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【FGO EpLW アルビオン】第十二節 Naraku Within

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(前回のあらすじ:ウォッチャーの助けにより、かつて出会った英霊たちを仲間に加えたマスター。一行は、ランサー・マジェスティの本拠地「アルビオン」に転移する。決戦の地へ!)

『これがテムズ川だとすると、遡った先がロンドンだな。おらとシールダーはシティ・オブ・ロンドンにいただが……』
「ロンドンねぇ。昔は公害、今じゃ移民でごった返して汚ねぇそうだが……あの辺も汚ねぇな」
『ありゃあイーストエンド、下層階級の吹き溜まりのスラム街だ』

セイバーとアーチャーは自分の馬で、マスターはキャスターが幻力で創造した四輪馬車で、塔の麓へ近づいていく。周りの住民がじろじろ見てくるが、武装した二人の騎兵を見るとそそくさと逃げていく。随分と貧民が多い。いや、見れば裕福そうな者もいる。向こうには、大きな石を満載した艀(はしけ)の列。沿岸では人々が背に背に縄をかけ、上流へ向けて引っ張っている。

「ゲルマニアの奴らめ、今度は何を始めようってんだ……塔を築け、高くせよ、だと?」
「クロムウェルを処刑したなら、後は任せて出て行きゃいいのによ……」
「我ら市民を奴隷化して、どうしようというのだ。王がいようがいまいが、我らなくして国を運営することなどできはせんぞ!」

物陰で固まって議論しているのは、ロンディニウムの市民たちだ。彼らの呟きに、セイバーは首を傾げる。英霊の座で知った歴史の流れとは随分違うようだが。
「……ゲルマニアが、クロムウェルを? どういうことだろうね」
「知らぬ。問うておる暇もない」
「我らの世の歴史とどう違おうとも、ここは異世界。そういうことがあったのでしょう」

ロンディニウムの周囲には、常人には見えないが、強力な結界が張り巡らされている。塔へ入るには、南から橋を渡り、門を潜って市壁の内側へ行くしかないようだ。つまりロンドンでいう、シティへ。

◇◆

「……何を、企んでいるのですか」

塔の上。神殿めいた白く広大なホール。拘束衣に包まれたマシュは、殺人的な視線をランサーに向け、尋ねる。分からないことが多すぎる。なぜ、自分は殺されなかったのか。

事もなげにランサーは答える。
聖杯を。余が充分な数の英霊を屠った時、聖杯は出現し、『聖なる槍』は完全なものとなる」
聖なる槍。星を繋ぎ止める世界の杭。アレが、今再び。
「完全なものとして、何を成そうというのです。ローマ帝国を復活させようとでも」
「さあな。そうなるかもしれぬ。余を喚び出したあの少年は、『千年王国』を望んでいたが」

「……千年、王国」

マシュは、ぽかんと口をあける。
「知っていよう。キリスト・イエスが再臨し、地上に築く理想の王国。千年経てばそれも消え、神の永遠の王国が訪れる」
「あの少年、ダニエル・ヒトラーは、メシアだとでも? ヒトラーが何をしたか、知らないわけでもないでしょうに」
「自分では『反キリスト』と言っていたな。余はどちらでも構わぬ。今の余は所詮影法師、生きて統治するのも億劫だ」

唇を引き結ぶ。やはり全ての元凶は、あの少年か。しかし。
「……わたしの知識では、そうした『永遠に変化しない世界』は―――未来への発展の可能性がない、『剪定事象』として消滅します」
「そう聞いている。ただ、この世界はその原則が及ばぬらしい。特異点というのか、異世界というのか……」

「さよう。そも、そうした法則を『誰が』作った? 君たちの世界ではそうなのだろうが、こちらでは違う」

ゆらり、とダニエルが現れる。手を後ろに組み、キキキ、と不快な笑い声を立てて。
「人には出来ないが、神にはそれが出来る。全知全能の創造主であればね」
「創造主が、それを望んでいると。反(anti)キリストのあなたが、千年王国を?」
「キリスト、メシアは、今ここにはいない。よって、メシアに匹敵(anti)する力を持つ僕が、メシアだ。クキキキキ」

ダニエルの言葉は、冗談とも本気ともとれる。いや、本気で正気だ。言霊からしても。
「……わたしを、どうするつもりですか」
「人質さ。君と宝具と、カルデアのマスター……彼は代理らしいが……彼が揃えば、君たちの本拠地『カルデア』とアクセス出来るはずだ。そこへ乗り込み、奪う。人理を改変し、新しい歴史を作り上げるのに、あの場所ほどふさわしい場所はないだろう?」

なるほど。結局のところ、彼の狙いはカルデアか。だが。
「……無理に人理を改変しようとすれば、消滅するだけです」
ダニエルは鼻で笑い、ランサーは無表情に言葉を返す。
「人理は消滅せぬ。お前たちが生きて成し遂げてきたことも無駄にはならぬ。次の世代へ移るだけだ」

◆◇

ZZZZMMMMM……!!

バリバリと天空が割れ裂け、ブリアレオスが虚数空間から身を乗り出し、塔へと触手を伸ばす! 聖なる塔から幾筋もの光線が放たれるが、ブリアレオスも百の目から光線を放つ!

「来やがったな。俺らも行くぞ!」

マスターは英霊たちを連れ、走り出す。橋の手前、ロンディニウムの南門へ。門前には槍に刺さったさらし首が無数に立ち並んでいる。衛兵が誰何し、押し止める。鉄兜に鉄仮面を被り、中世欧州風の武装をした彼らの手には、なぜかMP40短機関銃。その首元にはSSや逆卍、鉄十字の徽章。ナチス、つまり悪だ!

「どうするね」
「はん。儂らが何をしに来たと思っておる。押し通るまで!」
「おう、やっちまえ! ブリアレオスも来てんだ!」
「やれやれ」

アーチャーが門へ向けて弓を構える。セイバーがその矢に火をつけ、万の火矢がロンディニウムを襲う! キャスターは幻力で多数の禽獣たちを生み出し、衛兵たちに襲いかからせる! 水晶髑髏を被ったマスターは、彼らに守られながらズカズカと歩いていく。橋を渡り、城壁の内へ!

「ブリッツクリーグ!」「シュトゥルムウントドラング!」「イジオート!」「ナハトイェーガー!」

ゲルマニアナチス兵が口々にナチスラングを叫びながら銃撃! BRTTTTTTTT!!
「喧しい!」「はははは! かかってこい!」「相手は生身ですが……今さら遠慮はいりませんな」
アーチャー・キルマシーンのような付喪神ならともかく、神秘の欠片もない銃では英霊には通じぬ! ナチどもが矢の雨と炎の剣と幻獣に薙ぎ払われる!「「「グワーーーーッ!」」」

「出て来いや、ランサー! コンスタンティヌスさんよォ!」

マスターは冷や汗と脂汗をかきながら叫び、進む! 塔へ! 塔へ!

これまでの冒険で聖杯のパワーを吸収したためか、オークの助けか、マシュなしでも英霊複数を動かす程度は可能だ。いや、ウォッチャーによる支援もあろう。たぶんカルデアの動力源を彼が握っている。切り札は……次元を食い破って来るブリアレオス。そして。

「騒がしいな。シールダーを取り返しに来たか、カルデアのマスター」

瞬時に、目の前にコンスタンティヌスが出現する。両手にはシールダーの手甲、右手に聖槍。聖なる塔は光を集め、ロンディニウム全体にバリアを張っている。ブリアレオスに対抗するためだ。あれを動かしている状態なら、ランサーも本調子ではないはず。はず。はずだ。あっさり城門を通れたのは、ナメているのか、おびき寄せたか。

「おうよ。俺の女じゃあねぇが、それなりの付き合いがあんだ。返してもらおうか」

「あれが、コンスタンティヌス大帝か!」
セイバー、エル・シッドが身震いする。この中では唯一、中世ヨーロッパ出身だ。相手の偉大さは当然よく分かる。
「無闇に斬りかかるでないぞ。恐ろしく強い」
「わかっているさ、わからいでか!」
「まずは小手調べに、幻術と参りましょうか」

キャスター・チャーナキヤがすいっと進み出て、印契を結び真言を唱える。空間が歪んで進み出たのは……年老いた女性。
「おや、母上。お久しゅう」
ランサーは眉も動かさず呟く。コンスタンティヌスの実母、聖ヘレナ太后だ。右手で釘を弄ぶ。

「ほほほ……小揺るぎもせぬ。しっかり者(コンスタント)よの」
「幻術と宣言してから幻術を出すでない。興醒めな」
「わらわがちと折檻してやろう。聖なる釘を打ってもらいたいかの」

ヘレナが話しているうちに、カルデアのマスターたちは姿を消している。

「くだらぬ」

◇◆

「あれは、相手の心のエネルギーから姿を生み出す幻術宝具。あなたの負担にはなりません」

チャーナキヤはガルダに一行を乗せ、燃え上がるロンディニウムを低空飛行する。周囲に幻術を張り巡らせ、認識を阻害しつつ。空からは、ぼたぼたと黒い汚泥が溢れ出す。それらは地上に落ちるや、無数の頭足類となって蠢き始める。
「ブリアレオスがここを飲み込む前に、シールダーを救出せねばな」

「させぬ」

ガルダの横に突然、ランサーが出現!
「一瞬で……!」
「はッ!」

セイバーが双剣を繰り出す! ランサーが槍とマジックシールドで弾く! 平然と連撃を弾きながら、ガルダと同じ速度で追いすがる!
「野郎、シールダーの盾を奪ってやがる! 攻撃はまともに効かねぇぞ!」
「それと瞬間移動の宝具、ですかな。『彼』が持っていたような……」
キャスターが印契を結び、相手の意識と認識を歪ませる。ランサーの攻撃が逸れ、気配が遠ざかる。集中させれば多少は効くが、長続きはせぬようだ。
「ついでだ! 目くらましに、喰らえ!」
アーチャーが背後へ矢を放つ。狙いはランサーではなく周囲の建物。瓦礫が崩れ、道を塞ぐ。
「我らの目的地も知れておる。いずれ倒さねばならぬが……」

「させぬと言うに」
「しつッけぇな、金ぴか野郎!!」

―――――その時!

『Wasshoi!』

空中から声! 赤黒い稲妻めいて直撃した飛び蹴りが、ランサーの攻撃を防いだ。ばかりか、地面に叩き伏せた。
「グワーッ!?」

「!?」
ランサーばかりか一行も驚愕! それは思いもよらぬ援軍! ぐねぐねと蠢く不気味なメンポ。全身を禍々しい甲冑で覆い、殺人バッファローめいた大角を生やし、その手には―――大身槍!
「おっ……おめぇーはッ!」

出現した影は、四つの眼を爛々と輝かせ、槍を構えつつ手刀を胸の前にかざし、しめやかにランサーにオジギした!

『グググ……ドーモ……「槍騎兵(ランサーライダー)」です……!』

真名不明

ランサーライダー 真名 ???

KA-BOOOOM! ゴウ! アイサツと同時に赤い磁気嵐が爆発的に広がり、ランサー・コンスタンティヌスを包み込む! 恐るべきアトモスフィアが、固有結界めいて周囲の空間を書き換える!

「……ひょっとして、彼なのか! 随分雰囲気が変わってしまったようだがね!」
「あのランサーと、あのライダーが……融合してるってことか!?」
「やつにこの場は任せよう! キャスター、飛ばせ!」

◆◆

吹き荒れる赤い磁気の風。黒い砂鉄と緑の01が乱れ飛ぶ。赤い天の下、黒い地の上、光と闇の二騎は睨み合う!
「ドーモ、ランサーです。……何者か知らぬが、余の前に立ちはだかるならば、打ち倒すのみ」
グググ……やってみよ、コワッパ!

ランサーライダーがブキミに嗤う! なんたる禍々しさ! 双方のカラテが大気を満たし、歪ませ、電流を放つ!

「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』「イヤーッ!」『イヤーッ!』

アルビオンの首都ロンディニウムを、金色の光と赤黒の闇が駆け抜ける! まるで色付きの風だ! スリケンが舞い飛び、聖槍が閃き、魔槍がゆらめき、ゲルマニアナチ兵どもの首が刎ね飛ぶ! 右!左!ブリッジ回避からのメイアルーアジコンパッソ! ゴジュッポ・ヒャッポ! チョーチョー・ハッシ・ラリー!

◆◇

ガルダが塔の頂上めがけ飛翔! 迫り来るは無数のガーゴイルとワイバーン、巨大なワタリガラス、それに異形の天使たち!

「雑魚は任せよ!」「前菜と行くか!」「突っ切りますぞ!」

飛翔、飛翔、飛翔、上昇、上昇、上昇! 見た目よりも遥かに高い! 天をも貫く柱の如し! ブリアレオスの百の目から放たれた光線がバリアを貫き、ぼたぼたと汚泥頭足類が降り注ぐ!

塔の頂上。ダニエルは千里眼で、外の様子を見ている。

「おお、昇ってくるか。喜びたまえ、お姫様を救いに、騎士様たちが来るようだよ」
「逃げる気ですか」
「ぼかぁ逃げはしない。あちらがここまで来てくるなら、むしろ好都合というものだ」

ダニエルの背後の影が蠢き、異様な肉塊がぐねぐねと溢れ出す。マシュの背筋が凍る。
「……『魔神柱』!?」
「の、コピーかな。ぼくもソロモンと因縁がないわけでもない。ランサーが戻るまでの時間稼ぎには充分だ。それに」

ダニエルはマシュを振り返り、にたりと笑う。

「よく言うだろ。贋作が真作に劣るとは限らない、とね」

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