見出し画像

自由を感じに行く、グラストンベリー2022レポート

シーンが切り替わるように季節が変わる。

今年行ったグラストンベリー・フェスティバルのことを書こうと思っていて、そのままにしていた。気がつけば2023年分のチケット発売はすぐそこは1時間でソールドアウト。忘れる前に書き残しておこう。

以下レポート部分すべて無料全文転載可。写真提供も可能。その場合はメールください😄

***

グラストンベリー・フェスティバルのチケットは30分で売り切れる。

6枚まで購入できるので、6人1チームとなり、ありったけのデバイスを引っぱり出して購入サイトにアクセスする。みんなで通話しながら、繋がるまでひたすらリロードしていく。繋がったときの高鳴りと焦りは、何ものにも代えがたい。繋がったかと思えば次ページがロードされず、振り出しに戻ることもあるので油断できない。

繋がらない場合、20秒毎に自動リロード。待てないので⌘+R

僕らのチームは運に恵まれた。別チームも含むLINEグループに購入報告をしたのは僕らだけで、お通夜状態だったけど、こちらの興奮は冷めやらない。そのまま渋谷に行って祝杯をあげた。ものすごく満たされていた2019年の秋。今となっては遠い昔の出来事だ。それとも夢だったか。その後世界がどうなったかはご存知の通り。2020年、2021年はグラストンベリーのみならず、たくさんのイベントが開催中止となった。

イギリスのエンターテイメント業界が活気を取り戻したのは2021年の夏。ボリス・ジョンソン首相が発表した段階的なロックダウンの緩和は計画通りに進み、7月には音楽フェスティバルが復活。ディスプレイ越しに見るフルキャパシティの祝祭は輝いて見え、どうにもできない焦燥感が残った。もちろんスプレッダーイベントにはなっていたので微妙な気持ちではあったが。

2022年、アメリカの大手プロモーターは感染症対策を撤廃。コーチェラを皮切りに、欧米のエンターテイメント業界は完全に息を吹き返えす。グラストンベリーもPaul McCartney、Kendrick Lamar、Billie Eilishをヘッドライナーにむかえ開催されることが決定。どうする? 6月には帰国時の隔離が撤廃される。3度目のワクチンも打った。大きな戦争がはじまっている。賢い選択だとは思わない。それでも行っておきたい。

決心をして、フライトを調べると直行便は往復で40万を超え。ロシア上空の通れないので、16時間ほどかかる。しばらく様子を見ても変化はなく、最終的に選んだのはアブダビ経由、エディハド航空20時間の旅。閑散とした成田から、久しぶりの国際線だ。

よりかかれるヘッドレストにマスク、サニタイザー、歯ブラシ、感度の良いタッチパネル、Do not disturbアイマスクが嬉しいが、長すぎる。『マトリックス レザレクションズ』は慰めにならない。隣やつは床で寝はじめた。なんだこいつ。

ロンドンには着いたのは昼過ぎ。チェックインはまだ無理とあしらわれた。仕方なく、フェスの買い出しについでに散策する。気温は13度くらい、だいぶひんやりしているが日差しは温かい。ピカデリーあたりはプラチナ・ジュビリームードになっていた。おお、イギリスに来てる。買い物を済ませ、スペイン料理と洒落た缶ビールを楽しんだ。

***

日差し直撃バス列

グラストンベリー・フェスティバルに向かうのは水曜日の朝。事前予約していたバスの列に並ぶ。早めに並んだら結果的にオンタイム。12時にロンドンを出発して、入場ゲートについたのは16時前。チケットを受け取って、再びバスで南側の常設テントエリアWorthy Viewに移動する。今どき珍しく荷物検査はない。キャンプということもあって、実施するのはかなり難しいのだろう。やっとリストバンドを手に入れた。明るいけど、もう19時になっていた。

きたな、という感じ
Worthy Viewにはフード、シャワー、水栓トイレがある
Worthy Viewはかなり高い場所にある
会場にあるストーンサークル
なんか色々あるところ
日の入りを待つ人々
設営作業中のピラミッドステージ

本格的なフェスティバルがはじまるのは金曜日からだが、会場では水曜からライブ、映画、花火など々な催しが行われる。この水曜日から入れるというのがすごく良い。何のプランもなく、空間を楽しむことで徐々にフェスティバルに慣れていくというか、馴染んでいくというか。一部になっていく感覚を味わうことができる。高い空、乾いた空気、開かれた雰囲気、のんびりとした人々、夜の冷え込み、トイレの匂い、だんだん思い出してきた。3年ぶり、2度目のグラストンベリー・フェスティバル。

金曜日。小雨がぱらついているが、天気はもちそうだ。トップバッターは、ビザが下りないでお馴染みのThe Libertines。ついに見れる……と思いきや、流されたのはウクライナ・ゼレンスキー大統領のビデオメッセージ。彼はロシアの侵攻によって自由が奪われ、さらなる支援が必要だと訴えた。これには驚いたが、納得もできる。地理的な近さもあるし、グラストンベリー・フェスティバルは元来こういったメッセージと相性が良い。フェスティバルは平和と自由があってこそのもの。それはグラストンベリーが最も奪われたくないものだ。でもまぁ、その後にThe Libertinesがでてくるのは、なかなかシュールではあった。

2番目に大きいOther Stageはフジのグリーンより全然でかい
生のひまわりが配られたArlo Parks

今回はストイックにライブを見ると決めていた。2度目ということもあって土地勘もある。鬼混みのWet Legから、Blossoms、Inhaler、girl in redを途中で抜けてDry Cleaning、そのままArlo Parks。そのArlo Parksが客演したPhoebe Bridgersはとんでもない盛り上がりで楽しかった。少し見ては歩き、見ては歩く。ルートを間違えてハマったSam Fenderでこれぞ!という大合唱を体験できたのも良かった。よく頑張ったが、それでもSleaford ModsやSaint Etienne、Sigridは諦めた。

この日のヘッドライナーは最年少で抜擢されたBillie Eilish。もちろん見たいが、真裏はFoals、Little Simz、Primal Scream。どうしてこうなった。結局Little Simz半分、Billie Eilish半分で落ち着いた。どちらも肉眼では見られなかったのだが……。

John Peel Stage
Pyramid Stage
青空トイレが基本

土曜日。よく晴れているが、空気は冷たい。雲がかかるとすぐに寒くなり、girl in redのフーディーを着たり脱いだり忙しい。この日は日本のサイケデリック・ロックバンド幾何学模様からスタートして、ゆるめに行く。Easy Life、Yves Tumor、Beabadoobee、Glass Animals、Big Thiref。マストのひとつだったBig Thiefは、想像していたよりもずっとストイックでハードな演奏をしていたのが印象的だった。来日公演に行く人は楽しみにしていてほしい。そのあとはOlivia Rodrigoを移動しながらチラ見して、大カラオケ大会Noel Gallagherへ。ソロ曲の盛り上がりは今ひとつだが、やはりOasisは盛り上がる。本場の”Don't Look Back in Anger”は最高だ。このあとはPaul McCartneyということもあって?兄貴は終始ご機嫌だった。そのあとはCaribouを少しみて、最年長ヘッドライナーのPaul McCartneyに。The Beatlesの名曲も交えつつ、パワフルなロックンロールを披露する。音が遅れて聞こえるほど後ろで見ていたが、耐えられず前方に。いつかの来日公演にも行ったが、イギリスで見られるのは感動的だ。ゲストも豪華だった。Taylor Hawkins亡き後はじめてステージに立ったDave Grohl、直近のUSツアーでも共演する場面があったBruce Springsteen、ビデオで登場したJohn Lennon。ここまでエンターテイメントできる80歳はこの人くらいだろう。ラストは全員で大円団。合計3時間、終わったのは0時半だった。寒すぎてホットカフェラテ飲んだ。

West Holts Stage
Pyramid Stage

最終日。終わりが来る。それを象徴するように周囲のテントから聞こえてくる咳は日に日にハードになっていた。この日は後に来日するUKジャズシーンの注目株Emma-Jean Thackrayを最前列でチェック。目の前のセキュリティがアイスを食べはじめたのでずっと見てしまった。ウロウロしながらDeclan McKenna、Clairo、予想できなかった事態でフジロックをキャンセルしたFontaines D.C.、Amyl and the Sniffers、Kacey Musgraves、Arlo ParksとClairoが客演し最高にピースフルなLordeのステージと歩き続けた。Cate Le Bon、Caroline Polachekは泣きながら諦め、サプライズ出演のJack Whiteもフジロックで見られるからと、楽しみにしていたNilüfer Yanyaをチェック。とても小さなステージで、しっとりと聞かせる演奏だった。やはり曲が抜群に良い。その後はYears & Yearsを聞きながら、ラストを飾るKendrick Lamarに早めに移動する。これがすごすぎた。

まるで街
本来なら2020年は50周年だった
スケボーもできる

PA前まで来た。ステージの中央には大きなミラーが設置されている。これは一体何を意味しているのだろうか。Paul McCartney、Billie Eilishのライブは正直想像がついた。でもこの人はそうはいかない。パンデミック後、そして最新作『Mr. Morale & The Big Steppers』リリース後、はじめてのライブになるからだ。ほら、PAに陣取ったStormzy御一行もエキサイトしている。

セルフィー?

スクリーンには巨大ないばらの冠が描かれていく。まず現れたのは白いシャツに、黒いパンツを履いた男性ダンサーたち。その間を赤いドレスをまとった女性ダンサーが駆け回る。Kendrick Lamarは静かに登場。男性ダンサーと同じく白いシャツに黒いパンツ、しかし頭にはいばらの冠がシルバーに輝いている。1人でステージに立った前作のツアーとは全く違うコンセプチュアルなセットで目が話せない。過去の楽曲もエモーショナルな振り付けがあることで全く違う表情を見せている。時折ミラーに向かい、自分に言い聞かせるようにラップする。ここまでグラストンベリーで見てきたものと明らかに異なる、別次元のショーだ。新作がダイレクトに反映され、コンサートでありながら演劇のようでもある。

「Seven Naiton Army」スタイルのチャントを受けたKendrick Lamarは、パンデミックを経てオーディエンスに会えたことを涙ぐみながら噛み締める。「不完全であることは美しい、どんなことがあっても美しい」「俺はこの冠を被る。奴らはキリストを裁く。奴らはあなたを裁き、奴らはキリストを裁く。俺は象徴してこれを被っている。」と語り、お気に入りだという「Saviour」をプレイ。スクリーンには「Your Savior I Am Not」と映し出される。冠から血が流れ、白いシャツを赤く染めていく。その様子はBBCのYouTubeに上がっているので、ぜひ見てほしい。

トラックが止まっても彼は続ける。

“They judge you, they judged Christ. Godspeed for women’s rights” 

この件、つまりアメリカの最高裁が、女性の人工妊娠中絶権は合憲だとしてきた1973年の「ロー対ウェイド」判決を覆したことはグラストンベリーでも大きなトピックになっていた。

場内に貼られたポスター

Phoebe Bridgersはオーディエンスとともに“Fuck the Supreme Court”と叫び、Olivia RodrigoはゲストのLily Allenと5 人の最高裁判所判事に「Fuck You」を捧げた。Billie Eilishは「これ以上考えるのは耐えられない」と語り、男性が若い女性に対して力を行使することについて歌った「Your Power」を女性たちに捧げている。

音楽に政治を云々という指摘を思い出す。ミュージシャンもオーディエンスも同じ生活者だ。すべてつながっている。切り分けることなんてできない。持ち込まないことなんてできない。ここに来ると大きなものの一部であると実感する。

Kendrick Lamarのあとは大きな余韻に浸りながらビールを飲み、数年前のフジロックに登場したUnfairgroundなど夜遊びエリアを一通り散策。バカ騒ぎする気力はなく、最後にチャイティーを飲んで僕のグラストンベリーは幕を下ろした。昔のグラストンベリーを知っている人からすると変わってしまったのかもしれないが、やっぱり魅力的な場所だ。いろんな人がいる。なんでもだって良いのだ。また必ずここに戻りたいと思わせてくれる。ちなみに翌日に味覚を失うのだが、その話はまた別の機会に。

***

さて。もう来年のチケットが発売になる。一般発売は11月6日18時から。残念ながら僕は参加できない。でも再来年は必ず戻りたいと思う。グラストンベリーはたくさんの人に経験してほしい、最高の空間だ。行くまでは、いつかかなえたい夢のように思えるが、意外と行けるものだ。5toさんなんて何回行ってるんだ。これが少しでもあなたの背中を押すことができたら嬉しい。

グラストンベリーの詳しい行き方は津田さんが書いているのものをチェック。


また一歩、天国に近づくのです...💃