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音声メディア・コンテンツの未来

はじめに

メディア・パブリッシャーが知っておきたい、次のトレンドについて掘り下げていくマガジン「Ximera MEDIA NEXT TRENDS」の第三回となる今回は、音声メディア・コンテンツについて現状のトレンドを見ながら、未来を考えます。

近年はイヤフォンやスピーカーなどのハードウェアの進化と、それによるメディア消費スタイルの変化が、音声メディア・コンテンツの新たな消費機会を作り出しています。そしてその多くがAirPodsシリーズを代表とする無線イヤフォンとAmazon EchoシリーズやGoogle Nestシリーズを代表とするスマートスピーカーによって生み出されていると言っても過言ではありません。AirPodsシリーズは2021年に1億台の出荷があると予測されており、スマートスピーカーについても2021年には1.6億台の出荷があると予測されています。これらの新たな音声関連ハードウェアの普及によって、人々の音声メディア・コンテンツへのアクセスはさらに容易になってきています。

アメリカでは1億9200万人が毎月音声コンテンツにアクセスしているという調査結果も出ており、ハードウェアもコンテンツも明確に音声の存在感が増しました。この状況を追うように大手プレイヤーからスタートアップまで音声メディア・コンテンツに対する動きが数多く起こっており、このトレンドをおさえていくことでメディアの次世代のあり方を考えるきっかけとなればと思います。

テック・ジャイアントたちの音声メディア・コンテンツに対する動き

Apple Podcast、Google Podcast、Spotify、AmazonのAudibleとテック・ジャイアントはすでに大きな音声コンテンツプラットフォームを持っています。Spotifyに関しては2019年にポッドキャスト作成プラットフォームのAnchorを買収して以来、Spotify全体のポッドキャストの70%にあたる130万のポッドキャストがAnchorによって作成・配信されています。SpotifyにはNew York TimesやNPRなど伝統的メディアからWondery(課金型ポッドキャスト配信サービス)といった新興メディア、果ては個人クリエイターまであらゆるタイプのポッドキャスターからコンテンツが配信されており、ポッドキャスト市場の大きな盛り上がりを感じます。

音声ニュースで目立った動きとなったものとしては、GoogleのYour News Updateがあります。Your News Updateは2019年11月にGoogle Assistantの中でパーソナライズされた音声ニュースプレイリストとしてはじまったもので(日本では未提供)、ユーザがフォローして関心を示したトピック、ニュース提供元、地域に加えて、Googleの各サービスの利用履歴を考慮して、各メディアの音声ニュースから5-10本程度をひとまとめにしたニュースキュレーションが提供されています。現在ではGoogle Podcastでも利用可能です。

Your News Updateでは1-5分の短尺音声ニュースにはじまり、徐々に30-60分程度の長尺のオピニオン系音声コンテンツに移行していくようにエンゲージメントの設計がなされていることから、音声コンテンツのパーソナライズによるエンゲージメント向上を狙っていると考えられます。

またNetflixに関してもアプリの音声バージョンが発見され、音声市場への参入可能性が報じられています。こちらもAirPodsやスマートスピーカー利用層を狙った「ながら聞き」のオーディエンスリーチを高めるための動きと考えられます。

音声コンテンツのマネタイズ事例

音声メディア・コンテンツが盛り上がっているのは確かですが、ポッドキャストは無料のものも多く、果たしてマネタイズはどこまで可能なのでしょうか。ここでは音声コンテンツを中心に据えてプレミアム課金のサブスクで勝負している事例をご紹介したいと思います。

音声コンテンツ中心で大きな成功を収めたものと言えば、メンタルヘルスケアアプリのCalmがあげられます。2012年にサンフランシスコで創業したCalmはリラックスするための瞑想法、睡眠導入のためのストーリーを音声コンテンツで提供しています。月額15ドル(約1600円)、年額70ドル(約7300円)のプレミアム型のサブスクによるマネタイズをしており、Tech Crunchによるとアプリは1億ダウンロードを超え、400万以上の有料課金ユーザがいます。また同記事にて2020年12月には75Mドル(約78億円)の資金調達を行い、2Bドル(約2070億円)の企業評価額となったことも明らかになりました。Calmは2016年から黒字化していると言われており、音声コンテンツで最もマネタイズに成功したサービスの一つと言えるのではないでしょうか。この12月に日本への本格参入も発表され、コロナ禍や在宅ワークにおけるメンタルマネジメントの流れもあり、これからさらに注目を集めそうです。

また音声ニュースのマネタイズ事例として興味深い動きを見せているのがNoaというアイルランドのスタートアップです。NoaはNews Over Audioの略語で、「Audio Journalismのホーム」を標榜し、2017年に音声ニュースのアグリゲーションサービスをスタートしました。Bloomberg, Business Insider, The Financial Times, The Washington Post, The Telegraph, Harvard Business Reviewといったビジネス系メディアのニュースをナレーターによる音声化を施した上で、テーマ毎にキュレーションしてユーザにコンテンツを届けるSeriesと呼ばれるプレイリストを出すことで独自性を出しています。ビジネスモデルとしては、フリーミアム型の課金モデルとなっており、広告つきで一部の音声ニュース/記事を聞ける無料モデル(一部メーター型の有料ニュースアクセス含む)と、広告なしで1万8000以上のすべての音声ニュース/記事を楽しめるプレミアム課金モデル(9.99ユーロ/月)が提供されています(2020年12月時点ではHarvard Business Review, The Financial Times, The Economistはプレミアム課金モデルのみ提供)。売上の30%はNoaの取り分となり、残りがパブリッシャーのレベニューシェア分として配分されます。パブリッシャーは自社コンテンツのエンゲージメント、ストリーム数、視聴時間に応じて売上配分を受け取る設計です。現時点で有料課金ユーザがどの程度いるのかはわかりませんが、Noaはさながらニュースに特化したSpotifyとなっており、パブリッシャーに新たな収益源をもらたす存在なのか今後も注目してきたいところです。

台頭する次世代音声系メディア

ここまでは一方向ストリーム型の音声コンテンツのトレンドを紹介していきましたが、近年は新しい音声メディアの形としてUGC型のインタラクティブなオーディプラットフォームが増えてきています。ソーシャルメディアの特性をオーディオに活かしたこれらはAudio Socialと呼ばれており、前回(第二回)のXimera MEDIA NEXT TRENDSでもご紹介したClubhouseRodeoなどが代表例です。これらはルームやトピックを起点にしたリアルタイム音声チャットをベースとしたソーシャルネットワークで、ユーザがコンテンツを制作/提供することを中心にプロダクトが設計されています。

ほかにもオーディオコミュニティのGENEVA、空間音響をシミュレートした音声チャットができるHigh Fidelity、ペイウォール型のルーム課金ができるbonfire、プライバシーやセキュリティに特化したchalk、音声版TikTokと呼ばれるblipなど、さまざまなAudio Socialスタートアップが生まれています。これらのAudio Socialについては、Digital Nativeのまとめ記事が詳しいです。

これらのサービスは主にオープン型とクローズド型に分けられます。Clubhouseなどが誰でもオープンにルームやトピックを設定して、不特定多数と関わることができるオープン型。Rodeoのように親密な友達のみとカジュアルにお喋りをするのがクローズ型です。

オープン型はこれまでテキストや動画のSNSがたどってきた道と同じように、クリエイターによるさまざまなマネタイズのパターンが考えられます。広告、フリーミアム、サブスクといずれも可能で、ペイウォールについても有料のルーム/サロンという形をとったり、クリエイターと同じ音声になれる音声変換機能をアプリ内アイテムとして売る、投げ銭を得るなどマイクロトランザクションで課金するといった形が考えられます。

一方でクローズ型は、LINEやWhats Appのように広告とビジネスユーザ向け機能でマネタイズするということは考えられそうですが、クローズドなコミュニティである分、親密でないユーザとのつながり方には十分な注意が必要となりそうです。

おわりに

若い世代になればなるほど、クリエイターと視聴者の比率が近くなることから、GenZ(Z世代)を中心としたUGC型のAudio Socialに大きなトラフィックが集まってくる可能性は大いにありそうです。ここでも新たなプラットフォームで若い世代を惹きつける音声コンテンツを提供できるパブリッシャーやクリエイターが重要になってくるかと思います。

一方でポッドキャストのような一方向型はすでに飽和に向かいつつあり、競走が激しくなっています。新たなプラットフォームが出てくる度に、時代やオーディエンスに合った形でコンテンツを提供していく必要に迫られることはもう否定することはできません。流れの早い現代ではトレンドが来てからでは競合に勝つことが難しくなることもままあり、音声熱狂時代に入り、次世代音声メディアが出現しつつある今こそ、新しい領域にどうやって入り込んでいくか検討する良いタイミングが来ているのではないでしょうか。