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【FGO EpLW アルビオン】序 Growing Up Londinium

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神は幻のうちに、わたしをイスラエルの地に携えて行って、非常に高い山の上におろされた。その山の上に、わたしと相対して、一つの町のような建物があった。神がわたしをそこに携えて行かれると、見よ、ひとりの人がいた。その姿は青銅の形のようで、手に麻のなわと、測りざおとを持って門に立っていた。その人はわたしに言った、「人の子よ、目で見、耳で聞き、わたしがあなたに示す、すべての事を心にとめよ。あなたをここに携えて来たのは、これをあなたに示すためである。あなたの見ることを、ことごとくイスラエルの家に告げよ」
―――――――『エゼキエル書』40:2-4

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白く広大なその空間には、大いなる力が満ち溢れている。輝かしく、勝利と栄光に満ちた力が。少年はその中心、魔法陣に立ち、白い石の祭壇に向かって召喚の呪文を唱える。

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。祖には我が■■■■■■。 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

技術と権限を言霊で起動し、しかるべき場へアクセスする。その少年は、金髪白皙。右手には何かを握っている。

「閉じよ/満たせ。閉じよ/満たせ。閉じよ/満たせ。閉じよ/満たせ。閉じよ/満たせ。繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」

魔力を引き出し、閉じ込め、満たす。声変わりしていない、あどけない声。しかして、自信と魔力に満ち満ちた声。

「―――――Anfang(開始).」

「――――――告げる」

「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の槍に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

彼はすらすらと呪文を唱える。先日知ったばかりの呪文を、まるで長年慣れた歌のように、愉しげに。

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者。
汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

祭壇の向こう、空中に金色の粒子が集まり、人影が現れる。少年は笑う。英霊の召喚など造作もないことだ。これでぼくは、マスターというわけだ。

現れたのは、金色の甲冑と緋色のマントに身を包んだ長身の男。金髪で黄金の瞳。髭はないが壮年。歴戦を経た思慮深げな顔。その頭の後ろには、光輪が輝いている。放つオーラからも、相当に霊格の高い存在であることは見て取れる。

「……問おう。そなたが余のマスターか?」
「はい。ぼくの名は■■■■■■■■■。ようこそお出で下さいました、陛下

微笑みながら恭しく挨拶する少年。全く気圧される様子もない。英霊は怪訝な表情をし、訊ねる。

「余を英霊、サーヴァントとして喚ぶなど、よほどのことであろうな。世界が滅ぼうとしておるとでも言うか」
「実はその通りでございまして。どうか、陛下のお力をお貸し願いたく」
「ふむ。では、事情を教えてもらえるかな」

この都を取り巻く領域には、幾つもの英霊がいる。彼らは『聖杯』を獲得するため、互いに争っている。みな邪悪だ。もし彼らのうち誰かが勝ち残れば、人類は破滅する。そうなる前に、彼らを一つ一つ打倒していこう。それには、聖なる正しい力が必要だ。少年の言葉は、概ねそのようなもの。英霊はこう理解した。

「……なるほど。混沌と化したこの領域に、秩序をもたらそうというのだね」

英霊は顎に手を当てて頷き、少年に問いかける。
「それで、見返りは」
「無論、聖杯。陛下のお望みは、ぼくと同じです」
「余には違うように思えるがね。そなたは己と、かの悪魔を除き、何ものも信じてはおらぬようだ」

英霊はそう言うと、いたずらっぽく笑った。
「……実は、余もそうなのだがね。聖人としての扱いなど、いささか息が詰まる」
「ははは。陛下は、立派に皇帝として振る舞われました。ここではご自由になさってよいのです。ご自由にね……」
少年も笑う。英霊は声高く笑い、右手を掲げる。指先を伸ばし、斜め前に挙げる。

「よかろう。余は―――――――」

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古代 あの足が イングランドの緑なす山々を歩いたのか
神の聖なる子羊が イングランドの爽やかな牧場に見られたのか
あの神々しい顔が 我々の曇った丘の上で輝いたのか
ここにイェルサレムが建っていたのか この闇のサタンの工場のあいだに
我に与えよ、燃える黄金の弓を 我に与えよ、渇望の矢を
我に与えよ、叢雲の槍を 我に与えよ、炎の戦車を
精神の闘いから一歩も引く気はない この剣を手のなかで眠らせてもおかぬ
我々がイェルサレムを打ち建てるまで イングランドの緑の爽やかな地に
―――ウィリアム・ブレイク『ミルトン』序詩「イェルサレム」

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「あー……今度はどこだ、ここァ」

気がつくと、俺はどこかの街なかにいた。足元はアスファルト舗装だ。

暗雲に覆われた空。聳え立つ超高層ビル群。げたげたしい巨大ネオン看板群。張り巡らされる電線網。道路を行き交う車。ロサンゼルスか、ニューヨークか、それともトーキョーか。現代先進国の、どこかの大都市って感じだ。少なくともドバイじゃあなさそうだが、ここも特異点だってのか。

周りを見回しても、いつものサーヴァントたちはいねぇ。今度はエピメテウスすらいねぇ。ひとりぼっちかよ。俺ァただの一般人なんだぜ。こんなところにひとりで放り出すんじゃねぇや、ウォッチャー野郎、バロン・サムディめ。この街のどこかにいるって可能性はあるが……探すしかねぇか。生憎財布がねぇから、どっかで調達するか……。

ぽつぽつと雨が降ってきた。気色悪ぃ、黒くねばつく雨だ。地下鉄の入口が近くにあった。そこの軒先を借りて、もう少し街を観察してみる。猥雑かつ野放図に発展した、ド汚ぇ近未来都市だ。

立ち並ぶ屋台。立ち込める霧と湯気。壁一面のグラフィティアート。ゴミ箱から路上に溢れ出るゴミ。LED傘をさし、編笠を被り、レインコートを着込んで行き交う雑多な群衆。浮浪者、ヤク中、酔っ払い、チンピラ、ヤクザ、ゴス、ポン引き、娼婦、オカマ、サイバネ野郎、さらりまん。南米のバーとかにいそうな逞しいならず者。白人、黒人、ヒスパニック、インド人、ムスリム、イエロー、ブルー、グリーンスキン、エルフ、ドワーフ、獣人、リザードマン。それぞれの混血やキメラ。

「……ブルー? グリーン? エルフにドワーフ? サイバネ野郎? おいおいおい、サイバーパンク・ファンタジー世界にでも迷い込んだってのか……」

へらりと笑い、肩を竦める。冷や汗が出て来た。生身の人間一匹が、こんなとこに飛び込んで大丈夫かよ。通行人に話しかけるが、無視されちまう。それどころか、互いに触ることもできねぇ。幽霊みてぇにすり抜けちまう。なんだ、俺ァいつの間にか死んでたのか。

「ヘイ、ウォッチャーさんよ。見て聞いてるだろ。なンなんだよ、ここは。解説を恵んでくれよ」

空を見上げてそう呟くと、近くのネオン看板にノイズが走り、文字が書き換わった。ノイズまみれの電子音声がそれを読み上げる。

『z... Welcome to L.A. zz...』

ネオン看板の文字が掻き消え、01ノイズが覆う。L.A.……だと?

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「ここは……?」

曇天の下、雑踏の中。足元は石畳。大気は妙に蒸し暑い。漂うのは生ゴミや排泄物が腐ったような悪臭。周囲は……薄汚れた半木骨造(ハーフティンバー)様式の建築群が立ち並ぶ。近世のヨーロッパ、といった感じの街並みと服装だ。

人々はわたしに目もくれない。周りと較べれば相当に奇妙な恰好をしている自覚はあるのだが。通行人がわたしにぶつかる……いや、すり抜けた。どうやらわたしは幽霊のような状態らしい。

マスターや他のサーヴァントは、周囲にはいない。はぐれたか。たぶんこの街のどこかにいるのだろう。カルデアのダ・ヴィンチとの通信も開けない。ウォッチャー、バロン・サムディの仕業か。つくづく奇妙な。

『おう、シールダー。おらだ、エピメテウスだ!』

声、いや、念話。パン屋らしき店の傍らに、水晶髑髏がいる。
「エピメテウスさん!」
駆け寄り、彼を拾い上げ確認する。確かに彼だ。

「マスターや、他のサーヴァントたちは……」
『いねえだ。近くにいる気配もねえ。念話も通じねえ』
「カルデアとの通信も開けません。……ここは、どこだと思いますか」
『あー……おらたちは、あンでか周りの連中に気づかれてねえ。だども言葉は聞こえるし、文字は読めるだな』
「……イングランド、ですか」
『ン。話してる内容からすると、ここは……ロンドン

ロンドン、か。19世紀末のロンドンなら、かつて行ったことはあるが。

「では、年代は」
『そこのチラシに書いてあるだ。西暦1666年、9月1日、土曜日。「ロンドン大火」の前日だ。火元はここ、シティ・オブ・ロンドンのプディング横丁、キングズ・ベイカリー』

A.D.1666
人理定礎値:??

末法炎上都市 龍動(ロンドン)

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人理継続保障機関、フィニス・カルデア。その中枢、中央管制室。薄暗くがらんとして、人っ子一人いない。……いや、一人いる。後ろを向いて椅子に腰掛けている、黒い影。そこだけスポットライトが当たっている。

よくきたな。おれは逆噴射聡一郎ではない……

嗄れたダンディな声。ぐるりと椅子ごと振り向くと、グラサンをかけた髭面アフロの黒人男性。

「……あ、ドーモ、バロ噴射サム一郎……ウォッチャーです。お久しぶり。お待たせ」

ウォッチャー、『バロン・サムディ』が空中で右手をヒネると、虚空から紙巻きタバコの箱が出現する。銘柄は……『レッド・アップル』。トントン、と一本取り出し、シュボッと人差し指から火を放って、火をつける。スゥーッ……フゥーッ。

あー、こんな話を読んで下さってる、有り難い方ならおわかりだろうが、オレ様はとにかく好き勝手やる。特に今回は難産でよ。それなりのペースで投下する。オレ様がメキシコで熱中症になって死ななければだ。何らかのメッセージを受け取れるかもしれないが、それは読者様のご勝手だ。わからないならわからないままに、それが賢者のお振る舞い。さっきから引用が多くって申し訳ねぇが、聖ゲーテも『ファウスト』の前狂言で、こう言ってるぜ。

すっ、と右手を挙げて、高らかに。歌うように。

♪面白おかしく芸のやれる役者なら、お客のむらっ気なんぞに腹は立てない。お客が大勢いてくれた方が、どっと沸かせやすいから。あなたもあなた流儀に堂々とおやんなさい。理性、分別、感情、情熱、その他なんでも、空想というやつにありったけのお供をつけて。ただし忘れちゃいけませんぜ、道化なしでは車は動かない!

すっ、と今度は左手を挙げて。

♪見て面白いのが一番だ。舞台で次から次へと事件が展開して、お客が口をあんぐり開けて見ているようなら、大当たりは間違いなし。とにかく、これでもか、これでもかと並べ立てるにかぎる。そうすれば、まず間違いはない。ただ煙にまいてやろうとすればいい。色とりどりの場面を出して、はっきりしたところは少しにし、間違い沢山にしておいて、ちらりと真理を覗かせる。舞台は狭いが、遠慮は要らぬ。造化の万物を駆り出して、緩急よろしく、天国から、この世を通って地獄へまでも経巡ってもらいましょうか!

BOMB! 黒煙と共に、ウォッチャーは姿を消す。


終わりなきまま
永劫に消え去らんとする物語に
終焉を与えん


永焉交叉立方体 アルビオン


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