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伝統建築は贅沢品なのか?

 先日、少し話していて疑問に思ったのが「伝統建築は贅沢品なのか?」という話題です。
皆さんはどのように思われるのでしょうか?
僕の結論は贅沢品ではなく、周りのものが廉価品が増えたから相対的に贅沢に感じるようになった、と考えています。


 さて、では紐解いて参りましょう。
まず、ツーバイフォーと呼ばれる壁式の構造は2×4インチサイズの材料を使用していたので呼ばれているそうですが(実際には加工したりする為、これよりも小さいサイズになる)
これの特徴は特別な技術が必要がなく、極論をいえば素人だけでも組み立てる事ができるものだったりします。(現在では工場で材料を加工したりしているので、素人が組む事はまずありえない状況下ですが)
対して、伝統構法は仕口や継手等を用いるだけではなく、各部分には技法の知恵と職人の技術によって雲泥の差が出る程度には、出来栄えが異なります。
この2つを比べた場合、どのような基準で判断するかによって意味は異なります。
例えば、ツーバイフォーは

・安価である事
・早く作れる事
・特別な技術を利用しない為、誰でも同じものが建てられる事

の利点があります。特に誰でも同じものが建てる事ができるのは、建築界で実現しにくい現実なので、とても素晴らしい事です。
ですが、これもデメリットがあるのは当然です。
それが何かと言うと

・湿気による材料の腐れには弱い
・材料が抜けたり外れたりする
・1世代限りの建物

になると思います。
ハウスメーカーはいいませんし、一般的な建築やっている方々は言いませんが――。
やはり、どうしても湿気に非常に弱い建物です。壁に使われる構造用合板は湿気を含むとその耐久性を著しく落とすだけではなく、カビの原因になったりもするなど、なかなか難しいものです。
材料が抜けたりするのは、エア釘打ちを用いるのですが――これが本当に面白いぐらい数年で抜け落ちます。
空気の圧力で釘を打ち出して止めるので、ハンマーで叩くよりも早くて便利なのでいいのですが、どうしても建物にかかる振動等によって少しずつ緩んで抜けます。もちろん、ハンマーで叩いたら大丈夫なわけではないのですが、洋釘の性質上やっぱり抜けます。
ビス留めされているから大丈夫、と思われる場合もあるのですが、やはり振動とサビで抜け落ちたり折れたりするので、安全だ――とは言い切れません。
そんな訳で大体1世代(30年程度)の耐用年数であると考えるのが妥当ですし、それ以上建物は持つものだ――と思われるのは不安材料しか残らないのでおすすめできません。

では、対して伝統建築はどうなのか?と言うと

・しっかりした材料であれば、数世代も長持ちする
・手入れさえ入れていれば快適空間になる
・金食い虫にはなる

ですね。
ちゃんとした建物であれば、本当に平気で一世紀以上持ちますが、やはり手入れしていないと隙間風があったりして暮らしにくい場所になります。ですから、定期的に建物に手を入れないといけないので、ある意味では金食い虫にはなると思います。
阪神大震災で倒壊した建物の殆どが虫食い、腐朽等の建物の修理をしなかった事による倒壊が目立っており、ちゃんと修理されていた建物は震源地に近くても倒壊しなかったというのも残っています。

じゃぁ、金食い虫だから贅沢品なのか?となるとそうではありません。
建物という言わば箱だからよくわかりにくいのでしょうが、例えば車で考えてみましょう。
車なんて、全て動いて人や荷物を運べればなんでもいいはずです。
廉価なのであれば軽自動車で十分です。ですけど、皆さん普通乗用車やスポーツカーなどにも乗ったりしている方々もいます。
それは操作性や車内の快適性など、色々な理由があって選ばれているのですし、もちろん見た目が好きだから、というのも大きな要因であると思います。
建物も同じで、極論言えば全て簡単なツーバイフォーでいいはずです。簡単早い安い、は現代にとても合っています。
ですけど、その中で例えば季節の移り変わりをみたいから、数世代引き継いでほしいから、引き継いできたから――色々と理由があると思います。
そうした、幾つもある理由と条件の中で当たり前の選択肢として伝統建築――伝統構法があるんですよ、と言っていきたいですよね。
実際、建物をみていて思いますが、本当にちゃんと作られた建物の中へ入ると夏は嫌な湿気も少なく快適なものです。冬は寒かったりしますが、それも囲炉裏を囲むと非常に暖かいものです。しっかりとした壁土と建具に囲まれていたら、冬でもそれなりに温かいんですが――。
ですから、僕は贅沢品ではないんですよ、と答えたのでした。別に軽自動車でもセダン車でもスポーツカーでも同じ車、のようにただの選択肢に過ぎないです。

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