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談義⑦ モノの「破壊的ファシリティマネジメント」

1. モノに焦点をあてたファシリティマネジメント

 談義⑥の前半でも、ファシリティマネジメント(FM)が多岐に渡り、各職能毎に理解が異なっている点について触れたが、今回の談義ではファシリティマネージャー(FMer)が扱うファシリティのうち、”モノ”に焦点をあてて、議論を進めてみる。

1-1.経営基盤(人事・FM・財務・ICT)と経営資産(ヒト・モノ・カネ・情報)

 これまでの談義でもあったように、FMは、経営基盤の一つに位置づけられる。経営基盤とは、価値連鎖(バリューチェーン)において、「事業分野で価値を生み出す」各プロセスと並行して、「機能分野で価値を支える」4つの軸(人事・FM・財務・ICT)とされる。(図1.1-1)

 経営を進める上では経営資源が不可欠である。この経営資源については、[ ヒト・モノ・カネ・情報]があるとされている。(昨今では、これら4項目に加えて、コア技術・デザインを足した6項目とされることも多いがこの談義ではJFMAと合わせて4項目の理解で進める。)

 経営基盤と経営資産の関係性については、明記がなく、実際にはそれぞれの職能が密接に絡み合って基盤をつくっているが、FM視点でわかりやすく棲み分けを図るならば、下記の図のように分けられるのではないだろうか。(図1.1)

 この図を見ると、FMerが扱う経営資産は、狭義ではモノ中心であるとも考えられる。

1-2.FMerが扱う“モノ”の多様性

 今回の談義ではFMerが扱う様々な要素のうち、“モノ”に焦点を当てて話を展開する。実際にはどのような”モノ”があるのだろうか。

 網羅的に解釈するのは難しいが、ふと自分が今いる場(企業施設の内部)を見渡してみると、大まかには天井・壁・床・窓で区切られた箱型の不動産があり、その表層に、照明・エアコン・棚・本・机・パソコン・椅子・植物など様々な可動のモノ達が存在している。

 また同時に設計者の視点から、壁の裏側を想像するならば、クロスの裏にはボードがあり、胴縁があり、断熱材が込められ、柱があり、外壁やサッシが取りついている。これらは土台の上にのり、またその土台も基礎の上に鎮座している。

 こう簡単に想像するだけでも、やはりFMerが扱うべき”モノ”というのは多岐にわたり、またそのモノ達がひとまとまりとなって、ひとつの場を作り出していることが想像できる。こういった多様な”モノ”について、ひとつの理論だけでマネジメントを展開することは極めて困難に違いない。

2.複雑なモノをマネジメントする

2-1.モノの見方・扱い方はツリー構造が楽

 FMerが実際にどういった目線でモノを理解しているか語ることは難しい。ICT部門があるような企業では、自社で開発を進めたクローズドなシステムを活用して管理している施設部や、外部で開発されたフォーマットをサポートを受けながら使っている管理部などがあるだろう。また規模の小さいFMでは、独自にエクセルなどの表計算ソフトを用いて、管理ツールを作っている企業も多いに違いない。
 オープンな管理状況の例として公共施設のFMを開示する公共施設白書を見てみるとわかりやすい。

 ・公共施設白書
 各地方公共団体は、図書館や文化施設、学校、公営住宅など様々なファシリティを管理しており、「公共施設等の総合的かつ計画的な管理の推進について」(平成26年4月22日付総財務第74 号総務大臣通知)に基づき、その状況を「公共施設白書」として開示し始めている。
 ぜひ一度自分が住んでいる市町村の白書を探してみていただきたいが、おそらくほとんどの白書が、管理している建物の用途を大分類(教育施設・文化施設・子育て支援施設など)中分類(小学校・中学校など)、小分類(学校名)などで分類して分析している。

 白書は一例にすぎないが、多くの”モノ”を管理する上では、ツリー状の階層構造に整理し、その階層毎に管理するのが一般的である。誰にも負けない豊富な経験をもっての見解というには経験が足りないが、こうした管理システムやツールの多くは、システムの作りやすさの点でツリー上の構成になっている。

2-2.ツリー構造だけでは管理しきれないモノのFM

 ツリー構造で管理に取り組むのが一般的なもののFMだが、果たして良いのだろうかと思うところがある。1-2で文章として羅列したように、実際にファシリティのユーザーとして周りを見渡した際には、管理側のツリー構造とは全くことなる様々なモノの繋がりによって場が作られていることを感じた。床のタイルカーペットはオフィスも図書館も、”カーペット”という認識においては同じであるし、壁の胴縁も同じ材である。また一声に学校と言われても建てられた年代や構造によって中にある設備機器やサッシも異なるし、自分が通っていた学校であれば”思い入れ”もまたモノがもっている価値となっている。

 日々新しくなるモノの管理ニーズに対応して状況をアップデートし、PDCAサイクルに戻づいて対応していくFMは必要であるが、同時に少し別軸でのFMとして、”ツリー状では管理しきれないモノの価値を読み取ったFM”も必要なのではないだろうか。前者のFMに対して後者のFMを、談義④から模索している破壊的FMとして検討したい。


3.モノの時間的な流れを読み取る

 FMerが”モノ”をマネジメントしないといけないのは、モノから獲得できる価値が時間とともに変化するためである。

3-1.モノの寿命

 モノの寿命についてJFMAでは(図3.1に示す)4つの寿命を説明している。


3-2.モノからモノへと移り変わる

 モノが4つの寿命だけで決まっているかはわからないが、実際にはモノが管理されることで寿命を越えて長期的につながっていくことで、経営資産として事業を支え続けている。寿命がきれると同時に何か他のモノに転生し、持続していくことで、経営を支えている。


3-3.モノの移り変わりを予測し、マネジメントする


 FMerが取り組むべきは、この”モノ”の移り変わりを長期的(持続的)に予測しマネジメントすることで、VUCAとされる時代でも経営を支えていくことである。
 また4つの寿命のうちいくつかは、そのモノを見る人間側(事業者側)の変化によって、寿命の長さが変化しうる。そのため、実際には単に長期的なモノの移り変わりを予測するだけでなく、同じ長期的な時間の中で自分たち事業者側もどのように変化していくかについて予測を行わなければいけない。

4.新たなモノの関係性から価値を創造するのが、モノ版の破壊的FM

 3章までで議論きたように、多くの企業で行われているFMは、様々なFMニーズ(デマンド)の変化に合わせてツリー状のシステムを構築してPDCAサイクルでもって対処していくという点で、談義④における「漸進型FM」であると理解している。一方でその別軸として必要性を感じている「破壊的FM」は、モノでどのように実行できるだろうか。

4-1.モノの新しい関係性から価値を創造する


 そもそもFMが無い経営では、経営資源であるモノが整理されずに”ただ乱雑にあるだけ”の状態である。そこに対して、2章で述べたように、管理しやすいようツリー状に整理し、長期的に価値を持続できるよう、流れを与えるのがFMであり、かつ管理ニーズ自体の時間的変化にも対応していくのが「漸進的FM」である。
 一方で「破壊的FM」は、同じモノたちに対して、既存の価値の維持とは異なる視点から、モノの新しい関係性を見出して、さらなる価値を創造するFMである。

 上記をふまえて談義④以降であがったいくつか事例について再考してみる。

①談義4:Airbnb
●モノ:『空き家』
●新しい関係性:『オープンな宿泊運営プラットフォーム』
●さらなる価値:多様な宿泊体験需要の受け皿

②談義4:モクチンレシピ
●モノ:『遊休不動産』
●新しい関係性:『カタログ化された設計情報』
●さらなる価値:誰もが気軽にできる

③談義5:公共R不動産
●モノ:『利用率の低い公共施設』
●新しい関係性:『官民横断プロデュースのノウハウ』
●さらなる価値:新規の公共不動産活用方法

④談義5:VUILD
●モノ:『木材資源』
●新しい関係性:『デジタル加工機に用いやすい素材』
●さらなる価値:成長した国産木材の新規需要

⑤談義6:PLATEAU
●モノ:『3D都市モデル』
●新しい関係性:『オープンソース』
●さらなる価値:精度の高い都市検討に基づく産業

4-2.破壊的ファシリティマネジメントを外から支援する


 4-1でこれまでの事例を見ると、破壊的FMと捉えているものの多くは、外からの関係性の提示によって新しいモノの価値が見出されているものが多い。しかし、あくまでモノの価値を提供できることによって事業が行えているのは、もともとのモノの持ち主である。①のAirbnb、③の公共R不動産、④のVUILDのどれもが、関係性の構築には関与しているものの、実際のモノの持ち主である①空き家オーナー、③地方公共団体、④森林保有者に結果的の経営拡大に貢献している。

 ところで現在のJFMAの正会員リストを見てみると、参画企業としては、大きく「設計会社・施工会社・オフィス什器メーカー・企画とディスプレイ業界・ディベロッパー・ビルメン会社・研究と学会」の7項目がある。

 しかし、実はこれまで本談義であげてきたいくつかの事例は、なかなかこれらに分類することが難しい。つまり極めて”外的な”ものを無理矢理FMとして嚙み砕き議論を展開してきたのは事実である。

 本談義では改めて、私たちの考えるFMが、本流のFMとは異なる在り方であることを認識した。しかし、FMのあるべき姿を模索するというところから話を進めてきたのもまた事実である。この談義の脱線の行く末が、私たちが暗に書き始めた「建築デザインとFMをつなげた一歩先」であると願いたい。



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