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今は無き、此花町の蕎麦やまぎしが、いと恋し。

『2014年夏から2016年夏に撮られた写真から、当時の二年間の金沢生活を振り返り、想い出を記録に定着させる写真で二言三言。』

関東人であるが故か、山間部が近いところで生まれ育ったからなのか、わたしは蕎麦好きである。
しかも、同じように蕎麦好きで自分でも蕎麦を打つくらいに蕎麦好きな父にいろいろと北関東の山間部のポツンと一軒家のような蕎麦屋に連れ回されて成長したおかげで、なかなか舌も肥えてしまった頃合いに親元を離れたため、都内の旨いと言われる蕎麦屋のなんとも…な風味に飽き飽きしていたのだが、そんな都内生活も何十年も経つと蕎麦といってもゆで太郎ぐらいでも充分というくらいまでに、舌がスポイルされてしまうのである。

といっても、金沢引越後は関東に比べるとやはりいまいちな蕎麦生活を一年以上送ってきたところで、職場の帰りしなに立ち寄った一軒の蕎麦屋が衝撃的だったのである。
それは此花町に在った今は亡き『蕎麦やまぎし』さん。
職場の会社の社長が近所で単身生活を送っており、ここが旨いと知らされて会社の帰りに立ち寄ってみたのだが、このお店の佇まいがすばらしい!
とにかく、蕎麦以上でも蕎麦以下でもないのである。あるのはただ蕎麦のみ!

メニューは普通か大盛のそばしかなく、そばの種類がそば殻を取った『』とそば殻付きの『田舎』、それに迫力のこれまで見たことのない『田舎粗挽き』の3種類のみというシンプルさ。
しかもそばはすべて十割そばというこだわりなのである。
正直2010年前後くらいから都内でも十割そばを売りにするお店が出始めていたが、この時期の十割そばというモノはまだ製法が確立されておらず、麵がボソボソだったり、茹でている途中で千切れで長さがまちまちだったり、千切れないように早い段階で茹であげすぎて、麵がカチカチだったりと、二八そばに取って代われるほどのクオリティに達していない食べ物だったと記憶している。

そんなところに十割そば一本で商売をしている心意気に、並々ならぬ自信を感じたのだが、はじめて入店した日に頼んだのが下の写真にある普通の白。
写真では小さくて解りづらいが、そば殻を取っている白でも江戸前の更科そばとは全く異なり、野趣溢れるそばの風味なので在る。
もちろんのことテーブルには各種塩の名産地の塩も用意されており、通を気取るなら塩で食べてみるのも一興である。

しかし、残念ながらこの時の2015年10月から半年程度した2016年春には此花町のお店を閉めて、より水の美味しい白山の裾野の方に移転してしまったのである。

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