見出し画像

【FGO EpLW 殷周革命】第二節 王者急求定海寶

<BACK TOP

「英霊がた! ご無事か!」

男の声。陣営の中から船着き場へ誰かがガラガラと二輪馬車でやってくる。
東洋人の年齢はわかりにくいが、髭面で、少なくとも若くはねぇ。周囲に付き人を従え、甲冑を着込み、わりと派手な格好だ。偉い奴か。周囲の兵士たちが、ババッと跪く。ってこたぁ、つまり。
「あれが、周の王様ってわけか」
「ええ、ちょうどよかった」

キャスター、チャー、なんとかってインド人が、馬車を降りた王様の前に進み出て合掌する。
「王よ、こちらが『カルデア』より参られた魔術師と、その従僕たる英霊たちに御座います」
言われて、王様がこっちを向く。んん、ちいっと正確でねぇような。
「あー、俺は魔術師じゃねぇし、カルデアなんて行ったこたぁねぇんだが……成り行き上、そうなってる。名前は◆◆◆だ。よろしく頼まぁ」

ぞんざいに挨拶しちまったが、まぁいいや。東洋人ならいざしらず、俺にゃ縁もゆかりもねぇんだ。自然体で行こう。こちとら人類史の救済者代行だぜ。チャイナ語なんか知らねぇけど、ウォッチャーが適当に翻訳してくれるだろ。さっきの王様の声も、他のサーヴァントの言葉も、英語で聞こえるんだしよ。

他の連中も改めて挨拶し、王様は神妙な顔で、鄭重に挨拶を返した。左右には重臣らしい、甲冑の上にゴテゴテ着飾ったおっさんたち。一人は、他よりやや年上。
「よくぞ御参陣下さいました。周王の發で御座る」
「その弟、旦です」
「周王の舅、呂侯の望じゃ」

俺は小首を傾げる。ランサーとかはびっくりしてるが、こっちは解説がないとピンと来ねぇ。
「おい、解説」
『あーっと……じゃ、今回はエピメテウスさん、どうぞ』
『ン、どうもな。えーと王様は周の武王で、弟さんが周公旦。もう一人の爺さんが太公望ちうて、まあ、東洋では伝説的な超有名人よ。西洋で言うと、ンだなあ、ダビデとかソロモンとか、オデュッセウスとか、そンな感じだ』
「おう、ニュアンスは伝わった。で、どういう状況なんだ、今。俺らをカルデアっつったが、どこまで知ってる」
「カルデアのこと、ウォッチャーのことについては、アサシン殿からざっと聞きました。人間側の現状については……」

インド人に話を振られ、王様は目を白黒させている。いきなり訳のわからん状況に放り込まれてるのは、このおっさんもそうだろう。
「うむ……むむむ、どこからどのように話せばよいやら、見当が」
「あんまり遡らねぇ程度でな。こっちもいろいろ聞きてぇしよ」
「それでは、陣営へ戻りながらお話し申す。……旦、そなたは諸侯や兵士たちを鎮めに戻れ。余もじきに行く」
「はっ」

◇◇◇

王様の弟を先に馬車で行かせ、俺たちは歩いてぞろぞろ陣営へ戻る。まずは王様が切り出す。
「我が周が、商に戦を挑んでいるというのは、ご存知ですな」
「商……うん、商ね。殷のことか……」
『殷は後世の呼び名で、この時代は大体「商」ちうてるだな、あの国は』
手元のエピメテウスが補足する。ややこしいな。
「相手は大国だそうだが、勝ち目はあンのか。いや、あるんだろうがよ」

爺さんが、顎髭をさすりながら答える。
「無論。商の版図は広大じゃが、王が直接支配できておるのは、王がおる大邑の周辺だけじゃ。ここから集められる兵の数は三千から五千がせいぜい。
外敵と戦う時は、常に諸侯との連合軍で戦っておる。それも外敵と隣接するから兵を出すだけで、遠くから呼び集めることは不可能じゃ。まして今の商は、先代・文武丁以来、王への権威・権力を強く集めすぎた。外敵は打ち払えても、諸侯の負担は大きく、不満が漲っておる」
「それで、反乱を起こしたってわけか」
「うむ。召や盂も長らく商に服属しておったが、周に寝返った。河の南北、そして東方の諸侯とも、話はついておる。これでな」

爺さんが、紐で綴った木片を懐から取り出す。なんか模様が刻まれている。
「文字じゃ。これを祭祀の記録ではなく、諸侯との連絡に用いておる。便利なものよの」
王様がため息をつく。
「人間同士の戦なら、これで片がつくはずでした。商邑を一息に突き、王を殺せば、商は瓦解する。後は次第に広げていくばかり、と。そこへ……」
「人間以外の連中が、出て来たと。いや、俺は人間だけどよ」
「英霊に対抗できるのは、英霊だけです。我らではどうしようもない……」

ぽりぽりと頭をかき、インド人やセイバー、アサシンの方を見る。
「どうだかねぇ。こっちの英霊は、あっちのに負けて戻って来たんだろ…」
セイバーがむっとした顔で睨み返す。慌てて両掌を向ける。
「あいや、責めてるんじゃねぇ。あんなもん、こっちのランサーやシールダーでもどうしようもねぇだろ」

「キャスター。あやつは、なんという英霊だったのだ。そろそろ言ってもよかろう」
セイバーがインド人に尋ねる。インド人の顔が曇り、汗を流す。声に出すだけでヤバイのか。
「は。あれは弓兵(アーチャー)のサーヴァント。出身は私と同じインド文化圏。ただし私とは違い、まさに神話上の存在。ダ・ヴィンチ殿やエピメテウス殿、シールダー殿なら、知ってもおられましょう。『ラーマーヤナ』の魔神、メーガナーダを……!」

真名判明

殷のアーチャー 真名 メーガナーダ

ダ・ヴィンチが仰天する。シールダーも少し眉根を寄せる。
『あー、そんなのまで来てたかあ。神霊のサーヴァントたちとは何度か出会ったけど、それは初めてだなあ』
「おう、解説しろや」
『さっき見てたろ、インドの大叙事詩「ラーマーヤナ」に登場する、雷の魔神さ。異名はインドラジット(インドラに勝つ者)。天帝インドラを一度は捕縛したほどの大魔王だ。ラーマ君がいたらなぁ……』
「魔神、大魔王と来たか。こっちにゃ死神がいるけどよ」
「格が違うよ。アタシは下っ端なんだから」
『おらは巨人(ティターン)族だから、ちいとは種族的に近いだな……』

◇◇◇

しばらくして陣営に到着し、王様の天幕に通される。中には、巨大な釜みてぇなもんが三つ、横並びに据えてある。三つの脚で支えられ、青緑色の表面には複雑な紋様が鋳込まれている。博物館に飾られているような青銅器だ。
王様に促され、インド人が青銅器に手を触れながら話し始める。
「これは『鼎』という宝器です」
「いわゆる、『九鼎』か」
ランサーが口を挟む。インド人が頷く。
「ええ。西ヨーロッパに『聖杯』の伝承があるように、この地でそれに相当するもの、それが『九鼎』です。王権の象徴たる神器。表面にはあらゆる魑魅魍魎の姿が彫られ、それにより人々は妖怪の姿を知るようになったとか」
「御託はいい。なんで、そんなもんがここにある」

王様が、爺さんに睨まれながら、渋い顔で言う。
「数日前、これを陣営へ持ち込んだ者がおりました。周と諸侯の連合軍が、この地で会盟した時です。申公豹、と名乗っていましたが……。これを用いて祭祀を行えば、祖霊や百神が味方してくれると。言われるままにそうしたら、鼎から彼らが出現したのです」

三つの聖杯。アサシンと、インド人と、なんとかいうセイバー。なるほど、そういうことか。
「完全に怪しいな。そいつが多分例のウォッチャーだ。もしくは手下か」
ダ・ヴィンチが、モニタ画面の向こうで頷いている。
『申公豹。「封神演義」に登場するトリックスターだね。明らかに……』
「九鼎のこと、あちらにも鼎があり英霊がいること、こちらが危なくなったら英霊たちが助けに来ることも、申公豹が告げておりました。それからすぐに姿を消しましたが……十中八九、それですな。アサシン殿もそう言っておられました」
「ふむん。で、鼎ひとつにつき、英霊ひとりか」
『そうなるね。九鼎なら、あと六つあるはずだけど、つまり同じものが敵側にもあるわけだ』

全く、めんどくせぇ。敷物にどっかと座り、肝腎なことを聞く。
「それで要は、その鼎を集めりゃいいんだな。じゃ一体、いくつが、どこにあるんだ。あっちに六つ揃ってたら、どうしようもねぇぞ」

インド人も座る。鼎、聖杯に触れたおかげか、さっきよりゃ元気そうだ。他の連中もつられて腰を下ろす。
「セイバー殿によれば、本来の歴史では、まだ殷の都に祀られておるべきもの。ゆえに本来は全てあちら側にあるはずです。ので、調べに行ったのですが。ただ我々が遭遇した限りでは、あちらのサーヴァントは二騎。アーチャー・メーガナーダと、騎兵を率いておる奴でした。おそらくライダー。ウォッチャーとやらが我々を争わせて愉しもうというなら、こちらには三つ、あちらにも三つ、と配分するでしょうな」

なんでぇ、またアーチャーとライダーが敵か。二刀流のセイバーは今度ァこっち側だが、そのへんは配慮しねぇのかウォッチャー野郎。つっても、どちらも前回のアーチャーやライダーより強いってわけか。それと、もう一騎。
「だといいがね。俺らが来たから、英霊の数じゃこっちが倍か。つっても、大魔王様をどうにかしねぇとな」
「つまり、どちらの手にも渡っておらぬ鼎は三つ。それを争奪させようという腹でしょう。ならば、この大陸の何処かに」
シールダーが腕組みをする。
「雲を掴むような話ですね……。しかし聖杯に等しい魔力を持つのならば、探索も可能でしょう。英霊を強化できますし、新しい英霊を呼べるかも」
『カルデアでも魔力反応を調べているが……ウォッチャーが隠しているようだね。それらしい反応がないんだ』

けっ、余計なことばっかりしやがって、ウォッチャー野郎。ふと思いついて、鼎を指差す。
「ここの鼎を隠しちまうか、どっか移動させた方が良くねぇか。あいつらも狙ってるってなら。王様にもどっかに隠れてもらってよぉ」
「いえ、この鼎は動かせません。契約儀式で霊脈に結び付けられ、一体化しているようです。契約を解除すると、たぶん我々にも悪影響が……」
『王の徳(アレテー)によって重さが変わる、ちうでなあ。戦が終われば洛邑に遷されるはずだが』

「周王も動かせぬだろう。せっかく集めた諸侯の軍勢が、恐れて逃げ散ってしまう。それまで時間はあまりない」
ランサーが、王様を見ながら言う。確かにそうだ。このままでも歴史が変わっちまう。そうすりゃ、時間切れで俺たちゃ全滅か。インド人が補足する。
「それと申公豹が言うには、他の鼎を奪い動かすには、極めて強い英霊の力か、英霊の主人が必要だと。つまり、貴方も鼎の探索に向かう必要がある」
「王様が動かせねぇなら、そりゃァしゃあねぇな。護衛はいるだろうがよ。俺ァ魔術師でもなけりゃ、カンフーの達人でもねぇんだぜ」
極めて強い、か。あっちの大魔王様なら動かせるんだろうが、こっちの連中はそれほどじゃあねぇ。鼎を集めて強化しねぇと、勝てねぇってわけだ。
……しかしウォッチャーの言うことだもんなァ、なにをどこまで鵜呑みにしていいやら。疑いだしゃキリがねぇ。

一同が意見を述べたところで、ダ・ヴィンチが提案した。
『聖杯を設置するなら、基本的には霊脈の通った霊地が不可欠だ。霊地を探すのが早道だろうね』
「チャイナの霊地、か。詳しい奴ら、なんかねぇか」
『ンだなあ……ン、ちいと見ろ、鼎が……』
エピメテウスが指摘し、一同が鼎に目を向ける。なるほど、三つの鼎の一部が光っている。なにやら紋様が彫り込んであるが……。
『ンー、これは……「五嶽真形図」だな。道教の護符だ』

なんだそりゃ。王様や爺さんを見やるが、首を傾げている。こいつらの時代にゃ存在しねぇのか。エピメテウスを指で弾き、喋らせる。
『この時代からあるかどうか分かンねえけども、チャイナには「五嶽」ちうて、五つの聖なる山があるだ。東の泰山、南の衝山、西の華山、北の恒山、中央の嵩山。最後の嵩山が、ここからだと近いだな』
「河より北は結界で封じられたというし、恒山は行けまい。とすると、残るは四つ」
「華山は、周のすぐそばです。道を戻ることになる。嵩嶽は確かに羌の聖地ですが」
ランサーに続いて、王様がようやく発言する。ウォッチャーの野郎がどこから調達したか知らねぇが、これがヒントってわけか。

ヒントが現れ、会議の場が活気づく。早ぇとこ探し出さねぇと時間がねぇ。
「それっぽいな。こんだけ人数いるんだ、手分けして探そう。ダ・ヴィンチさんよ、位置は分かるか」
『嵩山なら、孟津から東南に50kmぐらいか。歩いて二日はかかるけど、一番近い。西の華山、東の泰山はともかく、南の衝山は……』
「遠いか」
『うーん、湖南省じゃなあ。……古くは安徽省の天柱山を南岳衝山と呼んだらしいから、こっちかも……』
『なンにせよ、嵩山以外は数百kmだ。歩いてホイホイ行けるとこでねえし、おらが提案してなンだが、鼎があるとは限らねえし……』
「この模様が光ってるってことは、ウォッチャーのヒントでしょ。ひっかけかも知んないけど」

アサシンの言葉に、思わず眉根を寄せ、曇った顔をしちまう。
「あり得る。あの野郎がひっかけるとか、それ見て喜ぶとか、すげぇーあり得る。だが、スルーしちまうわけにもいかねぇ。じゃ一番近いとこからだ。俺が行くしかねぇんだろ。セノーテや鼎同士でワープできねぇなら、馬か馬車でも借りて」
『馬車はあンまり早くは……。道路もそンなに整備されてねえし、この時代のチャイナには馬に跨る風習がねえから、馬具もねえだ』
「そっか。んじゃ空飛べる奴とか、いねぇか」
「いないと思うよ。あと、結界を越えてあいつらが来ないとも限らないからねェ、王様のとこにも誰か残ってないと……」

「ちと、失礼」
インド人が立ち上がり、鼎にもう一度触れると、なにやら魔力が漲ってきたようだ。さすがは聖杯、英霊を強化してくれんのか。
「これで、『空を飛ぶ』ことが可能になります。短時間ですが……外へ出ましょう」

◇◇◇

天幕の外に出る。インド人の後についてぞろぞろ歩いていくと、馬を外した二輪馬車が数台止めてある。
「王よ、この馬車をひとつ、お借りいたしますぞ」
「ど、どうぞ」
インド人が馬車に向けてなにやら呪文を唱え、両手を掲げる。と、馬車がふわりと浮き上がった。
「私の幻力(マーヤー)によって、馬車を飛ばせます。そう大勢は乗れませんが、これで行きましょう」
「おお、すげぇな。これぞ魔法使いって感じだ。速さはどんぐれぇだ」
「歩いて二日なら……そうですな、一日の百分の一もあれば着くでしょう。それ以上飛ばしすぎると魔力切れしますが……」
『えーと、約15分として、時速200kmか』
「そりゃすげぇ」

よし、移動手段はできた。ンじゃ、メンバー選びだ。
「ナビゲーションは……ダ・ヴィンチがいるか。ってこたァ、シールダーも連れて行ったがいいか」
『……そうだね。カルデアと君たちが通信するには、マシュを介するしかないみたいだ』
アサシンが周囲を見回して、
「二手に分かれるとすると……あんたとキャスターたちに、シールダー、ランサーか。アタシとセイバーはここでお留守番かねェ」
ランサーが進み出た。
「拙者も残ろう。何かあれば、念話で互いに連絡が取れるはず」
「何十kmも、ことによっちゃ何百kmも離れることになるが、届くのか」
『どっちかが魔術師なら良かっただが……まあ、おらが中継するだ』

俺とエピメテウスで一騎分としても、三騎と三騎か。バランスは取れた。納得し、頷く。
「飛んでった先でなんかあっても、シールダーが俺を守りゃいいし、こいつに乗ってすぐ逃げれるな。んじゃ、頼むぜ」
「……分かりました。では皆さん、留守をよろしく」

エピメテウスを持ち、インド人とシールダーを連れて、浮かぶ馬車に乗り込む。目指すは……なんとかいう、山!
「しィ、いくぞォァ!」

<BACK TOP NEXT>

つのにサポートすると、あなたには非常な幸福が舞い込みます。数種類のリアクションコメントも表示されます。