Interlude#223



彼女はいつも食事を最後の一口だけ残す。

どうしても最後の一口が食べられないのだという。

かわりに、グラスに半分残った水を飲み干す。その一口が入るなら、スプーン一杯分の残りの食事も簡単に平らげられるだろうに、その一杯が大変難しいのだという。

彼女は一人で食事ができないらしい。理由はわからないという。

ただ、お腹はずっと空いている。なにか食べたいのに、食べたいものが思いつかない。コンビニの弁当のコーナーで、5分ほど立ち尽くしてしまったこともある。でも、こうして誰かと一緒にいるときは、なんとか胃に食べ物を入れられるらしい。

今日も彼女はスプーン一杯分のスパイスカレーを皿に残したまま、うなだれている。彼女自身、本当は口に入れたいらしい。葛藤と落胆の表情が顔に浮かんでいる。必死にスプーンを見つめるが、ぶらんと下がったままの右腕はどうも動かない。

乾きかけた米粒とカレーの残りを置いて、店の外に出た。空気が澄んでいて気持ちがいい。店前で、彼女は徐にカバンからタバコの箱を取り出す。

箱からタバコ一本とライターを出し、口にくわえて火をつける。すうっ、と一息吸い、ちょっと口を閉じたまま時間をあけ、ゆっくりと息を吐く。白い煙はうやむやな扇状に広がっていき、透明の空気に溶けていく。

焦げた植物の匂いが鼻腔に触れてツンとしたのか、彼女は目をぐしゃっと閉じて鼻を少しこする。

彼女はカレー店の軒先に設置されていた灰皿に右手を傾けて、人差し指でトントンとタバコの灰を落とす。

燃えたてのタバコからは灰が落ちない。

ややゆっくりと一本を吸い終え、彼女は歩きだす。カレーの匂いがする口の中に辟易しながら、歩いて家に帰る。