きらきら
天帝様が執念く逢瀬に水を差すものですから、彦星殿はもう七年も織姫のお顔を見られずにいました。もっとも彦星殿とて、ただ手をこまねいて来るべき晴れの日を待ち侘びていたわけではありません。ある時には、彦星殿は百人漕ぎのたいそう迅い船を仕立てましたが、とても天の河の流れに逆らう事は出来ませんでした。またある時には、彦星殿は丹塗りのたいそう太い柱を立てて頑丈な橋を築きましたが、激しい流星の雨に為す術も無く打ち壊されてしまいました。そして彦星殿は深い深い思案の末に、河の向こう岸までトンネルを掘ろうと決めました。彦星殿は、昼の間には天帝様の言い付けを守って堅気に牛を養い、夜の間には宮殿を抜け出して、せっせと土を掻き出しました。そうして三年経ったのち、ようやく向こう岸に辿り着いた彦星殿は、その余りにも変わり果てた様子を見付けて愕然としました。そこにはただ、金銀の砂を撒いた様な眩い星々が瞬いているばかりだったのです。夜な夜な風に聞こえた織姫の、健気に機を織る音も今ではしんと静まって、これはどうした事かと振り返れば、遠く向うの天帝様の宮殿の灯火さえ見えません。天の河は彦星殿が掘り返した土手の辺りから無惨に決壊して、一気に溢れ出した星々が何もかもを呑み尽して仕舞ったのでした。彦星殿は、もはや愛しい織姫も厳格な天帝様もおらぬ満天の星空の下、己の愚かな行ないを悔いて、尽きる事の無い涙を流すのでした。