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【AZアーカイブ】使い魔くん千年王国 第十七章&十八章 王女来訪&友の依頼

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【十七章 王女来訪】

マツシタを召喚してから、1ヶ月にもなるだろうか。もう初夏だ。フーケを逮捕してから、とりたてて大事件はないのだが……。国際ニュースでは、アルビオン王国で国王派が貴族派に追い詰められ、王城が陥落寸前だとか。

なんだか時間の流れがすっごく早いような、遅いような感じがする。9割がたこいつのせいよ。簡単なコモンマジックは使えるし、わけのわからない先住魔法も使える、この変な『使い魔』のせい。布教活動を自重してからは、なんだか小汚いホウキやガラス壜を弄くっているけど……。

「おお、やっとできた。あとはこれを量産化すればいいな」
「なにそれ? ただのホウキじゃない」
「『魔女のホウキ』だ。これに跨ると平民でも空を飛べる。まだ『飛翔』の使えない御主人様もどうだ? ベラドンナ草を煎じて飲んで、ヒキガエルの香油を体に塗らなければならないが」
「草はともかく、誰がそんな気持ち悪い香油を塗るもんですか!」
「猫の皮とヤモリを食べると、もっと早く飛べるぞ」
「やめて……それにこの壜に入った、甘ったるい臭いのする液体は何?」

「これは『魔酒』とも『希望酒』ともいって、ミネラルの多い水に竹の花を集めて作った酒だ。飲んだ者は希望に満ちて大きな借金も平気になり、以後これがないと禁断症状が」
麻薬じゃない!! そんな恐ろしいものを私の部屋で作らないで!!」
「モット伯や金余りの貴族連中に飲ませて、もっと資金を搾り取ろうと思っている。今度は吸い込んだ子供の知能を急激に発達させる『白い粉』を作」
「やめてお願い何でもするから世界征服とかそういうことはしないでこれこのとおりだから」

偉大なる『始祖ブリミル』よ、このルイズが何かあなたを怒らせるようなことをしましたか?

"『悪魔』とは、それを呼び出す力を有するものが、とりもなおさず悪魔ではないのかな……『悪魔くん』の有する、この大きな知恵の力……おお、これこそ悪魔ではないか……この小さな子供『悪魔くん』こそ、真の『悪魔』なのだ……"   ――貸本版『悪魔くん』より

今日も授業だ。松下も神妙に、分厚くなったノートを携えて講義に望む。使い魔だから授業料は免除されている。教室の扉が開き、黒い服装の男性教師が現れる。生徒たちは慌てて席に着いた。

「うほん、では授業を始める。知っての通り、私の二つ名は『疾風』、『疾風』のギトーだ」
この授業の先生であるミスタ・ギトーは、酷薄かつ傲慢なので生徒には不人気であった。
「さて諸君、さっそくだが『最強の系統』とは何か、分かるかね?」
「『虚無』、じゃないんですか?」
キュルケのその言葉に、ギトーは肩をすくめた。

「私は伝説の話をしているわけではない。四系統のうちでの現実的な答えを聞いているのだよ」
「じゃあ、この私の『火』に決まっていますわ、ミスタ・ギトー」
「ほほう、ではどうしてそう思うね? ミス・ツェルプストー」
「全てを燃やし尽くせるのは、炎と情熱。破壊こそが『火の系統』の本領、そうじゃございませんこと?」
「残念ながらそうではない。最強は我が『風の系統』さ。風こそは不可視の剣にして盾。きみの火ぐらいなら『風』で吹き消して見せよう」

ギトーは腰に差した杖を引き抜くと、かちんときているキュルケを指す。
「では試しに、この私に君の得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
「あら、『微熱』のキュルケをなめると、ただの火傷じゃすみませんわよ」
「なあに構わん、本気で来たまえ。でなければ証明になるまい」

どちらも傲慢という点では人後に落ちない。いきなり教室で決闘が始まり、
前の席の生徒はこそこそと後ろへ退避する。なにせトライアングル同士の対決である。キュルケは爆乳の狭間から杖を抜き、ケッと舌打ちして『火球』を放った。だがギトーは、大きな火球を目前にして、手にした杖を横薙ぎに振るう。ざあっと『疾風』が巻き起こり、火球は掻き消されてしまう。

(なあるほど、『系統魔法』には相性がある。火は土を焼き尽くすし、少々の水なら蒸発させる。だが実体のない『風』には効果がないということか。トライアングル同士でも実力差はあろうし)
松下は、間近で見た魔法同士の戦いに考察を加えていた。
(とはいえ、『土くれ』のフーケのゴーレムにはあまりタバサの『風』は効かなかったし、合体魔法といって異なる系統を組み合わせる強力な魔法もあると聞く。使い手しだいだ。あのギトーは、自分の系統を自慢したいだけなのかな。……では、『虚無』とはどんな……)

「ははは、やはり『風』の方が強いようだね、ミス・ツェルプストー。こうした疾風ばかりではなく、『風』系統の上位魔法には、他にも『遍在』と言って……」

突然教室の扉が勢いよく開き、緊張した顔で正装したミスタ・コルベールが現れた。42歳独身にしては寂しいかぎりの禿頭には、ロールした金髪のカツラを被っている。
「ミスタ・ギトー! 失礼しますぞ! おっほん。ええ諸君、今日の授業はすべて中止であります!」
一瞬静かになった教室は、すぐ歓声に包まれる。大歓声にコルベールは一瞬のけ反る。その拍子に、頭に被っていたカツラがとれて床に落ちた。
「滑りやすい」
タバサの一言で、今度は教室が爆笑に包まれた。

コルベールは顔を頭頂まで真赤にし、怒りの表情を露わにしながら怒鳴る。
「でええい黙りなさい! この小童どもが! 大口を開けて下品に笑うとは貴族にあるまじき行い! 貴族はおかしいときは下を向いてこっそり笑うものですぞ! まったく、これでは王室に教育の成果が疑われる!」
温厚なコルベールには珍しい剣幕に、教室は途端に水木風にしーんとする。

「えーおっほん。皆さん、本日は我がトリステイン魔法学院にとってよき日であります。『始祖ブリミルの降臨祭』に並ぶ、めでたい日であります」
平静を取り戻したコルベールが、芝居がかった口調で宣言する。カツラは頭に載せなおした。
「恐れ多くも、先の陛下の忘れ形見、我がトリステイン王国が誇る可憐な一輪の花、アンリエッタ姫殿下が、本日ゲルマニアご訪問からのお帰りに、このトリステイン魔法学院に行啓なされます!」
教室内の、特に男子生徒が色めきたつ。ギーシュが姫殿下の名前を聞いて、悩ましくポーズをとる。

「したがって、粗相があってはいけません。急なことですが、今から全力を挙げて、歓迎式典の準備を行います。そのために本日の授業は全て中止。生徒諸君は正装し、至急正門前に整列すること! 諸君が立派な貴族に成長したことを、姫殿下にお見せする絶好の機会ですぞ! 御覚えがよろしくなるように、しっかりと杖を磨いておきなさい! よろしいですかな!」

「トリステイン王国王女、アンリエッタ姫殿下の、おな―――――り―――――い!!」

呼び出しの衛士が王女の行啓を告げる。お付の女官が馬車から降りてくる王女の手を取り、ルイズたちと同年代の可憐な美少女が姿を見せた。生徒の間から歓声が沸き上がる。胸はルイズよりは大分あるようだ。王女はにっこりと王族的微笑を浮かべると、居並ぶ一同に向けて優雅に手を振った。

(あれが王女か。まだ随分若いが、先王崩御の後はマザリーニ枢機卿という人物が、トリステインの国政を取り仕切っていると聞く……)
松下が宮廷筋からの情報を整理する。貴族の上に立つ王族に取り入るのも、『千年王国』樹立の一手段だ。
「あれがトリステインの王女ねぇ。ふんだ、あたしの方が美人じゃないの」
ゲルマニア人のキュルケがつまらなそうに呟くが、ほとんどの生徒・教師は彼女に見入っていた。

「ああ、なんて美しさ。このギーシュ・ド・グラモンが命をかけてお守りするに相応しい」
「あんたなんかより遥かに有能な近衛隊がついてるわよ。あ、あの方は」
ルイズの視線の先には、羽根帽子を被った凛々しい青年貴族の姿があった。近衛兵の一人なのだろう。公爵家令嬢のルイズが知り合いでもおかしくはないが……。

歓迎の式典はつつがなく終了し、王女は貴賓室に宿泊する。ルイズたちは解散して各々の部屋に戻り、息抜きすることとなった。

その夜遅く。不意にルイズの部屋の窓がノックされた。ノックは規則正しく叩かれた。初めに長く二回、それから短く三回。松下より先に気配に気づいたルイズは、小走りで窓へ向かうと、ゆっくりと開いた。空中に魔法で立っていたのは、真っ黒な頭巾をすっぽりと被った少女。辺りを伺い、誰もいない事を確認した後、ふわりと部屋に入ってくる。

ルイズが驚きの声をあげる前に、少女は口元に指を立てた。
「静かに。敵意はありません」
黒頭巾の少女は『杖』を取り出し、呪文を唱えて軽く振る。
「これは……『魔力感知』?」
「どこに目や耳が光っているか、わかりませんから」
監視の目がないことを確認すると、少女はようやく頭巾を取った。

「あ……あなたは、姫殿下!?」
「ああ、本当にお久しぶりね。ルイズ・フランソワーズ」
そこには、トリステイン国民の憧れの的、アンリエッタ姫殿下がいた。

【第十八章 友の依頼】

突然の王女の来訪に、さしものルイズもがばっとひざまずく。松下も神妙に片膝をつけ、無言でうつむき礼をする。
「こ、このようなところにお忍びで来られるなど、いけません!」
「よいではないですかルイズ。私とは幼馴染の仲でしょう? 今はアンリエッタと呼んで欲しいの」
「しかし……今は……誰かに気づかれたら大事に」
「あの子が噂の使い魔くんね? フーケ捕縛の時も活躍したとか。あんな小さなメイジを召喚するなんて、あなたはやっぱり変わっているわ」

「マツシタ、神妙にしているのは感心だけど、ちょっと部屋を出なさい」
「いいのですよマツシタくん。爵位が差し上げられず、済みませんでした。さあルイズ、まずは昔のように、楽しいおしゃべりをしましょうよ」
しばらく二人は楽しそうに昔話をしていた。一緒にふざけたり、遊んだり、笑いあったり、泣いたり。思い出は尽きない。互いに数少ない遊び友達だったのだ。

松下には、そんな友達はいなかった。大人も子供も皆が『悪魔くん』と呼んで避けた。母親は小さいとき、我が子の異能児ぶりに恐れをなし、心身を病んで死んだ。実業家の父親も彼を持て余し、奥軽井沢の広大な別荘地に引きこもらせ、別荘番夫婦や家庭教師をつけて好きなように振舞わせた。結果はこの通りだ。別に寂しいとは思わなかった。低レベルな凡人など、近くにいるのもわずらわしい。

だがアンリエッタは、時折寂しげな表情を見せた。彼女も立場上、不自由な生活を送ってきたようだ。やがて王女は意を決し、語調を硬くしてルイズに向き直る。
「ルイズ、あなたに話したい事があるの。国家の大事ですから、誰にも話していけません」
「……はい。マツシタはやっぱりちょっと出てなさい」
「いいえ、使い魔と主は一心同体。席を外す必要などありません」
そしてアンリエッタは語り出した……。

「ご存知でしょうが、現在アルビオン国内では、貴族派によるクーデター騒ぎが起きています。目的は王制・王党派を打倒し、貴族連合組織による共和制を目指す政治革命。彼らの名は『レコン・キスタ』。代表者は『クロムウェル』という人物です。伝え聞くところでは、彼らはアルビオンばかりか、始祖ブリミルの降臨した『聖地』をも奪還し、このハルケギニアを統一するつもりだとか。噂の真偽はともあれ、始祖が授けし栄えある王権の一つ、アルビオンのテューダー王朝が倒れようとしているのは事実なのです。そして彼らの矛先は、まずこの小さなトリステインに向く事でしょう。強力なアルビオン艦隊の力をもってすれば、トリステインなんて容易く制圧されてしまいます。そうなれば全て終わり。ですから、わが国は隣国ゲルマニアと同盟しなければならない……」
王女は可憐な顔に憂愁の色をますます深めた。
「つまり、私はゲルマニア皇帝アルブレヒト三世陛下に嫁ぐ事になります」

ルイズが驚いて、王女の言葉をさえぎる。
「なんですって姫様! よりによって、あの野蛮な成り上がりなどと同盟を結ぶなんて」
「ガリアやロマリアとは微妙な仲。援軍を出すかどうかは難しいし、アルビオン艦隊に対抗できるかはわかりません。ゲルマニアは新興国ですが、ゆえに強い。かの国と強固な同盟を結べば、心強い味方となってくれましょう」

安保条約のようなものか。政略結婚は王侯貴族の義務だ、是非もない。そこまで話が進んでいながら、ルイズに内密に頼みたいことというのは……?

「『レコン・キスタ』の内通者は各地にいます。このトリステインの中にも。ですから、彼らはこの同盟計画を嗅ぎつけ、阻止しようとするでしょう。そして、政略結婚を行うに当たって致命的な障害の材料があるのです」
「それは、何でしょうか?」
「手紙です。よりによって、私が書いた…アルビオンの皇太子、ウェールズ殿下への、恋文なのです」

ウェールズ殿下と言えば、次代のアルビオン王国を担う、文武に優れた凛々しき王子(プリンス)。金髪の美青年で人柄も素晴らしく、その声望はトリステインにも響いていた。アンリエッタとは従兄妹にあたるのだとか。まあ恋仲でも不思議はなかろう。

「このままでは、殿下は遅かれ早かれ反乱勢力に捕らえられてしまうでしょう。そうしたら、あの手紙も明るみに出てしまう。そうなったらゲルマニア皇帝との縁談は破談。結果として、トリステインは一国で反乱軍に立ち向かわねばならなくなります」

「では姫様、私に頼みたい事と言うのは」
「そう、私の手紙を、戦場におられるウェールズ殿下から取り戻してきて欲しいのです。臣下であっても、アルビオンの貴族派と内通している可能性が否定できません。最早頼れるものは誰もいないのです。たったひとりのお友達である、あなたを除いて! このようなお願いをすることは、本当に恥ずかしく、情けないと思っています、ルイズ。私はあなたとの友情を利用しようとしているのです。どれほど軽蔑して下さっても構いません」

涙ながらにルイズの退路を断つ王女。意識的なのか無意識にか、王族としての権謀術数を身につけてはいる。

これは―――『受ける』べきだ。小国同士とは言え、伝統ある両国の王位継承者二人に多大な恩が売れる。うまくすれば救国の英雄だ。任務が任務だけに表立っての褒章は難しいだろうが、それだけに両国宮廷内の深いところまで踏み込める『コネ』が得られる。貴族どもの革命ごっこなんぞどうでもいいが、つけいる隙があればどちらも利用は出来る。
(それにルイズが『お友達』だと言うのなら、狡兎死して走狗煮らるということにはなるまい)
松下は、心中密かにほくそ笑んだ。しかし表情には出さない。

「姫様! そんな重要な任務をこの私めに……わかりました! どうぞこのルイズにお任せ下さい! 見事手紙を取り戻し、必ずや姫様のお手元へお届けに参ります」
「おお、なんて心強い! 頼んだわ、ルイズ・フランソワーズ……」
「……はっ! そこにいるのは誰!?」
ルイズの声に、ガタリと廊下側の扉で物音がして、ゆっくりと開く。

「お話は全て伺いました、我らが麗しき姫様」
「ギーシュ!! あんた盗み聞きを」
「どうか、このギーシュ・ド・グラモンにもお役目を仰せ付け下さい。ミス・ヴァリエールをお守りし、必ずやご依頼を果たします」
「あなたは、たしかグラモン元帥の息子ですね。でしたら信頼いたします」
「おお姫様! 感謝いたします!」

「アルビオンの貴族達は、王党派を国の隅にある『ニューカッスル城』まで追い詰めていると聞き及んでいます。国王陛下とウェールズ殿下の居場所もそこ。事態はもう一刻の猶予もありません」
「はい。ならば、明朝の早い時間に、ここを発つ事に致します」
「ええ、頼みましたよ、私のルイズ。トリステインの、もしかしたらハルケギニアの命運は、あなたの小さな双肩にかかっているのですから!」

王女は涙を拭い、鮮やかな青い宝石の嵌った指輪をルイズに渡した。
「これは我が王家に伝わる始祖ブリミルの秘宝、『水のルビー』。たいした手助けは出来ませんが、これをお貸しします。殿下に出会ったら、これをお見せして証明としてください。それと、この書簡もお見せして下さい」
「これは……」
「お見せしたら、焼き捨ててかまいません。亡命をお勧めする機密文書ですから」
トリステインに匿う気か。王政復古の際はいい手駒になる。
「それと、信頼できる護衛の者を、一人付けます。アルビオンへの道案内は、その者に任せます」

翌朝早く。学院の門にて。ルイズは用意された馬に跨り、いつでも出発できる態勢にいた。松下も馬に乗っているが、『占い杖』と『魔女のホウキ』を背負っている。ギーシュは朝食のつもりか、果物や野菜をほおばっている。
「最近頭の中がモゾモゾするけど、土いじりをしていると落ち着くんだ…どうだい、この見事な収穫は?」
土のメイジだからって、そんなものなのか。

と、いきなりモコモコと地面が盛り上がり、茶色の大きな生き物が顔を出した。ギーシュは大喜びで瞳を輝かせ、その小熊のぬいぐるみのような生き物を抱きしめる。ジャイアントモール(巨大モグラ)だ。
「ああヴェルダンデ!僕の可愛いヴェルダンデ! ついて来たいのかい?」
すりすりと頬ずりするギーシュ。

と、巨大モグラが鼻をひくつかせた。ギーシュの元から離れ、ルイズへと近寄る。
「な、何? ……やあ、ちょっと! きゃっ」
巨大モグラはいきなりルイズを押し倒すと、鼻で体の隅々を嗅ぎまわり始めた。いろいろと危ない!
「やぁっ! ちょっと、どこ触ってるの!? このスケベモグラ!」
「どうやら、きみの持つ『水のルビー』に反応しているようだ。僕のヴェルダンデは、珍しい宝石に目がないのさ」
「もおおマツシタ! ギーシュ! さっさと助けなさいよ! 重いの重いの! くすぐったい!」

その時、上空からごうっと一陣の風が吹き、ルイズに抱き着いていたモグラが吹き飛ばされた。ごろごろと転がったモグラは目をまわしてしまった。
「誰だッ! 僕のヴェルダンデに何をする!」
ギーシュは薔薇の杖を構え、怒鳴った。すると朝もやの中から、鷲の前半身と翼、獅子の後半身を持つ幻獣グリフォンに乗った、長身の男が現れた。頭には羽根帽子を被っている。
「まあまあ、僕は敵じゃない。姫殿下より、きみたちに同行することを命じられた者さ」
「あ、あなたは……!」
舞い降りた髭の青年は友好的な口調で帽子を取り、ルイズに恭しく一礼をした。
「女王陛下の魔法衛士隊『グリフォン隊』隊長、ワルド子爵だ。よろしく、ミス・ヴァリエールご一行」

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