ねえ、あたしには妹がいたの。
あたしね、妹のことが、嫌いでたまらなかった。
あたしのことを何でも真似してくるの。
いちばん古い記憶は、そうね、お気に入りだったクレヨン。
あの子、真っ二つに折ったのよ。五本とも。
カッとなったあたしがあの子を叩いて、母親に酷く怒られた。
お姉ちゃんなんだから、って。
あたしが責められている横で、あたしの服の裾をつまむ小さな指と無邪気な眼差しに、ぞっとしたのを憶えてる。
それが最初だったんじゃないかしら。
ああ、あたしこの子が嫌だ、と思ったのは。
それから落書き帳を半分に破り取られたり、紙粘土で作ったブドウを真ん中から引き裂かれたり。
同じ物が欲しかったのよ。
あたしのほうがお姉ちゃんなのに。
妹が成長して分別が付くようになってからは、それがだんだん「真似」に変わっていった。
同じように髪を伸ばして、同じ髪留めを欲しがって。
同じ靴下と同じ靴を履きたがった。
同じ食べ物を嫌いになり、同じお菓子をねだったの。
気持ち悪くてたまらなかった。
幼稚園生になっても、小学生になっても変わらなかった。
同じクラブ活動を選んで、同じ習い事に通って。
同じ友達と仲良くなって、同じ先生に気に入られて。
でも、親はあの子を溺愛しているから、何も分かっていない。
あたしのことを慕っているから真似をしたがるんだと思い込んで。
だから、中学は遠い私立の学校を受験して、寮生活をすることにしたのよ。
もし真似をされたとしても、あの子が中学生になるときにあたしは高校生だから。それに、同じ環境にいなければ、きっとそういう行動もなくなっていくだろうと考えたの。
あたしが解放されるには、それしかなかった。
無事に試験に合格したあたしは、これであの嫌な妹から自由になれると思った。
でも、それからすぐに環境が変わった。
中学二年生のとき、両親が離婚したのよ。
親権は両親がそれぞれ持つことになったとかで、あたしは父親と同じ戸籍のままだった。
幸い父は小さな会社を興していて事業は安定していたし、あたしの生活自体は何も変わらなかった。
別れた母と妹に連絡を取ろうと思ったこともなかった。
その存在を忘れたように生きてきた。
友達といる時間よりも、机に向かっている時間のほうが好きだった。だから、医者になろうと考えたのもきっと自然なことよね。
勉強だけじゃなくて、絵を描くのも好きだった。美しいと感じたものを紙の上に再現することが楽しくて、いつしかそれが粘土になり、彫刻になり、人の肌になっていった。――美容外科は、まさにあたしのやりがいを形にした分野だと思っているわ。
いつかは独立を考えるかもしれないけれど、今のところは大手の美容外科クリニックに勤めて経験を積む日々に没頭している。人が美しく変わっていく様を見ているだけで胸が躍る、素晴らしい毎日よ。
父は少し前に事業を手放したけれど、資産だけで暮らせる土台を作っていたから、何も不自由なことはない。
そう、あたしは恵まれた人生を歩んでいるの。
何も心配することのない、満たされた生活をしているわ。
ねえ、先生。
あたしはとても感謝しているのよ。
尊敬するあなたのすぐそばで、その技術を学ぶことができる、最高の環境を与えてくださったこと。
だから、ねえ、ぜひ教えていただきたいの。
その、あたしとまったく同じ顔をしている患者は、だあれ?
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