朗読動画:猫の広言

筑波大学附属図書館蔵『猫の艸帋』より。

原文:
「又我らの系図をあら々々語り申べし。聞召候へ。かやうに申候へば、鼠とたけくらべのやうに候へども、謂をしろしめされずは、いやしめ給はんまゝ、」猫背中にをしつくばい、大の眼に角を立申やう、「われは是天竺唐土に、恐をなす虎の子孫なり。日本は小国なり、国に相応してこれを渡さるゝ。その子細によつて日本に虎これなし。延喜のみかどの御代より、御寵愛有て、柏木のもと、下簾の内に置き給ふ。又後白河の法皇の御時より、綱を付て腰もとに置給ふ。綱のつきたる故に、一寸先を鼠徘徊するといへども、心ばかりにて、とりつくことならず。湯水のたべたき時も、のどをならし声を出して、たべたけれ共、頭をはり、痛めらるれば是非なし。ことばを通ずといへども、天竺の梵語なれば、大和人の聞知ことなし。大略繋ぎ殺さるゝばかりなり。にうがくの御慈悲、広大にて、賎が伏屋に月の宿り給ふが如く、猫風情までに御心をつけさせ給ひ、綱を解き、苦を許さるゝこと有がたき御こと也。此君の御代、五百八十年の御齢をたもち給へと、朝日に向つて余念なう、のんどを鳴らし拝み申なり」。

朗読・制作:X. Jie Yang

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