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Extra.パワードスーツとともに(1)誕生と発展

パワードスーツのイメージ

「4.わたしは機械?(2)」で触れたウイリアム・ギブスンの「冬のマーケット」やジョン・ヴァーリイの短編集『ブルー・シャンペン』では、障碍を克服するための器具としての「外骨格」のパワードスーツが描かれていた。ギブスンは『モナリザ・オーバードライブ』でも同様の「外骨格」を登場させているが、こちらでは健常者が重量物を動かす際の補助器具として使われている。

一般にSFにおけるパワードスーツと言うと、戦闘的なイメージであるが、障害者や健常者の補助器具としての「パワードスーツ」の方が、より現実的である。実際、現在では介護分野ではパワーアシストスーツと呼ばれる一種の「パワードスーツ」が実際に使われるようになっている。詳細は後ほど触れることになるが、この研究は1980年代からはじまり、1990年代半ばには、形になり始め、今世紀に入って実用段階に入った。
しかし、その当初から今に至るまで、その主たる用途は介護者の肉体的負担を軽減することで、それが他の高負荷労働分野への転用を生んでいるわけだが、ギブスンらが描いたような介護される側が用いるという分野での研究開発はごく限られたものである。主なものは歩行時の負担を軽減するものである。非介護者の能力を向上させて介護の必要性を無くすということを目的としたものは極めて稀有であろう。

SFにおけるパワードスーツ

始まりとしての『宇宙の戦士』と『アイアンマン』

ロバート・A・ハインライン『宇宙の戦士』(1959年)、SFにおけるパワードスーツの原点的作品で、「パワードスーツ」という言葉の出典でもある。

パワードスーツは、歩兵に高いレベルのパワー・装甲・武装・機動力を持たせることを目的とした装備ではあるが、操縦するロボットではなく、着用した兵士の動きに追随して動く「マスター・スレイブ方式」を採用している点、そしてそれがリアリティを持って描かれた点が画期的であった。

しかし、ハインラインは1942年の「ウォルドゥ」において、すでに「マスター・スレイブ方式」の遠隔操作型マニピュレーターを描いており、それを援用した形となっている。

このパワードスーツのイメージは強烈であり、また本格的なミリタリーSFとしての描写も圧倒的であった。そのため、後の多くの類似兵器を登場させるミリタリーSFの源流となった。

特に日本では、1977年のハヤカワ文庫版の表紙における、スタジオぬえの宮武一貴がデザインし、加藤直之によって描かれたパワードスーツのイラストがビジュアルとしてのインパクトが絶大であった(以下「スタジオぬえ版パワードスーツ」)。実際、アメリカでのパワードスーツのイラストは、「ごつい宇宙服」でしかなく、その点では宮武・加藤によるパワードスーツのビジュアルは画期的であったといえる。また、1979年のアニメ『機動戦士ガンダム』のアイデアの原点となったことで知られ、特にガンキャノンのデザインには「スタジオぬえ版パワードスーツ」の影響が顕著に見受けられる。

ただし、『宇宙の戦士』が原点と言えるのは、軍事兵器としてのパワードスーツであって、パワーアシストスーツ、つまり「冬のマーケット」の外骨格的なものであれば、すでに1957年のイワン・エフレーモフの「アンドロメダ星雲」に《踊る骸骨》が登場している。

これは「重力の大きい場所での移動用に作られた機械で、皮で包まれた鋼鉄の骨組に、電気モーターや、バネや、緩衝装置がついていて、宇宙服の上に着用できるようになってい」る(飯田規和訳『世界SF全集22・エフレーモフ』早川書房、1969年)。ただし、「自分のからだの動きを、鋼鉄製の《骸骨》のバネの動きに合わせることはかなりの修練を必要とした。そのバネのために歩行は衝撃や揺れがともなうのである。短時間の行動にすぎなかったが、調査に行った隊員たちは、帰ってきたときには、綿のように疲れきっていた」という描写もあり、その姿は、後述する20世紀末に研究開発されていた米軍の「スプリング・ウォーカー」という歩行補助装置や、今日のパワーアシストスーツに極めて近いものである。

マーベル・コミックの『アイアンマン』(1963年~)の主人公アイアンマンは、スタン・リー、その弟でもあるラリー・リーバー、ドン・ヘック、ジャック・カービーといったクリエーターによって生み出されたヒーローである。1963年の「Tales of Suspense」誌#39に初登場し、同誌は以降アイアンマンを主人公とするが、ヒーロー名がタイトルとなるのは1968年の「Iron Man」誌刊行から。初登場時のIron Man Armor Model 1は全身銀色で、のっぺりとした西洋甲冑のようなデザインだった。2008年の映画版『アイアンマン』の冒頭で無国籍ゲリラのアジトから脱出するためトニー・スタークが着用した「アイアンマン・アーマー・マーク1」がイメージとしては近い。
以降、様々なタイトルのコミックに登場し、近年はマーベル・シネマテック・ユニバースの主要キャラクターとして活躍している。機械的なアシストによる強化服のコミックキャラクターの嚆矢と言える。

マーベルには、1978年に「The X-Men」#109において、スーツによってパワーを得るウェポン・アルファ(のちガーディアンに改名)が登場しているが、外見は他のヒーローと同じようなスーツであり、アイアンマンのような機械的なパワー付加ではない。

同じく社長ヒーローであるDCコミックの「バットマン」のバットスーツは、映画の『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』などに登場する「バットマン・アーマー」など一部を除いてパワーアシスト機能などはほぼ有していない。

そもそも、アメリカンコミックのヒーローには、超能力・異能力を身につけた者が多く、外的な能力強化が必要ないケースがほとんどである。その一方で、DCのバットマンやグリーンアロー、マーベルのパニッシャーやデアデビルのように身体能力は常人であるケースも少なくはないが、かれらは訓練や修行で身につけた格闘技術で闘う。パワードスーツを用いるヒーローはどういうわけか極めて珍しい。

その後、ハリイ・ハリスンの『宇宙兵ブルース』(1965年)、ジョー・ホールドマン『終りなき戦い』(1972年)、ジョン・スティークリーの『ARMER』(1984年)などの、パワードスーツが用いられる『宇宙の戦士』の直系に当たるミリタリーSFが登場する。1974年からのリチャード・エイヴァリー(エドマンド・クーパー)《コンラッド消耗部隊》シリーズ(原題は、シルベスタ・スタローンの映画と同じ「The Expendables」)にも、パワードスーツが登場しているが、こちらは汎用機器であって兵器にも転用可という扱いであった。

1986年のSF映画『エイリアン2』では、現在のフォークリフトのような重機に該当する作業用パワードスーツ「パワーローダー」が登場し、ラストシーンでエイリアン・クイーンと対決を演じた。このパワーローダーの設定と描写が持つ高いリアリティは大きなインパクトを与え、以降の映像におけるパワードスーツは少なからず影響を受けることになった。

こうした流れを受けて、ミリタリー系のパワードスーツは一般化していった。

ヒーロー系では、原点である『アイアンマン』が2008年には実写映画化され、すぐれた映像技術によってヒーロー系のパワードスーツの映像描写を決定付けた。2019年のRPGゲーム「Anthem」に登場するパワードスーツ「ジャベリン」の描写は明らかに、アイアンマンの延長線上にある。

2009年の映画『アバター』に登場したAMPスーツは、搭乗者と手足とスーツの手足が離れているタイプのパワードスーツで、エイリアンのパワーローダーを大掛かりにしたような兵器だったが、兵器系パワードスーツの近年の主流は、より軽量な外骨格型となっている。2013年の映画『エリジウム』では、マット・デイモン演じる主人公が、事故による被曝によって薬剤の力を借りなければまともに身体を動かすことができないほど衰弱していたため、強化外骨格エクソ・スーツを装着する手術を受けたことにより、驚異的な身体能力を身につけた。これは「冬のマーケット」タイプの補綴器具を更に強力にした、強化外骨格型パワードスーツと言える。

この頃は、特に本格的な強化外骨格型のパワードスーツが集中して描かれており、2014年のゲーム『コール オブ デューティ:アドバンスド・ウォーフェア』、2013~2015年のリンダ・ナガタのSF小説《The Red》三部作、桜坂洋のライトノベル『All You Need Is Kill』(2004年)を映画化した2014年の『オール・ユー・ニード・イズ・キル(Edge of Tomorrow)』などに登場している。

兵器系パワードスーツ描写が収斂された格好だが、これは後述するアメリカ国防総省高等研究開発局(DARPA)の2001年からの研究構想の影響が考えられる。

(つづく)


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