いたいんだよな。もう一度。

自由の奴隷と誰かが言った。名前は覚えていない。

彼女の自由意志は恋人に囚われているのか。自分で自分のそれについて言及するのはもっと彼女を窮屈にさせていないか。彼女の本当の解放の日はいつか。自由になったら何がしたいか。俺は何がしたいか。それは正義かどうか。
本当の自分であろうとする自分から目を背けることから絶望は始まるとキルケゴールは言った。
もう自分なんて忘れてしまったのだろうか。絶望のドン底まで行ってしまったのかな。わからない。わからないけど、また会いたい。成人式のこと、ごめんって言いたい。また俺と話してほしいな。

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