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【AZアーカイブ】つかいま1/2 第一話 使い魔が来た

『……コルベール先生! やり直しを要求します!』
『しかし、ミス・ヴァリエール……』
『おおっ、かわいー』『巨乳だぜっ』『いーなー、俺も女の子召喚したかった』

……なんでい、うるっせーな。人がぐーすか寝ているときに、騒ぎやがって。なんか土ぼこりも立ってるみてーだし、どたばた騒ぐんじゃねーよ、ったく。あのクソオヤジか? それともじじいか?

キンキン騒がしー声で、西洋の外国人らしい奴らが口論している。外国? ここは日本だろ。いや外国人もけっこーいるけど、テレビかなんかかな。……って、あれ? なんか雰囲気がおかしーな……。いつの間にか昼っぽいし、外かここ?

「んにゃ?」
彼女が目を覚ました時、目の前には少女の顔があった。

『我が名はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。五つの力を司るペンタゴン。この者に祝福を与え、我が使い魔となせ……』
何事かを呟くと、唇を近づけてくる。目を閉じて、頬をほんのり染めて。

ちゅっ

「わーーーーーーーーーーーーっ!!」

どんっ、と思わず少女を突き飛ばす。しししまった、ついびっくりしてっ。
でででもお前、ふつーいきなり起き抜けにキスされて、びっくりしねー方がおかしいだろ?
「す、すまねぇっ、大丈夫……ぎにゃーーーーーーーーっっっ!!

全身に激痛が走る。神経がびりびりと震え、脳がかき回される。その痛みは左手の甲に集まり、焼印のように文字が刻まれた。どうにか気絶せずにはいられた。
「……っっ……ちっきしょー、いきなり何しやがんだっ!!」
「しずまりなさい、平民の小娘!! 突き飛ばすなんて、無礼だわ!」
桃色髪の小娘が、ばしっと叱りつける。

「私はルイズ。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。由緒正しい公爵家の三女にして、貴女を『使い魔』として召喚した、メイジよ」

……類似? 明治? ツカイマ? 何言ってんだ、このずん胴以前のちんちくりんの洗濯板。桃色の髪なんてして、変な恰好しやがって。見知らぬ人様になにしやがんだ。小学校からやり直せ、なーにが公爵家だ、この平成日本で。……いや、なんかおかしーな。周りのやつらもおんなじような恰好してるし、第一俺は夜部屋で寝ていて、ここは外で真昼間で。

「……おい、言葉が通じるのか? ここはどこでいっ!」
「言葉が通じるのは、召喚ゲートと『契約』の効果ね。やった、成功だわ!ここはハルケギニア大陸のトリステイン王国、トリステイン魔法学院よ。貴女の名前と出生地を答えなさい。これからキリキリ働いてもらうからね」

ダメだ、本格的に頭がおかしい。晴毛ギニアってどこだ、アフリカか。
「うるせー、トリステインも鳥取県もあるか! そんじゃあ名乗ってやるぜ! 俺様の名は早乙女乱馬! 風林館高校一年生! 日本国東京都は練馬区在住、無差別格闘・早乙女流の後継者でいっ!!」

そう、『彼女』は早乙女乱馬。本来は男性だが、水を被ると女になり、お湯を被ると男に戻る、ふざけた変態体質の青年であった。便宜的に、女になった乱馬を『らんま』と呼ぼう。どうも寝ているときに真横にゲートが現れて、寝返りを打って転がった拍子に吸い込まれたらしい。

「……ダメね、失敗かしら。名前はサオトメ・ランマ? それはいいとして、フーリンカンとかニホンコクトーキョートとか、地名なの? それ。
よっぽど辺境の地から召喚したのかしら」

「えーと、成功したのですな? ミス・ヴァリエール。それはよかった。おめでとう、彼女は今日から、きみの使い魔ですぞ!!」
ぱんぱかぱーん、と禿頭の教師らしき中年が、ルイズを紙吹雪で祝福している。
「おいっ、勝手に決めるなっっ!!」

「ふーん、赤毛でおさげで、結構顔もスタイルもいいじゃない。頭はサル並みみたいだけど。いいんじゃない? 平民が使い魔ってのも、魔法の使えない貴女に相応しいじゃない。ちなみに私のは、このサラマンダー『フレイム』よ。火竜山脈もののブランド品」
「つ、使えたもん! 使えたわよ! この通り、召喚と契約には成功したじゃない! キュルケのより、よっぽど有能なはずよ! ……きっと!」

巨乳・赤毛で褐色肌の美女が、らんまを見てゆったりと歩いてきた。キュルケというらしい。
「えーと、サオトメ? ランマ? どっちで呼べばいいの?」
「乱馬だ。早乙女が姓だから」
「姓があるなら、ただの平民じゃないのかしら。ふーん、ハルケギニアの名前とは順序が逆なのね。『東方』からでも来たの?」

東方? ここは西洋、ヨーロッパのどこかみてーだし、そこからなら日本は『東方』だよな。
「あ、ああ。俺は『東方』の日本って国から来たんだ。……で! なあんで俺がいきなり、こんなとこ連れてこられたのか、きっちり説明してもらおーか!」

「そうですな、説明はちゃんとしておかないと、あとあとこじれますぞ」
「分かりました。……いい? 私たちはメイジって言ってね、魔法が使える優れた人類なの。この魔法学院では年に一回、一生に一度の使い魔を召喚する儀式があるのよ。それで、あんたが召喚されたわけ。あんたは一生、私に仕えるの!」

「うるせー、俺には帰る家も家族もあるんでいっ! 居候だけど。魔法使いがどーしたっ。お前、ケータイとか持ってねーか? ないなら旅費を出せよ、ヒッチハイクでもして何とか帰ってやる。以前中国へ渡ったときも、東シナ海を泳いで渡ったんだしな。ちょっときつかったけど」

「……女の子らしくないわねー、ガサツどころか男みたいよ。まあ、あとで躾してあげる。あんた、何ができるの? 凄い知識があったり、首が伸びたり、火炎を吐いたり、空を飛んだり……」
「俺は妖怪変化かっっ。しゃーねーな、旅費稼ぐまで付き合ってやらー。言ったろ、俺は無差別格闘・早乙女流の格闘家! 闘いだったらお手のもんさ」

「ふーん、強いんだ。使い魔の主な任務は、主人を守ることだもんね。じゃあ、証拠見せてよ」
「おう。……その辺のガキぶん殴るのもなんだしな、手ごろな岩は……あった。じゃ、こいつを一撃で割って見せるぜ」
「無理でしょ。その辺の岩、『固定化』の魔法がかかっているのよ。どんな達人でも、素手じゃ絶対に無理ね」

……なるほど、なんだか怪しい気が岩の周りを覆ってやがる。魔法ってやつか。良牙の『爆砕点穴』ならいけるだろーが、今は女だし、難しいかな。失敗したら恥ずかしいし。
「そんじゃー、その辺の小石を百個ぐらい、俺に投げつけてみろよ。全部キャッチして見せるから」
「はいはい。んじゃ、その辺のヒマな土メイジさーん、この娘に石の雨をお見舞して。手加減はしてね」

しかし男連中は、らんまの色香に前かがみになっていた。夜寝るときは、男のときでも女のときでも、タンクトップとトランクスだからだ。キュルケほど大きくはないが、むちむちの健康美である。つるぺたルイズとは大違いだ。
「……じゃあ、女性諸君、どーぞ」
ルイズとキュルケの合図で、女性の土メイジから石つぶてが飛ぶ。女って怖い。

「いよーし、『火中天津甘栗拳』!!」
しゅぱぱぱぱぱぱぱぱ、とらんまの手の中に小石がキャッチされ、足元に溜まっていく。
「おおっ、すっげー」「全部キャッチしとる」
「……へー、スピードはなかなかじゃない。曲芸師としてもやっていけるわ」

「よっし、百個だな! ……おっと、後ろからでも当たらないぜっ」
ぱしっと百一個目をキャッチし、らんまは勝ち誇る。
「すごーい、やるじゃない。意外と当たりだったのかしら」
「へへーん、まーな。もっと褒めろよっ。ふふふん、じゃあ気分がいいから、もういっちょ見せてやるか……『猛虎高飛車』!!」

すっかりおだてられ、らんまが『強い気』を掌から放つ。気砲は地面を削り、土ぼこりを巻き上げた。
「へええ、魔法じみた技ねぇ。『東方』の術?」
ルイズも俄然、強気になる。

(いい、いいじゃないのこの小娘。気に入ったわ。ただ感覚の共有はできないし、私よりスタイルがいいのは許せないけど。)

らんまとルイズの契約は、とりあえず円満に行われた。しかし……。
「……え? 『東方』への道が分からない? 嘘だろ」
「だって、『東方』との間には強いエルフがいるし、山脈や密林や砂漠が横たわっているのよ。海には巨大な怪物がいて、商船を襲うっていうし。それでも冒険商人がいろんな産物を送ってくるけど、まだ確たるルートは開かれていないわ。帰るなんて不可能に近いんじゃない?」

「おっめーなぁ、今は何時代だ! 西暦で何年だ! 車や飛行機はどーしたっ! いるわきゃねーだろ、そんなの!! ……いや少しはいるか、クラゲとか。せいぜい海賊が出るってんならわかるが、帰れねーはずはないだろ、地球はひとつだし」

「地球? ヒコウキ? 何の話? あんたの話は全然わかんないわ。今は始祖ブリミル降臨暦6242年、フェオの月、ヘイムダルの週ユルの曜日よ」
「だーーーーっ、まともに話せ! ピコレットといい、ヨーロッパはこんな奴らばっかりか! 太陽はひとつ、月はひとつ、地球もひとつだろーが! 小学生でも……」

……あれ? お空に浮かんでいるのはなぁに?

「……おい、あれは何だっ」
「何って、双月よ。昼間も見えるのが珍しい?」
「月はひとつだろ」
「二つよ。赤い月と青い月、重なるのが『スヴェルの夜』。なによ、『東方』では違うの?」

………いや、待て、冷静になれ。これは夢だ、そーに違いない。

すーはー、すーはー、と深呼吸して、らんまは絶叫する。

「ここはいったい、どこなんだぁああああああああ!!!」

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