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談義⑥ FMと建築の間にある“不気味な谷”

 前回の談義⑤では、「FMにイノベーションは必要か」と題して、モノのライフサイクルを扱うFMだからこそ「持続可能なFM」が必要だという旨を事例とともに提示した。また、談義④では「破壊的FM」と題して、FM供給側の技術・能力・情報を再構成して新たなFMサービスを社会に提示することを目標とした。今回の談義では、FM業界の現在地を改めて見つめつつ、FM供給の将来を現実と夢想の狭間に見据えたいと思う。


FM業務の現在地

 施設運営と利用環境を根本から見直し、統括的に企画・管理・活用することがFM業務の根幹だが、実際にはどのような業務があるのだろうか。小林寛氏による「実践ファシリティマネジメント」(日刊工業新聞社)では以下のように整理されている。

ファシリティマネジメントの業務領域
・FM戦略策定 ・施設管理の中長期計画   ・不動産取得、売買 
・施設賃貸借   ・建物建設 ・室内空間整備 ・情報化装備 
・維持保全    ・運用管理 ・サービス向上 ・全体効率化

小林 寛   「実践ファシリティマネジメント」

多岐にわたるFM業務

 FMの業務内容は多岐に渡ることから、所属する団体や企業によってFM業務の認識が異なることは明白だろう。例えば全国に土地資産を多く有する大企業の管財部であれば、グループ会社も含む企業内での不動産の更新や賃貸借がFMのメイントピックになる。一方で既存建物の整備等を主幹業務となる維持保全会社は、建築データの情報化推進や実務上の人材配置などにFM上の関心を示す。近年では、LCC削減やエネルギーマネジメントなどSDGsに対応するFM戦略策定のコンサル企業としてのFM業務も拡大傾向にある。


筆者は建築・都市開発業務を主軸としており、業務の一環で不動産取得や売買・施設賃貸借について関わる中でFM業務と邂逅をした1人である。その点、維持保全や運用管理について知識や経験が豊かというわけではない。このように特定の業務に聡く、特定の業務に疎い人材が多いなか、網羅的なFM業務に対してどのような持続可能性を導き出す破壊的イノベーションを展開することができるのだろうか。

FM・BIM

 1990年代以降、CAFM(Computer Aided Facility Management)が導入され、ソフトによるFM関連データを一元管理する潮流が生まれた。NTTファシリティーズや岡村製作所といった建築やインテリアのサプライヤーだけでなく、ANAホテルズのような多数のホテル不動産を保持・運営する企業まで、各々の業務に合わせたCAFMが実装された。現在もファシリティの有効活用を支援する技術パッケージとしてCAFMのサービス提供が行われており、FM業務における情報化装備を基軸とした1つのビジネスモデルなのだろう。

CAFMソフトによるデータ連携イメージ(JFMA)

CAFMのジレンマ

 ここで課題となるのは、年月を経るごとにデータベース等の整理方法や他ソフトとの連携が細分化され、イノベーションのジレンマが生じていると言える。CAFMも誕生当初は破壊的イノベーションであったのかもしれないが、現在では専門化された漸進的イノベーションの道、修繕と改良の道を段階的に進歩する技術となっているのだろう。

BIMのジレンマ

 同様の現象がBIMでも生じている。3Dモデルに建築情報を統合して一元管理する発想は破壊的イノベーションと言えるが、現状では一元化されることなく様々な専門的BIMソフトが混在しており、建築設計段階からFM段階へ円滑な橋渡しがなされていない。修繕と改良を段階的に進めるものの、やはり細分化・専門化されていく、漸進的イノベーションの産物である。

FMとBIM

 CAFMはFMerからArchitectへの情報伝達を、BIMはArchitectからFMerへの情報伝達を、それぞれが統合的に実施しようという試みであるにも関わらず、技術を重ねれば重ねるほど互いに違和感・不審感が募ってしまう、FMと建築の「不気味な谷」現象が生じているのかもしれない。

FMerと建築家の間に存在する"不気味な谷"

FMと建築との橋わたし

 FMと建築の「不気味な谷」をいかに克服するか、いかに橋渡しをするか。例えば国土交通省が主導する「PLATEAU」(日本全国の3D都市モデルの整備・活用・オープンデータ化プロジェクト)は、着々とデータ基盤を構築しているが、都市モデルを介して建築とFMに有益な連携を生むことはできるのか。開発者が目下試行錯誤を繰り返している、興味深いプロジェクトである。

3D都市モデル構築を目指す「Plateau」(国土交通省)

 一方、不動産運営もしておらず、建築的なデータの蓄積もない現状で、FMerとして何ができるのか。何から始めるべきか。国家的なプロジェクトや大企業によるデータ利活用に対する考察を抱きつつ、我々自身が実践すべきことについて、今後まとめていきたい。

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