見出し画像

MRSAはどこにいる?ステーション内を検出してみました。

特に病院臨床にいる医療者のみなさまには馴染みのあるMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)。院内では様々なところに潜んでいるとされていますが、在宅ケア領域、特に訪問看護ステーションではどうなのでしょうか?

MRSAとは?

馴染みのない方へのご説明です。メチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染症とは、ペニシリン剤をはじめとして、多剤耐性(抗生物質が効きづらい)黄色ブドウ球菌です。

そもそも黄色ブドウ球菌は、健康な人の常在菌で皮膚や鼻腔内にも存在し(今この瞬間もみなさんの皮膚と鼻にいます)傷口の化膿の原因になることがあります。黄色ブドウ球菌以外にも常在菌は存在しており、免疫が低下した人では様々な疾患の原因となるいわゆる日和見感染症の原因となります。

感染経路は「接触感染」です。そのため基本的な感染予防対策は手洗いや手指消毒をしっかり行うなど、スタンダードプリコーションです。
MRSAは入院医療の現場では以下のようにある意味ポピュラーでありその対策に多くの人々が尽力しています。

JANIS(厚生労働省院内感染対策サーベイランス)の検査部門の 2017 年報1)によると,MRSA の分離率(MRSA 分離患者数/検体提出患者数×100)は施設により異なるが,中央値として 6.48%を示し,耐性菌のなかで最も高い割合であった。全入院患者部門サーベイランスでは,全耐性菌の新規感染症患者のうち MRSA は 93.88%を占めている
外来患者から分離される黄色ブドウ球菌のうち 10~30%を MRSA が占めている

引用:MRSA感染症の治療ガイドライン改訂版2019,公益社団法人日本化学療法学会・一般社団法人日本感染症学会

病院内でも高頻度接触面(PCのキーボードやてすり、ドアノブなど)から検出されますが、きちんと手洗いや手指消毒を医療者たちは行うことで(日に数十回〜100回ほど)ことで感染拡大させません。なお、MRSAは保菌している方が多い主要な菌であるとされていますが、MRSA感染を起こすとリスクが高いのは

無菌室で過ごす必要があるほど免疫が低下している場合
大きな手術の後
重度の熱傷
血管内にカテーテルを長期間入れる場合(循環器治療や中心静脈栄養など)


いわゆる高度な治療や重度な治療を行う場面においてとりわけ予防が重要です。一方で家庭や施設で生活されている方々には上記のようなリスク群は少なく、実害は通常出にくいと考えられます。しかしながら当然感染はしないさせないを徹底することが基本的態度として重要です。

訪問看護ステーションにも当然いるであろうMRSAは、実際どこにいる?

貴重な調査機会をいただき実際に検出を行いました。調査はウィル訪問看護ステーション江戸川で行われました。

採取したのは、

・机
・PCキーボード
・スマホ
・卓上電話の子機
・訪問カバン(訪問から戻り直後)
・訪問のユニフォーム上着(訪問から戻り直後)
・バイタルグッズセット
・自転車のハンドル
・車のハンドル
・トイレ
・手洗いシンク
・扉のノブ

でした。可能な範囲で同じ採取場所を複数名分行いました。

MRSAを見つけた

手洗い場のシンクよりMRSAが検出されました。「拭き取り単位面積当りに換算した生菌数」で表すと、0.4 cfu/㎠(1㎠当たり、MRSAが0.4コロニー存在する)でした。よって、シンクを10㎠拭うとMRSAが4コロニー存在するということになりました。

そして、シンク以外の採取場所からMRSAは検出されませんでした。また、その他に臨床で問題となるバンコマイシン耐性腸球菌(VRE)、多剤耐性緑膿菌(MDRP)、多剤耐性アシネトバクター属細菌(MDRA)、カルベペネマーゼ産生腸内細菌科細菌(CPE)、基質拡張型βラクタマーゼ産生菌は、どの採取場所からも検出されませんでした

今回調査のサンプリング方法については、問題が無かったこと(基本的なミスなし)も確認しています。

考察

高頻度接触面や訪問に使っているものなど検出されやすそうな部分は出ず、手洗いを行う場所のみであったことから、手洗いを日常的に行っていることで付着が起こったと考えられますが、一方でそれがコロニーを作る程度で手洗い場の清掃が足りていない可能性が考えられました。高頻度接触面からの検出がないことから、手洗い場から他の場所への持ち込みはみられずきちんと手洗いが実行され、スタンダードプリコーションを行えているともいえます。

この日から手洗い場の清掃は意識的に増やされ、調査に基づいたさらなる標準予防が行われています。みなさんのステーションでも一度 検出をしてみるのはいかがでしょうか?

ウィル訪問看護ステーションでは、安全安心に配慮して「全ての人に家に帰る選択肢」となるため訪問看護をしています。訪問看護に関心のある方は気軽な見学お待ちしております


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?