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【AZアーカイブ】使い魔くん千年王国 第十三章&十四章 怪盗フーケ(前編・中編)

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【第十三章 怪盗フーケ(前編)】

召喚から約3週間目。
マツシタは相変わらずだ。「信者が30人前後で頭打ちだ」などと嘆いているが、普通なら異端審問が怖くて『東方』の宗教などにはまらないだろう。「ブリミル教も研究せねば」とか言って図書館に篭っている。タバサに文字を教えてもらっているらしいが、やけに覚えるのが早い。

ギーシュとモンモランシーは、マツシタが買ってきた秘薬を与えて回復させた。性格はあまり変わらなかったが、二人ともマツシタに恐怖と恩を刷り込まれたので、従順な使徒となることだろう。何かが頭の中で、もそもそ動いている気がする、なんて二人が言ってたけど、何を入れたのかしらあいつ。

あとは、『波濤』のモット伯が邸宅をイノシシとカラスの大群に襲われた。
しばらくして学院に来ると、マツシタに財産を捧げて忠誠を誓った。「資金源および王宮へのつなぎだ。これで秘薬の代金も支払える」とのこと。……あはははは、もうどうにでもなれ。

「む~~~~っ、何で使い魔のあんたが魔法を使えて、御主人様の私が使えないのよ…不公平だわ! どおせ『ゼロ』のルイズよ!」
ベッドにうつぶせになってふてくされる。いつまで『ゼロ』なんだろう。

松下は羊皮紙に何かを書き込みながら答える。
「『ゼロ』という二つ名もそう悪いものでもない。『東方』でゼロは『0』と書くのだが、これはプラスにもマイナスにもなる無限の可能性を持った円環であり、未分化の力である『ウロボロスの蛇』を象徴する。また無尽蔵の扉である時空間の子宮でもあり、仏教における……」
何を言っているのかよく分からないけど、褒められてるのかしら。

「……だから現代量子力学における『ゼロ』というのは、無限大と無限小の……エネルギーがどこから湧き出すかと言えば、つまりさっき説明した次元間の断裂が……」
いいから私にも分かる言葉で説明しなさい。眠くなってきちゃったわ。

「………よって、ここから証明される答えは……うむ……おや?……いかん! このままではハルケギニアは滅亡する!」
「な、なんだってーーー!」

さっきの滅亡うんぬんは計算の間違いだったらしい。人騒がせな。
「あーーーーーもうっ!! むかつくわあのクソガキっ!!ちょっと魔法が使えるからって偉そうにっ!!」
ストレスが溜まってしょうがない。私だってちょっと練習すれば、魔法なんてすぐ使える。中庭に出て久しぶりに魔法の練習だ。今度こそ爆発しないように。

夜の『宝物庫』前。そこには黒いフードを被った影が一つ、壁に手を触れて何かを調べていた。
「流石は学院本塔の壁。しっかりとスクウェア・クラスの固定化魔法が何重にもかけてあるわ。少々の魔法や物理攻撃じゃあどうにも出来ないじゃないの。まあ、それぐらいじゃなきゃこっちも燃えてこないさ」
盗賊だ。それも女らしい。彼女が犯行計画を練り直すべく、立ち去ろうというとき……。
「あれは、ヴァリエールの? 何しにここへ……」

「ねえルイズ、どうせまた爆発しか起こらないんだからやめときなさい。いや、むしろあの破壊力を有効活用すべきかしら?」
「うっさいツェルプストー! 何であんたもついて来るのよ!」
「夜中に一人じゃ怖いでしょ? 何か出たりして♪」
ルイズとキュルケだ。ルイズはともかく、キュルケは厄介かもしれない。

「……いっけえ! 『火球』!!」KABOOM!
ルイズの魔法はいつもどおり失敗し、その爆発は狙いも外れて本塔の壁に直撃する。すると、スクウェアクラスの防御魔法が何重にもかけてあるはずの壁にヒビが入る。
「……ははっ、こりゃ有難い! あいつらの驚く顔も見たいし、ここはいっちょやってやりますか!」

物陰に潜んでいた盗賊は、呪文を唱えて足元の地面から巨大な『土のゴーレム』を創造する。身の丈30メイルはあろうか。見るからに鈍重そうだが、胴周りは塔にも匹敵する。
「そおれ!!」KRAAASH!
土の巨人は瞬く間に『宝物庫』の壁をパンチで粉砕し、あっけにとられるルイズとキュルケを尻目に、中から何かを奪い去った。突然の轟音に部屋から飛び出した者もいたが、盗賊は姿をくらましていた。

翌朝。ルイズとキュルケ、ついでに松下は、学院長室に呼び出されていた。
オールド・オスマンが口を開く。
「諸君。今日呼び出したのは、昨夜宝物庫周辺で見たことを聞くためじゃ」
緑の髪に眼鏡の美人秘書、ミス・ロングビルが状況を説明する。
「昨日の夜、宝物庫の一部が破壊され、その中からあるマジックアイテムが盗み出されました。犯人は、残された犯行声明によれば『土くれのフーケ』。最近巷を騒がしているメイジの盗賊です」

「ぼくは見ていないぞ」
「あんたには聞いてないのマツシタ!……巨大な『土のゴーレム』が、拳の一撃で壁を破壊しました。トライアングルクラスはあったと思います」
「ふうむ、ゴーレム程度の攻撃ではそうそう崩れんはずじゃったがのう」
「別の生徒が、学院から飛び去った『黒いローブの大柄な人影』を目撃しています。おそらくフーケ本人か、その仲間でしょう。近くにいたあなたたちは、他に何か見ていませんか? 顔かたちなどは?」
「いえ……夜だったし急なことだったので……」

「ふむ。『大柄』ということは男なのかな。しかしそれだけでは……」
考察する松下を制し、ルイズが質問する。
「あの、学院長。フーケに盗まれたというのは、どのようなマジックアイテムなのですか?」
「うむ、『魔界の杖』と呼ばれるものじゃ」
「魔界……?」
「名前はまあ物騒じゃが、特に変哲もないマジックアイテムじゃよ。ちょっと事情があって、古い友人からわしが預かっておったのじゃ。宝物庫に入れるため、一応王室の許可も取っている。魔法学院に居るのはほとんどがメイジ、それに宝物庫には強力な『固定化』の魔法がかけられておった。保管するに、ここより適した場所は無いというわけじゃ。……しかし、まさかこんな盗まれ方をされるとは」

結局手がかりはそれ以上掴めず、ロングビルに調査を任せることになった。

事件から3日後、ロングビルの調査報告がまとまった。再びルイズとキュルケ、ついでに松下と、一緒にいたタバサが学院長室に集まる。
「フーケの居所が分かりました。それらしい姿を見た農民がいるようです」
近くの森の廃屋にフーケが潜伏しているらしい。そこが仮のアジトということなのか。
「では、捜索隊を派遣するとしよう。『魔界の杖』が見つかればよし、フーケを捕縛できればそれに勝る手柄はない。さあ、我こそはと思う者は杖を掲げよ」

学院長は呼びかけるが、教師たちは誰も杖を掲げようとしない。
「これどうした、フーケを捕らえて名をあげようという者はおらんのか?」

「ミセス・シュヴルーズがあの晩は当直でした」「そ、そうですが、今日はミスタ・ギトーの当直では」「じゃあきみたち二人で行けばいいでしょう」
「わ、私はしばらく忙しいのですよ」「そんなに急いだ事も……」

なんという無責任な教師たちであろう。普段は威張っているくせに。学生運動が起きたら逃げ出しそうな軟弱さだ。

「私が行きます!」

と、杖を掲げたのはルイズ。これには松下も驚いた。
「あなたは生徒ではありませんか」「先生方はどなたも杖を掲げないじゃありませんか!」

と、もう一本杖があがる。「じゃあ、志願します。ヴァリエールには負けられませんもの」「ツェルプストー!」
その横ですっと杖を掲げるタバサ。「私も行く………心配だから」
「ふぉふぉふぉ、それではこの三人、いや四人に捜索を頼むとするかのう」
オールド・オスマンがすっと視線を松下に、ついでタバサに向ける。

「ミス・タバサは『シュヴァリエ』の称号を持つ騎士だと聞いている。この若さでそれを持つ彼女の実力は、相当なもの。ミス・ツェルプストーは、ゲルマニアの優秀な軍人を数多く輩出した家系の出身で、彼女の炎の魔法もトライアングル級と、かなり強力。で、ミス・ヴァリエールは……」

……オールド・オスマンは言葉を探す。

「ミス・ヴァリエールは、数々の優秀なメイジを輩出したヴァリエール公爵の息女で、ええと、その、なんだ、将来有望なメイジと聞いておる。それに知っての通り、その使い魔マツシタくんは強力なメイジ。彼の力を持ってすれば、『土くれのフーケ』に遅れを取ることはあるまいて!」
松下を見返したい思いで志願したルイズは、肩を落として自分の使い魔を睨む。松下は受け流す。「それじゃあ、ぼくも行きましょうか」

「では、魔法学院は、諸君らの努力と、貴族としての義務に期待する!」
「「「杖にかけて!」」」

【第十四章 怪盗フーケ(中編)】

案内役のミス・ロングビルが手綱を引く学院の馬車に揺られ、ルイズ、キュルケ、タバサ、松下の一行は土くれのフーケのアジトらしき廃屋を目指す。

「近くと言っても、片道馬車で半日もかかるとはな。悠長なことだ」
「山道……シルフィードに乗っていけばすぐだけど、目立つ」
「準備もあったし、着く頃には夕方ね。貴族の邸宅へお仕事に出るフーケと鉢合わせしなけりゃいいけど」
「その時こそ、フーケをその場で取り押さえるの!」
「ああーはいはい、できればね。土のトライアングルよ、相手は」

「しかし、貴族以外にもメイジはいるのか?」
「もとは貴族でも、勢力争いで追放されたり没落したりして金とコネがなくなって、平民に身を落とす奴らもいるの。でもプライド高いから正業に就かないで、盗賊や雇われメイジになることが多いのよ。そういえば、たしかミス・ロングビルもそのクチよね。……ねねね、何で貴族の名を捨てたの? 恋愛絡み?」

「やめなさいよ。あんたの祖国じゃどうか知らないけど、トリステインじゃそういうのは失礼よ!」
「実力はどれぐらいだ? フーケに対抗できるなら心強い」
苦く微笑むロングビル。
「土のラインレベルです。残念ながら、皆さんほどの力もありませんよ」

馬車で半日は退屈だ。話し好きなキュルケが、雑談がてらいろいろな情報を聞き出す。
「でも、『魔界の杖』ってどんな形なの? オールド・オスマンは『随分昔に預かって、しまいこんだままだから忘れた』なんていってたわ」
「箱の形状は調べてあります。その箱にも固定化魔法がかけてあり、この鍵でしか開きません」
ミス・ロングビルが箱の絵と鍵を見せる。これも学院からの借り物だ。
「取り返せないと、王宮から管理責任を問われ、学院の威信も下がります」

太陽がかなり傾いた頃、薄暗い森の奥の廃屋に着いた。もとは炭焼き小屋らしい。周囲にまだ薪が積んである。物陰に潜んで周囲の様子を伺うが……。
「ちょっと冷え込んで来たわね…さっさと秘宝を奪還して帰りましょう。置いてあればの話だけど、ここまで来て無駄足踏むのはごめんよ」
キュルケが空中に小さな火を点けて、明かりと熱にする。
「泊りがけの任務かあ。私、野宿なんてしたことないわ」

小屋の中にも周りにも、特に気配はない。『仕事中』ということか。
「じゃあ、私とマツシタくんで偵察。タバサはルイズとミス・ロングビルを守って」「……了解」
むくれるルイズを置いて、二人は慎重に小屋へ向かう。罠は見つからない。
「いい、じゃあ開けるわよ」「よし」

ぎぎぃ、と音がして小屋の扉が開いた。

「ぷわっ、ホコリっぽい! カビ臭いし、蜘蛛の巣が張ってるじゃない」
「ところどころに新しい足跡がある。誰かのねぐらではあったようだな」
キュルケと松下は、火で照らしてして小屋の中を捜索するが、なかなか見つからない。

「本当にあるのかしら、秘宝なんて。無駄足踏まされたの?」
「杖がなくても、フーケの盗品があれば、密かに失敬するつもりだったが」
「まあ、計算高いのねマツシタくん! それはいい考えだわ」
と、その時、小屋の外から絹を裂くような悲鳴が!

「で、で、出たわね!」
ルイズたちの前に、突如フーケのゴーレムが現れた! タバサが風の魔法で攻撃するが、相当な威力にも関わらず効果は薄い。風では土に敵わないのだ。多少のダメージはあるが、すぐ修復してしまう!

「ミ、ミス・ロングビル!! 逃げて!」
ゴーレムを挟んでルイズたちの反対側にいたロングビルは、杖を構えながら後退するが、ゴーレムは巨大な足を上げて踏み殺そうとする!
「こ、このっ! こっちに来なさい!」
ルイズが開き直って爆発魔法を撃つが、狙いが定まらない!

KRAAAASH!
無情にも、ミス・ロングビルはゴーレムに踏み潰されてしまう! 即死だろう。騒ぎを聞いたキュルケと松下はそれらしい箱を抱え外に出るが、小屋の前で彼女が死ぬ瞬間を見てしまう。しかし彼女は最期に鍵を投げて、松下に渡した。もうもうと土煙が立ち昇る……。

土のゴーレムの肩には、黒いローブの大柄な男の影。

「な、なんてこと! ルイズ! タバサ!」「一時撤退」
タバサは口笛を吹き、森に潜ませていたシルフィードを呼び寄せる。全員それに乗り、上空に退避した。
「なんとも儚いことだ。だが、おかげで杖は奪還できたぞ。この鍵で開けられるんだったな。よし……」

箱の中から出て来た『魔界の杖』は、かなり奇妙な形をしていた。長さは松下の背丈よりやや短いが、古い木製の杖で、前側には奇怪な蛮族の顔が彫り付けられ、トーテムポールのように縦に顔が連なっている。また上に行くほど太く、下に行くほど細い。さらに上で二つに枝分かれし、その先には老人の干し首に似た異様な頭部が各々付いている。頭部には長い白髪が植えつけられており、目鼻立ちがはっきりしないのが余計不気味だ。

「たしかに魔力を感じるけど……悪趣味ね」

キュルケが率直な感想を述べる。松下はこれを見て驚いた。見覚えがある。
「おお……これは『占い杖』じゃないか!」

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