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舞台照明デザインのこと その0? 仕事の始まりのこと (舞台照明のキャリアの積み方 僕の場合)

はじめに

しばらく、間が空いているけど、続きを書くつもりはあるので、待っている方が居たら、もう少し待って。

で、今回は、この記事を読んで、自分が照明の仕事を始めようと思ったことと、ここまでの道のりについてを、少し詳しく書こうと思う。

よこしまな思いから始まった

高校生の時になりたかったのは、DJ。
なので、入った部活は「放送部」 ナレーションとかそっちじゃなくて、好きな曲をかけて、適当にしゃべったりとかするようなことをしていた。
ある日、学校で一番美人だって言われてた先輩が、演劇部を手伝ってくれないかしら。と言ってきて、「あぁ。はい。」と二つ返事で引き受けた。

放送部なので、最初にやったのは音響さん。でも、すぐに照明の手が足りない。って言われて、よくわかんないけど照明さんになった
これが楽しかった
なんせ、いっぱいフェーダーがある。
そんで、フェーダーを上げると照明が点く。
うわぁ、面白いなー。これ。って、劇場のお兄さんに根ほり葉ほり聞いて、
「ねぇ、あそこを明るくして、ここが暗くしたい。」
「ちょっと、その辺いじってみ。」
「お。おぉぉぉ。」

みたいな感じで、教えてもらって、なんとなく業界の用語も教えてもらって、あれ、これ面白いんじゃないの。って、なった。

そのころには、先輩は卒業してしまっていた。

これ、仕事にしたら楽しいんじゃないだろうか。

高校生の短絡的な思考は、あんまり深く考えられることもなく、これを仕事にしたら楽しいんじゃないかしら。
やりたいなぁ。
みたいなアバウトな感じで進路を考えていて、
一方で大学ってやつも面白そうだよね。
我ながら適当なことを。
そんなことを思っていたら、芸術系の大学の教授からお誘いがあって、お、ありがたい。
って思って、親に話したら、大反対
いやいや、うちの家族はどっちかって言うと、芸術家の家系だし、めいっぱい芝居とか音楽とか、絵画とか見せて育ってるんだから、当然想定内でしょ。って、思っていたら、そうではなかった。

順調のはずだったのに、え、ダメ?

いや、びっくりした。
一番困ったのは、ない頭で考えて、根回しした進路が無くなったことだったんだけど、生来のんきなもので絶望もしなかった。と書きたいけど、そうでもない。
かなり落ち込んだ。
とりあえず学びたいことなんてないし、芝居がやりたかったのに、出来ないのかー。って、どうしたもんだろうな。
仕方がないので、
受験して浪人になって、
大学に入って、経済学部に入った。
そこで児童劇をやるサークルに入って、演者やったり照明やったりしてた。
これもなかなかかわいい先輩に見学に言ったら、
「かわいいね」って、声をかけられたので、入った。
我ながらいい加減である。
楽しく3年過ごして、そろそろ就職か。
みたいな気持ち。
結婚もしたいしな。
就職先決めなきゃな。
って思って、ゲームのデザイナーとかPCの雑誌の編集者になれないかな。
表玄関じゃなくて、裏口みたいなところを狙って就職活動をしてた。
ゲームの方は今一つだったけど、PCの雑誌の編集者は、紹介してくれる人が居て、来る?行く!みたいな感じで話が進んでいた

そう簡単に進まないよね。

大変ばかっぽいのだけど、当時の彼女とこのタイミングで別れる。
っていうか、振られた。

大ダメージすぎて、雑誌の編集者の方は土下座する感じでお断り申し上げて、人生の目標や目的を軌道修正し始めた。
に、しても何したらいいんだろうか。俺。
っていうか、なにがしたいんだろうか。
服も好きだしな。
子供の相手も悪くない。
んー。そういや、芝居の照明は、アマチュアだけど、なんとかやってる。

プロの照明さんたちに助けてもらって、やれてる。
というか、やらせてもらってた。

とりあえず、お金のこととか人生のこととか、よくわかんなくなったから、舞台の仕事についてみて、照明さんになれないかな。

そう、はじまりは演出部

で、高校の時の先生に頼んで、
だれか芝居の業界の人居ないですかしら。
紹介してもらえないかなぁ。

って話をして。
紹介されたのが、舞台監督
で、一年くらいのその人のところで、演出部の雑用をやらせてもらってた。
演出部もなかなか楽しくて、いろんな準備をして、演者を舞台に送り出したり、暗転中の転換で踊っていて、怒られたり。
ま、いろんなことがあって、これはこれでいい仕事じゃないか。
何より、芝居を身近に作っている感じがして最高じゃないか。
と、演出部の仕事にはまっていった。

いつでも転機は人から降ってくる。

そんなある日。
バレエの舞台の準備をしていて、リノリウムを伸ばしていたら、
「そういえば、お前は照明さんになりたかったんだよね。」
いやいやいやいや、ここまで演出部やってきて、結構楽しいんですけど。
急に何を言い始めるんですか。先生。
「今日、お昼に面接あるから」
え、ちょっと言ってる意味がわかんないですけど。
で、面接をしてもらって、次の日から照明さんになった。

乱暴この上ないスタート

こうして、僕は照明さんになった。
この時には、まだC30とC60の見分けがつかないくらいのレベルで、いきなり社員になった。恐ろしい。
バイトで来る大学生の方が圧倒的に仕事ができる。
毎日、お腹が痛くなる感じで現場に行ってた。
ま、でも知らないことは知らないんだから、聞けばいっか。
なんて、適当な感じで働いていた。
先輩に、
「伊藤はマジで、どこまでやったら、あたしたちが怒るかどうか試してるんじゃないの。」
と、言われてた。もちろん、冗談だけど。

我流の限界が来た

そして、この後3か月くらいして、そんな楽天的なことじゃ間に合わない状態になった。
完全にオーバーワークで鬱になりかかってた。

そりゃそうだ。アマチュアで少し照明かじっただけの人が、急にプロの真ん中に入ってアシスタント。
現場では完全にお荷物だし、どの灯体にどの色枠なのかもわかんない。
ちょうどExpressが出たばかりでマニュアルが全部英語だったりして、結構苦戦した。

そこを、師匠に拾ってもらった。
1か月かけて、みっちり照明についてのことを教えてもらった。
それこそ、お金のことから、現場での動き方、プランの立て方。
そして、最も大事なのは「人とのかかわり方」
筋を大事にしなさいよ。ってことを一番口を酸っぱくして言われた。

そんなこんなで、なんとか現場で死なずに済んだ。

ここから、先は仕事の始まりとは関係ないことだから、割愛。
知りたい人が居れば、また書こうかしら。

好きなことを仕事にすること。

20年以上、舞台照明の仕事をしてきて思うのは、
「好きなことを仕事にするために、血を吐くまで考えられるか」
だと思う。

上の僕の道のりを見ればわかるけど、根回しと運で、ここまで生きてきている。
人生で好きなことをするためには、9割9分の根回しと1分の運だと思っている。

特に、舞台の仕事は「段取りしかない」もの。
自分が目指すもののためにステップを作って、そのステップを踏んでいく。
でも、作ったステップを蹴って飛ばされたりもするし、足りない時もある。
それは全能じゃないから、しょうがない。
ものすごい頑張ってシュートしても、結果的にそれが使えなかったりもする。そんなもんだ。

期待したものが手に入らないことが当たり前だからって、準備を怠ってはならないし、物事には必ず筋がある。
その筋を外したら、どんなにいいことしてもダメ。

好きなことを仕事にしていて、すごいな。

正直、好きなことだから、いろんなことが削れていくし、しんどいことも多い。お金にならないことも多い。

自分が好きなことをするためには、好きなことができるように人を集めていくことが大事だと思っている。
特に、僕は舞台照明のデザイナーだから、困ったときに頼る相手がいないと、一人で仕込みをすることになってしまう。それじゃ困る。
一緒に働く相手は選びたいし、選べるからデザイナーをやっているともいえる。僕自身が誰とでもそれなりにやれるような仕事の仕方が出来るほど、照明の仕事が得意だとも思わない

自分で自分に制限をかけて、出来ることをできるようにやっているだけで、すごいことなんて一つもない。
でも、すごい。と言ってくれる人にはありがとう。って思う。
存在を認めてくれてるわけだから。

若かりし頃は、特にお金のことで苦労をしたことが多いから、
好きなことでも大変ですけど。
っていう言い方をしていたけど、

大変なのも味。

好きな仕事をしている味の一つだから、大変さも大事に味わった方がいいんだよな。って思ったりする。
やりがい搾取
みたいなことは、いくらでもある。
こういうことにならないように、周りに人を置いて、相談できる場所や逃げ場をきちんと作っていかないと、
個人でデザインを受けていたりすると、ひどいことにもなりがち。
そういう意味では、数え上げたらキリがないくらいひどい目にもあってきた。
だから、もしも奇特なことに舞台照明の仕事がしたかったりして、さらに奇特なことに舞台照明のデザイナーなんてものになりたい人がいるなら、力になれることがあれば、なりたいとも思っている。

おしまいに

あんまり参考にならない話だと思うけれども、繰り返し言っているけど、

舞台の仕事で一番大事なのは、「段取り」

自分の仕事を作っていく段取りを考えるのが一番大事なことだと思う。
そして、わからなかったら、聞く。相談する。
それと、常に100点は取れない。
でも、120点目指して、取れなくても凹まない。
仮説を立てて、やってみて、検証する。
ベタな科学的手法しか、舞台では通用しない。
経験は、積めば積んだだけ力になる。
立てられる仮説の数が多ければ多いほど、いい。

幾千幾億の方法から、自分にとっての最上を目指すのが舞台の仕事。
だからこそ、準備できることは何でもしたらいいと思う。

特に先人は使うにこしたことはない。

がんばれ。

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