中国外交、日本に秋波?─米追従避ける「自主性」期待
これまで日本を軽んじるような言動が多かった中国の外交姿勢に変化が見られる。高官が口々に日中国交正常化50周年(今年9月)の意義を強調し、厳しい対日批判を自制。ウクライナ問題をめぐり中国と先進国陣営の溝が一層広がり、米国が対中包囲網の構築を図る中、日本には「自主性」を発揮して米国への完全な追従を避けてほしいという期待が中国にあるようだ。
■「中日国交50周年」を強調
中国共産党政権で習近平党総書記(国家主席)の外交担当補佐官に相当する役割を果たしている楊潔※(竹カンムリに褫のツクリ)党政治局員は6月7日、国家安全保障局の秋葉剛男局長と電話会談を行った。楊氏は習氏率いる党中央外事工作委員会の弁公室主任(事務局長)を務め、王毅国務委員兼外相の上司に当たる。
中国外務省の発表によると、楊氏は「今年は中日国交正常化50周年であり、両国関係は重要な歴史的節目を迎えている」とした上で、「昨年10月、習近平主席は岸田文雄首相との間で新時代の要求に合う中日関係の構築推進で重要なコンセンサスに達し、両国関係の発展に指針と準拠を示した」と指摘した。
また、「中日関係は新旧の問題が入り混じって顕著になっており、その困難と試練は軽視できない」としながらも、共に努力して「安定して健全で強靭(きょうじん)な中日関係」を構築しようと呼び掛けた。
王外相も5月18日、林芳正外相とのテレビ会談で「中日国交正常化50周年」に何度も言及し、両国友好・協力の重要性を説いた。日本側の台湾問題に関する「後ろ向きの動向」や米国と組んで中国に対抗すべきだといった論調に懸念を示して、「他人のために火中の栗を拾わない」よう促したものの、日本政府に対する明確な批判は避けた
■「対米外交が全てではない」
孔鉉佑駐日大使が6月1日に行った長い講演は、日中関係の現況に対する中国側見解の集大成となった。孔氏は日中友好7団体の一つ、日中協会の交流大会で国交正常化50周年をテーマに講演した。中国高官が対日関係についてこれほどの大演説をするのは近年珍しいので、要旨を以下に詳述する。
一、中国は日本にとって脅威なのか。われわれは日本を自分のライバルもしくは敵だと見なしたことはない。しかし、日本国内では現在、中国を戦略・安全保障上の脅威と見なす傾向が強まり、米国と組んで中国を封じ込めるべきだとする論調や後ろ向きの動きが増えており、(日中)双方は大いに警戒しなければならない。日本側が戦略的理性と冷静さを保ち、より前向きな対中政策を取るよう望む。
一、台湾問題は中日関係の根幹に関わる高度に敏感な問題であり、処理を誤れば、両国関係に破壊的影響をもたらす。米国が現在、大々的に「台湾カード」を切って台湾海峡情勢をかく乱しているが、日本もそれに呼応して「一つの中国」の原則をめぐり「小細工」を弄(ろう)して、台湾に関する後ろ向きな動きが目立っている。一部の人たちは公然と「台湾有事」など極端な論調を鼓吹し、「台独(台湾独立)」勢力が気勢を上げるのを著しく助長して、中日関係の発展に重大な障害をつくり出している。われわれは、日本側が台湾問題で言動を慎み、中日関係により大きな衝撃を与える事態を避けるよう望む。
一、米国の「インド太平洋戦略」は、いかに「自由」「開放」といった美辞麗句で粉飾しても、陣営の分割により中国を包囲して封じ込めるという覇権的本質を隠すことはできない。米国は全力で中国を地域諸国共通の「脅威」に仕立て上げ、それを口実に日本の軍事力拡充を奨励し、日米同盟を強化して、日韓を北大西洋条約機構(NATO)に引き込み、「NATOのアジア太平洋化」を推進し、「アジア太平洋版NATO」をつくろうとしている。
一、(日本の)対中、対米、対アジア外交は矛盾、対立するものではなく、バランスを取ってそれぞれに配慮することは完全に可能だ。対米関係は日本外交の全てではなく、日本は日米同盟の道だけをひたすら突き進んではならない。日本側が戦略的自主性を保ち、先見性と知恵を示して、特に対中、対米関係をバランス良く処理するよう望む。
一、中日はいずれもアジアと世界の重要な国家である。われわれは、日本が中国と共に地域および国際的な多国間の問題で意思疎通と協調、協力を強化するよう望む。
■微妙な中国軍の態度
孔大使は王外相と同様、台湾問題で日本側に苦言を呈したものの、講演全体としては、明らかに米政府への批判に重点を置いている。「戦狼外交」が多用する居丈高な言い方は避け、「日本政府は必ずしも悪くないが、米国に肩入れし過ぎて悪の道に引きずり込まれないように」と言いたいかのような内容だった。
「対米関係は日本外交の全てではない」は意外な発言だ。日本外交で対米関係が突出した重要性を持っているのは周知の事実。一方、中国側は尖閣諸島海域への侵犯や訪中日本人の拘束などで強硬な姿勢を変えておらず、孔氏のこのような呼び掛けは現段階ではやや前のめり過ぎるように思える。
また、日本を小国扱いしたがる習政権の高官が、日本を「アジアと世界の重要な国家」と持ち上げるのも珍しいことだ。
その後、6月10~12日にシンガポールで開かれたアジア安全保障会議(通称シャングリラ会合)を機に、日中高官の接触があるかどうかが注目されたが、対面の日中防衛相会談が約2年半ぶりに実現した。日本側の説明によると、魏鳳和国務委員兼国防相は岸信夫防衛相に「2国間の協力関係を強化するとともに、信頼および両政府のコンセンサスに基づいた関係を展開していきたい」などと述べた。
中国側が日本の防衛相との会談に応じたこと自体は前向きの動きだ。ただ、中国の主要公式メディアはこの会談を報じなかった。中央軍事委員会主席を兼ねる習氏もしくは人民解放軍の上層部が、中国国内で会談の事実が広く知られることを望まなかったとみられる。
強権体制の社会主義国では、外務省などの政府機関より軍の動きの方が政権の本音を表すことが多い。習政権が本当に対日関係を改善をしようとしているのか、それとも、一時的な策略で比較的ソフトな態度を見せているのかは、今のところ判然としない。(2022年6月17日)
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