交差点

「渡らないの?」


「渡りきったら、戻れなくなるかもしれないじゃない。」


「ランドセルに用はないって、自信満々に語っていた癖に。」


「なんだかね、もう少し、あともう少しってずっと思うのよね。」


点滅する青、対向車線が掻いた汗


「ほら早く。」


「案外、そうやっていつも急かしていたのは、他人ではないはず。」


「考えすぎなんだよ。何も考えずに進めば良いのに。」


提示された赤は仁王立ち


「確かに、気楽にとか、のんびりと、みたいなことは嫌いだよ。ずっと背伸びして向こう岸を覗いてた。」


「なら赤でも渡ってよ。それこそ大人になるってことじゃないの。」


「じゃあ一緒に手を繋いで渡る?反対の手なんか挙げてさ。」


「恥ずかしいじゃないか。」


「きっとそっちに残りたいんでしょ。」


右に曲がる車は消え、また青が始まる


「俺は残りたいよ。さっさと行けよ。曖昧な奴が1番嫌いなんだ。」


「可愛げないな。過去は過去らしく、振り返られるぐらいの派手さでいなよ。」


「子供のまま大人になろうとしてるね。」


閉じていたはずの遮断機が、登るための梯子となり


「もう知らないよ。そんなに言うなら渡ってあげる。」


「きっとそっちのほうが似合ってる。」


「じゃあね。すぐ追いつくんだよ。」


誘導円木を軽々とステップ


運転手たちは渡りきるまで轢き殺しまいと目を細める


青も消えて、歩行者も消えた 

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