マガジンのカバー画像

聖杯戦争候補作

65
つのが某所に投下した亜種聖杯戦争の候補作。落選多数。 鯖や鱒はご自由にお使い下さい。
運営しているクリエイター

2018年12月の記事一覧

【聖杯戦争候補作】真赤な誓い

男の朝は早い。冬木市郊外、森の奥の山小屋で、彼は鶏よりも早く目を醒ましていた。窓の外はまだ真っ暗で、星空が見える。 山小屋の管理人―――それが彼に割り振られた役割だったが、今や違う。短い黒髪に無精髭、鍛え抜かれた肉体。鋭い目つきで周囲を見回し、男は夢の中で告げられた「記憶」を整理し始める。 聖杯戦争。万能の願望器を巡って行われる、魔術師たちの殺し合い。魔術師でもない自分が呼ばれたということは、それを何者かが歪んで再現した、本来のそれではない何か、なのだろう。 知る範囲で

【聖杯戦争候補作】Cross Road Blues

週末の午後。冬木市新都にある外人墓地の一角。目の前には石畳と、立ち並ぶ墓石。天気は曇りで、人けは少ない。なぜここへ来たのだったか、もう覚えていない。そも、この町に住んでいたという記憶はないのだ。旅行だか、撮影だか――――いや、墓地で撮影をするような仕事は、確か予定にはなかったはず……。ホテルの場所は……。 その少女はベンチに座り、ただただ唖然呆然としていた。何が何だかわからない。完全に自分の理解の範疇を超えている。 『ユーア・ソーベリベリ・アルティミット・ラッキーガール!

【聖杯戦争候補作】Hungry Ghost

はっきり言っておく。人の子の肉を食べ、その血を飲まなければ、あなたたちの内に命はない。                      ―――『ヨハネによる福音書』6:53 ◇ 腹が減った。 子供の頃から、空腹は慣れっこだ。訓練も兼ねて、何日か食事ができないこともザラにあった。あの世界ではそれが普通だった。飢えて死ぬ奴も大勢いた。体が資本のあの組織に入って、ようやく毎食にありつけた。一宿一飯の恩義というには、随分と仇で返してしまったけれど。 この空腹は、そういうのとは違う。

【聖杯戦争候補作】Warship March

……海行かば 水漬く屍 山行かば 草生す屍 大君の 辺にこそ死なめ かへり見は せじと言立て……        ―――大伴家持『賀陸奥国出金詔書歌』より 夕暮れ時。 冬木市の郊外、海に突き出した小さな岬。釣りの穴場として少し知られ、近くには小さな海水浴場もある。そこへ、ひょこひょこと歩いていく小柄な人影がある。杖を突いた老婆だ。彫りの深い西洋的な顔で、漁師町の住民ではない。観光客か。フードを目深に被り、腰を曲げ、皺の寄った手で木の杖を突いて歩いている。四国遍路の持つ金剛

【聖杯戦争候補作】God Save The Queen

夜。自分の部屋で頭を抱え、その少年は悩んでいた。甚だ悩んでいた。 金髪をオールバックにし、眉毛はなく、カミソリのように鋭い目つき。長ランにボンタン。明らかに不良だ。ケンカをすれば、相手が大人数でない限り負け知らずの彼であったが、今回の事態はそういう次元の話ではない。 聖杯戦争。英霊を使役して殺し合い、何でも願いを叶えてくれる聖杯を獲得するための魔術的闘争である。魔術師でもない彼に降り掛かった突然の理不尽。絶望し、悩み苦しむのも当然だ。その上、彼の悩みはそれだけではなかった

【聖杯戦争候補作】カルマ / supernova

010110101101010110101101010110101101010110101101 「……■■、■■! 捜しましたよ! フラッといなくなって、何をやってたんですか」 「やあ■■■■君、ちょっとね。経過は順調ですか?」 「ええもちろん。でもあなたがいないと、まだいろいろ困ります」 「すみません。ですが、■■は成功だったと、これで証明された……」 010110101101010110101101010110101101010110101101 01011

【聖杯戦争候補作】ヴェンジェンス・イズ・マイン!!

父よ、御心なら、この杯をわたしから取りのけてください。 しかし、わたしの願いではなく、御心のままに行ってください。 ――――『ルカによる福音書』22:42 「……本当に、本当に、本当の本当に、いらんのか!?」 「何度も言いましたよ、セイバー。僕は聖杯を必要としません」 雨の止まぬ昼下がり。冬木市にある教会の一室に、カップの置かれたテーブルを挟んで、少年が二人いる。 一方は、小柄で黒髪。女性と見紛う美形だが、顔には複雑な紋様の入れ墨が施されている。黒檀色の装束を纏い、腰の

【聖杯戦争候補作】Stairway to Heaven

☆○ 夜。とあるホテルの屋上。二人の男女が並んでベンチに座り、語らっている。 男が見下ろすのは、夜景。 女が見上げるのは、満月。 男は、おそらく二十代前半。黒いドレッドヘアーを真ん中分けにし、神経質そうな険しい表情。腕と胸を剥き出し、首と顎を覆う、妙な服に身を包んでいる。顔立ちから、東洋人ではなさそうだ。 女は、男よりやや年上。セミロングのウェービーな髪に、褐色の肌の艶めかしい美女。ヒスパニック系の顔立ちだ。タレ目に泣きぼくろ、少々濃い化粧。豊満な胸に露出度の高い服

【聖杯戦争候補作】海底聖杯アンチョビー

「ううっ、なんでこんなことに……」 夜。冬木市の人けのない海岸で、制服を着た金髪の少年が膝を抱えて黄昏れていた。目の前には、昏い海。彼にとっては、故郷のようなものだ。 「はー、せっかくいろんなゴタゴタに片がついて、よーやく普通の生活が戻ってきたとゆーのに…すぺぺぺぺぺっ、なーにが聖杯戦争じゃっ。オレは暴力はキライなんじゃい、戦争は米軍とかに任せとけいっ」 目の幅の涙を流しながら、少年は無責任に愚痴をこぼしまくる。整った顔立ち、と言えなくもないが、美形というほど美形でもな