劇場/撃場

21:9のアスペクト比がとある喫茶店を切り取る。半地下にひっそりと潜む店内には3人、いや4人の客がカウンター越しに店主と談笑している。レコードから流れる軽快な音楽と、コポコポと珈琲を淹れるリズムが交じる。彼らの顔はなぜか白く靄がかかって不透明であるが、何やら楽しそうな会話が聴こえるのでよしとしよう。きっと笑っているのだ。ふと、画面は誰も見ていない壁がけのテレビへズームイン。モニターと重なると、カットが入った、



どこだろう。粉塵の舞う荒野だ。住宅街らしきものは見える。が、果たしてこれは住宅街なのか。画面の奥から黒い人影が現れる。誰だ。突然画面は、一人称視点に移り変わってしまう。視点の主は両手に大きな機関銃を持ち、黄土色に汚れた戦闘服を着ているではないか。砂埃に隠れていたのは爆撃された家々。目線はそれらの瓦礫から覗くヘルメットへ。やめて!すぐさま照準を合わせ、ばばばばば。やめて!スコープから対象は消える。誰だ。この戦闘兵は誰だ。そして誰が。誰が誰にこの戦闘兵の役をやらせているのだ。轟音が響く。今すぐ上映をやめてくれ!靄のかかった死体を横目に走り抜ける。こんなものは観たくない!しかし、次のシーンへと、



瓦礫の山の中。かすかにうめき声がしている。一体誰だ。埋もれた暗闇へとカメラが進むと、身体の右半分が下敷きになっている人間が見える。血がドクドクと滴り、剥き出しの鉄骨を濡らす。もう息が途絶えそうだ。しかしまたもや、顔に靄がかかっている。この死にかけの人間は男か女か大人か子供かもわかりやしない。どうしてこんなことになっているんだ!そして、この映画のキャストたちは誰なんだ。こんな作品、こっぴどく非難されるに決まっている。轟音が響く。マイクは泣き声すら拾えず。次のシーンへと、



我々は踊っている。華やかな照明が舞うこの場所で。五体満足の四肢を撓らせ、ステップを踏む。笑って。笑って。エンドロールは真っ暗なまま、

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