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【AZアーカイブ】つかいま1/2 第九話 ルイズと姫様

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トリステイン王国の誇る麗しきプリンセス、アンリエッタ姫殿下。ご身長158サント、バスト84・ウエスト59・ヒップ85。当年とって17歳! 顔立ちは無垢なる白百合の如く、微笑みはあたかも咲き誇る薔薇。薄いブルーの瞳はラグドリアン湖の水にも似て澄み渡り、高貴にして清楚、たおやかにして凛然として芯強し。先王陛下亡き今、唯一の正統なる王位継承者。ああ、まさに姫君の中の姫君、この僕の運命のパートナー……!

「のっけから長々と、変態じみたモノローグくっちゃべんじゃねぇっ。」(みし)

突如ルイズの部屋に湧いて出たギーシュの顔面を、らんまが両足で踏んだ。そう、そのアンリエッタ姫殿下が、明日学院にやって来られるのだ。

「姫様が……ああ、どんなにかお美しくなられたことかしら!」
「そーいや、ルイズはそのお姫様の幼馴染だってな。俺にも女の子の幼馴染がいて、今でも仲良くしているけど、ルイズはどうだ?」
ギーシュを窓から放り投げ、質問するらんまに、ルイズはベッドに腰掛けながら答える。

「いかに私が、王家の血を引く公爵家の令嬢とは言え、身分の差ってもんがあるわよ。しばらくお目にかかっていないわ。でも、懐かしいわぁ。幼い頃、中庭で一緒に蝶々を追いかけ、泥だらけになったこと。侍従長のラ・ポルトさまに叱られて、私だけお尻を鞭で叩かれたわ」
「……そりゃまあ、王女様は叩きにくいよな」

「ふわふわのクリーム菓子を巡って、掴み合いになったこともあったわ。私が姫様のお髪を掴んだら、姫様はクリームを私の眼の中に擦り付けられて、ひるんだ隙に奪い去ったの」
「ははは、随分お転婆じゃねーか」

「それに、姫様の寝室で国際政治ごっこをして、ドレスを奪い合った時なんて! お互い全力で格闘して、右ストレートがクロスカウンターで決まり、二人とも倒れたの。私たちはあの戦いを《百合戦争》と名づけたわ」
「お転婆っちゅーか、何ちゅーか……」

「とにかく、今は将来国家を担われる大切なお方よ。無礼があってはならないわ、ランマ。だから、今夜はビシッと宮中作法を躾けてあげなくちゃね!」
「ひええ、勘弁してくだせー貴族さま」

翌日。教師も生徒も衛兵も使用人も、ビシッと整列して姫殿下を迎える。

まず馬車から降りてきたのは、国政を担う『鳥の骨』マザリーニ枢機卿。痩せて白髪で老人のようだが、まだ40代半ばだ。眼光は鋭く、大宰相の威風がある。続いて麗しき姫気味が姿を現し、一同は「ほー」と感嘆する。

「アンリエッタ姫殿下万歳!!」「トリステイン万歳!!」

ゲルマニア人のキュルケは、あまり面白くなさそうだ。
「ふんだ、私のほうが美人でスタイルもいいじゃない。そーでしょ、ランマちゃん?」
「そーだけどよー、高貴さで言ったら姫様の方が……いてっ、いてててて」
ルイズがランマの耳を引っ張る。
「ぞんざいな言葉使いはやめなさいよ、ランマ。私の品位も疑われるわっ」

歓迎式典はつつがなく終わり、王女一行は食事と休息を取る。何でも、隣国ゲルマニアとの政治交渉を行っていたらしい。明後日には王都へ帰還するとのこと。『フリッグの舞踏会』は翌日の夜に延期されたが、姫殿下は学院の生徒の『実力』を見ておきたい、と言い出した。

ルイズの部屋で、らんまが訝しげな声をあげた。
「あ? 『使い魔品評会』?」
「そ。姫様が急に言い出されたそうよ。こういう気紛れは相変わらずね。とにかくメイジが自分の使い魔を紹介して、特技を披露して楽しませろ、だって。あんたはまぁ、問題ないわよね、ランマ」

ルイズはPちゃんを抱えたまま微笑む。らんまは「むっ」という顔をした。
「……おい、変身体質をあんまり大っぴらにはしたくねーぞ」
「もうギーシュ以外の全員が知っているわよ、この学院では。どーせやるなら優勝よ! 貴族はね、名誉のためなら命も賭けるもんなのよ!」
「ちぇっ、命を賭けるのは、俺たち下々の者じゃねーか」

「そうでもないわよ。貴族は後ろを見せずに戦うし、侮辱されれば相手に決闘を申し込めるし。王族を守り、平民を保護してやるのも貴族の役目なんだから」
「貴族っつーか、サムライみてえだな……あれもまあ、貴族っちゃーそうか。そんじゃーまぁ、曲芸でもやってやっか。わりと何でもできるぜ、手品に軽業にジャグリング、空中ブランコ……」
「じゃあ、猛獣の背中に跨って、ナイフをお手玉しながら火の輪くぐりして、口にバチをくわえて、その先でポットでもくるくる回してもらおうかしら」
「全部いっぺんにできるかっっ! そーだ良牙、おめーにも協力してもらうぜ」

らんまがルイズの腕の中からPちゃんを引っ掴み、大きな壷の中に投げ入れて、ヤカンのお湯を注ぐ。Pちゃんは人間の青年、響良牙に戻った。ただし、全裸で。

「ぷわっ! き、きさまあ、いきなり何をするっ!」
「うーん、人間になったとき全裸になっちまうのが問題だな。いっそ腹踊りでもやらせよーか」
「お前がやるんだろーがっ! ええい、お前も男になりやがれっ」(ばしゃっ)
「い、いいから服を着なさいリョーガ! またギーシュとかが湧いて出たら、ややこしくなるでしょーがっ」

どたばたと喧嘩を始める乱馬と良牙。と、ガチャリとルイズの部屋のドアが開いた。部屋の中にはルイズと二人の男、一人は裸。
「……あらルイズ、騒がしいと思ったら、お楽しみ中だったのね。ノックはしたけど、こりゃ失礼」(バタン)
「ままま待ってキュルケ、誤解だわっ」

良牙は、部屋においてあった自分のリュックサックから服を取り出して着ると、ルイズに問いかける。
「……なあ、ルイズとやら」
「なによ、リョーガ」
「俺が、その……、ブタになることを、イヤではないのか?」
「あんた、もともとブタなんでしょ。どーぶつが喋ろうが人間になろうが、どーぶつに違いないじゃない。同じブタ男でもオーク鬼よりゃマシよ、あんたは可愛いんだし」
「…………うぐっっ」

ち、違う、違うんだルイズちゃんっ。俺はブタじゃない、人間なんだっ。くううっ、しかし真実を話してしまえば、もう『Pちゃん』として可愛がられなくなってしまうかもっ。ああ、俺は、俺は人間扱いされていないのか。気が、気が重い!

「それもこれも乱馬のせいだあっ、『獅子咆哮弾』!!
「どわあああっっ!?」

良牙の掌から『重い気』が放たれ、乱馬は窓の外へ吹っ飛ばされた。そして良牙も、涙目でルイズの部屋から走り去ってしまった。

「……ま、いいわ。疲れたから今夜は寝ましょう」

翌日。学院の正門前広場に特設ステージが作られ、ぱぱーんと花火が上がる。『使い魔品評会』の開催である。司会はコルベール、ゲストはアンリエッタ姫殿下とマザリーニ枢機卿だ。

「えー、本日はお日柄もよく、ここに姫殿下をお迎えしての使い魔品評会を開催できる事は、喜びの極みであります。生徒諸君には日ごろの学業の成果を十二分に発揮し、もって国家有為の人事と……」
珍しく、オールド・オスマンが真面目に開会の挨拶をする。教師席には、まだミス・ロングビル(フーケ)の姿もあった。

「それではエントリーナンバー1、グラモン元帥のご子息、ミスタ・ギーシュ・ド・グラモン!」

「ははははは、僕こそが『トリステイン魔法学院の青銅の薔薇』ギーシュ・ド・グラモン17歳。よろしくお見知りおきを、アンリエッタ姫殿下!」
しょっぱなからこいつか。学院側一同の顔が引きつる。
「いでよ、我が使い魔『ヴェルダンデ』くん!!」
ギーシュの呼びかけに答え、巨大モグラのヴェルダンデが地面から出現する。

「ほほう、ジャイアントモールですか。城攻めで活躍できそうですな」
「お目が高い、枢機卿。しかもこのヴェルダンデくんは、馬と同じ速度で地下を進み、鉱脈や宝石を嗅ぎつけて……ああちょっと、どこへ行くのだヴェルダンデくん」

ヴェルダンデは鼻先を動かしながら、貴賓席へ近付いていく。
「い、いかん、姫様が身につけておられる『水のルビー』を嗅ぎつけよったか」
マザリーニの合図で、魔法衛士隊の隊長が、すっと姫様の前に立ちふさがる。

「ふ」
と、その前に巨大な直立二足歩行する猫が立ちはだかる。司会コルベールの使い魔、コタツネコだ。それを見たらんまは、こそこそとルイズの後ろに隠れる。

「フゴフゴッ(じろっ)」「ふ(ぎんっ)」「……フゴッ(すごすご)」
コタツネコに気圧されて、ヴェルダンデは引き下がった。一同からコタツネコに歓声と拍手が沸き起こる。

「……次っ!!」

モンモランシーの使い魔は、黄色い蛙のロビン。大きなリボンをつけて、歌声を披露する。マリコルヌの使い魔は、フクロウのクヴァーシル。こちらは空中でくるくるとダンスをしてみせる。キュルケの使い魔は、サラマンダーのフレイム。火竜山脈のブランド品で、口から火を吐いて威圧する。一番会場が沸いたのは、タバサの風竜シルフィード。これだけ立派な使い魔はそういまい。

「いよいよ次よ、ランマ! リョーガはどこ行ったのかしら、私の使い魔じゃないけど」
「良牙を召喚したメイジって、今頃進級できずに泣いてねーかな。よっし、練習も済ませたし、準備はいいぜ」
らんまは、デルフリンガーを背負い、人間の背丈ほどもある丸太を傍らに置いている。

「次! ラ・ヴァリエール公爵家令嬢、ミス・ルイズ・フランソワーズ!!」

コルベールの呼び出しに、二人はステージに進み出る。
「私の使い魔は、このサオトメ・ランマですっ!」
「へへ、よろしくお願いします、お姫様」
『我こそは魔剣デルフリンガー! 今から面白いもんを見せてやるぜえっ!』
「人のセリフ取るんじゃねーよ、目立ちたがりがっ。そんじゃー、行くぜデル公!」

ステージ上に、縦に据えた丸太へデルフリンガーを向けて構え、気息を調える。左手のルーンが輝き始めた。
「無差別格闘早乙女流・新奥義、『神速造型剣』! だだだだだだだだだだーーーっっ!!」
らんまは凄まじい速度でデルフを振るい、丸太を削っていく。みるみるうちに人間の顔が、髪が、肩が、胸が、腕が、腰が、スカートが、靴が削り出される。

「完成っ! ジャスト1分!」

なんと、丸太から『アンリエッタ姫殿下の彫像』が削り出された! 瓜二つである。
「「おおおおーーーっっ」」(パチパチパチパチ)

反応は上々、らんまは得意げだ。
「へっへーん、『ガンダールヴ』とやらの効果で、武器の扱いも超一流だぜ。素手でもルーンが反応するといいんだが、まだ修行が足りねぇのかな」
『そーいうふうにできてんのさ、そのルーンは。おめーさんはてえしたもんだよ、ランマ』

いよいよ結果発表。一同は静まり返り、優勝者の発表を待つ。

「優勝は、ミス・ルイズ・フランソワーズの使い魔、ミス・ランマ!!」
わあーーーーっと歓声が上がる。あの『ゼロ』のルイズの使い魔が、優勝だ! 二人は手を取り合い、躍り上がって喜ぶ。
「どーでいルイズ、やっぱり俺は大したもんだろーが」
「すごいわランマ、優勝よ優勝! もう私、『ゼロ』じゃないわ!」

「えーそれでは、優勝者には姫殿下より賞品として……えー、『シャルロットちゃん』と『フランソワーズちゃん』が下賜されます? なんですかな、これは?」

「え? フランソワーズちゃんって、私よね?」
ルイズが首をかしげ、タバサもなぜか周りを見回す。
「そうよ、ルイズ。でも今はこの子が『フランソワーズちゃん』」
姫様がぱかっと傍らの宝箱を開けると、中には1枚の料理用エプロン。
胸のところに、ヒヨコと『PIYO PIYO』というアルファベットのプリントがある。

「これは現代の技術では作れない、特殊な材質で作られた謎のエプロンよ。私が名付けたの、フランソワーズちゃんってね。はい、ルイズにあげましょう」
「はあ……ありがとうございます」

らんまは何か、嫌な予感がした。
「じゃあ、その、『シャルロットちゃん』って?」
「はい、これがシャルロットちゃんよ、ミス・ランマ。さっき殴って捕まえたの。ほーら、美味しそうでしょ」
姫様がぱかっと二つ目の宝箱を開ける。

「……やっぱり、おめーか……良牙……」
もう一つの宝箱の中には、たんこぶを作って気絶したPちゃんがいた。どこまでも不幸な男であった、響良牙。

「思い出したわ、姫様は可愛いと思ったものに自分で名前をつけて、勝手に持っていっちゃう変な癖があるのよ。ほらランマ、あんたの賞品よ。受け取りなさいな」
「は……ははははは……」

鏡の中の異世界は、やっぱり『るーみっくワールド』だったり……するのかも知れない。

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