見出し画像

デジタル古典籍へのアプローチ

日本の古典籍閲覧をめぐる環境は、ここ数年の間に一変した。明治時期までに制作されたありとあらゆる書物のデジタル化は凄まじいスピードで行われ、とりわけ江戸の刊本などを中心としたものなら、まずは安心してデジタルの形で閲覧できるようになった。高画質のものを開いたり、ダウンロードしたりして、読書の対象として鑑賞し、研究の対象として見つめることは、マウスクリック一つで可能になった。

そこで、古典籍へのアプローチの方法である。読みたいタイトルを知っていれば、ブラウザで検索してほぼ一発で答えが戻ってくる。専門のサイトを利用すれば、国文学研究資料館「日本古典籍総合目録DB」は一番使える。あの『国書総目録』がベースとなっているのだから、デジタル化されていないものを含めて、伝存、所蔵の情報がしっかりしているので、心強い。デジタル情報は現在進行形でたえず付け加えられ、半世紀まえの白黒ファイルから、多くの中小機関の所蔵からのあらたな参加などがすべてここに合流するようになった。一方では、所蔵情報の記述はあくまでも「総目録」のままなので、読み慣れるまでには一苦労があるのかもしれない。

画像1

これに加えて、所蔵の多い機関としては、早稲田大学付属図書館と国会図書館の二つの存在は大きい。早稲田大学「古典籍総合データベース」は、対象典籍30万点、2005年度から作業が始まり、先駆的な実践が各方面への衝撃はいまも記憶に新しい。デジタル化はいまでも継続し、毎月の下旬に新たな追加リストが公開される。国会図書館「古典籍資料(貴重書等)」の対象は、約10万件。そのうち、たとえば平安、中世の絵巻の模写はユニークで貴重な資料群を成している。

画像2

画像3

ここまで膨大な分量のタイトルを前にして、総合的な案内は一つの新しい課題となってくる。作品の形態によるジャンル、知名無名の作家、作品内容によるテーマ別など、古典籍を多方面からの手引きがときには必要になる。いうまでもなくデジタル化という新しい分野への、これまでにはない要望である。これについては、いまだ満足できるリソースが見当たらない。つぎは、わずかな二例である。

早稲田大学「古典籍総合データベース」は、「テーマ別ギャラリー」を設け、八つのテーマの一つに「江戸文学コレクション」を取り上げた。「曲亭馬琴の世界」と「江戸文学100選」と掲げ、後者には「仮名草子」、「浮世草子」など十四のジャンルを収録した。わずかに100作に止めたのは、なんとも物足らない。

これに対して、個人的な作業として制作されたつぎのページは特筆すべきだ。タイトルは「天竺老人 浮世絵」、対象はすべて国会図書館から公開されたものである。浮世絵と名乗りながらも、草双紙から奈良絵本までに及び、テーマ、ジャンル、作者など複数の分類がなされている。制作されたのは、いまだ国会図書館のデジタル公開の早い時期だったからだろうか、公開されたものを一旦ダウンロードして、画像を切り取り、色の調整をした上で、再構成してこの特設サイトにアップロードするという作りを取っている。膨大な作業が行われたと想像できる。ただ、画像のサイズは小さく、一覧として見るには程よいが、閲覧に耐えるものではなく、国会図書館のサイトへの案内がその役目だと考えたい。なお、タイトルの検索が用意されていない。

画像4

デジタル古典籍は、所蔵や公開機関を超えて、インターネットにおいて一つの大きな、かつてない「図書館」を構成している。これへの道しるべ、アプローチの案内というのは、日増しに現実的な課題となる。それのありかた、構成するためのプロセス、実用、検証の方法など、一つずつクリアしていくべきだろう。個人的には、まさに「ジャパンサーチ」のような総合的なプロジェクトが率先して応えてくれるのではなかろうかと想像している。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?