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雁が空を飛ぶ

つぎなるプロジェクトに向けて、一つのとても単純な動画を作った。江戸時代の『徒然草』注釈絵をそのまま利用している。まずは出来上がった動画を見てもらいたい。

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背景も飛んでゆく雁も、『なくさみ草』(国文学研究資料館蔵)からそのまま拝借した。風景を成したのは、つれづれのまま紙に向かう兼好の草庵から眺める山々やたなびく霞や雲である。

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その上を飛んでくる雁は、同じく第十九段に描かれたものである。「やう々々夜寒になるほど、雁なきてくるころ」とある本文に対して施された解釈で、月に照らされて三羽の雁が列をなしている。

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木版印刷されたもので、絵はおおらかな墨線にしか頼らず、状況を明らかにすることを優先し、一見して分かりやすいが、どこかぞんざいな印象が否めない。しかしながら、この絵においては、じつは絵巻などに見られる大事な構図の伝統、あえて言えば不都合な絵空事が含まれている。

ちょっと詳しく説明しよう。

物語を伝える絵巻などは、人間や動物の行動、行為を表わすために苦労する。特定のアクションを見せるには、二次元の限られた空間には限界がある。そこで、これを打開するために、頻繁に取られた方法は、つぎの二つである。一つは、一続きの行動の中の一瞬、それも一番安定しない、物理的に長く続かないところに焦点を当て、見る人にその瞬間の前後を想像させ、補完させる。もう一つは、行動の中のいくつかの状況を取り出し、それを順番に並べて一つの行動を再現する。言ってみれば、アニメの連続のコマを複数の人間/動物をそこに存在するかのような恰好で描きこむ。ここに見られる空飛ぶ雁も、まさにこの二番目の描き方に則ったものにほかならない。

このような目で絵を読むと、一つのアクションについてのビジュアル的な情報をたしかに明晰に得られる。巧妙な構図だと言えよう。ただ一方では、完成された絵は、巧みすぎて、現実から却って離れてしまう結果になりかねない。目の前の雁も、群をなしているものとして見れば、一遍に崩れてしまう。そもそもつねに同じ翼の動きをしているからこそ雁が整列な行列を取っているもので、ここまでばらばらの動きだと一行が乱れるほかはない。さきに触れた不都合とはまさにここに隠されているのだ。

以上の絵巻が描く行為行動について、かつて一つの論考に纏めた。全文公開されているので、興味ある方はどうぞお読みください。(「絵巻の文法序説」)

ところが、一続きの動きを分解して描いた絵は、パソコンの画面上で動く動画を作るのには、恰好の素材となる。そこで、空飛ぶ雁を表現しようと、三つの雁を切り取り、GIF動画に仕立てた。それをさらに静止画の上に置き、時間順に移動させたら、上記の動画が出来た。利用したソフトは、今度もAdobe Premiere。

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ただ、PremiereはGIF動画の通過した要素を受け付けず、これを解決するにはちょっと一工夫が必要だった。そのトリックを備忘に記しておく。GIF動画に通過すべきところに前もって背景となる色を加える。それをPtrmiereに読み込んだあと、GIFに対して「Effects--Video Effects--Keying--Ultra Key」という一連の操作をし、その上「Key Color」で背景の色を選ぶ。分かったらあっけないぐらい単純な作業なのだ。

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