河川敷

「浮かない顔。」

「気づかれたくはない。見られたくもない。」

「でかいため息のあとに神妙な面持ちで口を開きそう。」

「時々、自分が誰かの片割れで、誰かの一部であったこの身体を、自分自身と呼んでしまっているだけのような気がする。」

「深刻だ。」

「そう、深刻。」

草木を縫う風

太陽光線の散乱

「でも、どうして?」

「わからない。でも、僕が僕ではないことに嫌気が差す。」

「それって、その誰かと自分の間で違いを見いだせないからじゃない。」

「つまり?」

「大衆って括りで捉えられる自分を認めたくない、的な?」

背後で車輪が風を切る

「そうなのかな。」

「例えばさ、鳥が自分のこと鳥って知らなかったら、飛べないままだけど、」

「うん。」

「鳥が自分のこと飛行機って思い込んだら、いつかは飛べるよ。」

「そんな鳥いるかな。」

視界の端、犬がワンと鳴く

「自分のこと鳥だと思ってる鳥なんて、本当は少ないのかも。」

「難しいよ。僕に置き換えると?」

「君が君であることを知る先には、君が何者かであろうと願う衝動があるんだよ。」

「アイデンティティの充足を。」

「少し違うな、無いと決めつけてあとから増やすものでもない。」

「既に持つ、内面からの爆発エネルギーが僕自身。」

「そう。その願う感情は諦めてはいけない。」

「じゃあもし、僕はロケットだって思い続けたら宇宙までいけるかな。」

「どうかな。宇宙まで行けるかわからない。でも、星を手に取るように、輝きは君の所有物になる。」

6羽の群れ

「壮大だ。」

「信じ続けなければ何者にもなれない。存在だけが虚しく残る。」

「そう考えると、全てちっぽけだね。空から見る花火が米粒のような。」

「そうさ。」

飛ぶ鳥たち

「でも、例え話が例えの癖して飛躍しすぎだよ。」

「宇宙になった気分?」

「そうかも。」

夕日が沈む

静寂

「浮ついた顔。」

「もう帰ろう。」

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