(連作)みどり

夏の盛り裏庭深く穴を掘る名付けられ得ぬ境遇のため

大人しくなりぬ兎(と)はいま折られつつ暗き土踏む腕と二の足

雨の未だ降り出さぬ時眺められ死体の我には青短の無き

猛烈に奪われる程朽ちて居らず未だ優しさに涙する時

生命の猛りの如き土の香は脱兎を未だ容易く葬る

君忘れ眠るま昼間ようやくに親の居る子の寝床を知りて

遠く島眺める君と大き海で隔てられ月日(とき)は灰の染む文字

傍若で暴力的なみどり背に甲虫の背のうすくはいいろ

風雨ありて這い回り鈍く根を下ろし病むことなしに甲虫は行く

たったひとつ残酷なれど甲虫の緑のやがて忘るるの死羽

「おまえ、」って言はぬはこわいみどり、その虫の死忘るるおまえがこわい

次の陽も次の陽も葉の照りつけてみどり濃き色人は舞うらし

道すがら実験的なコーヒーを入れる一日の明瞭さたる

カレー粉の香りが深き戸を叩く家屋の襖 その奥のみどりよ

柳の木ひとつを想い日もすがら柳になりて又、身を可笑しむ

箱庭に風邪満たされてしゃぼん玉天に昇りて重きは下に

にくづきのへん為すわれら従順に列に従いあはれ空港

ささる描(びょう)さながら未完あおむけの鼻はわけ知り喘ぐ虫われ

窓越しはなべて届かぬ鍵なりてかの女たちの生活艶めく

うけとり手失くして生える密林のおまえ恋ふれば女男(めお)なる 許さじ

#tanka
#短歌

ポエム、詩、短歌などを作ります。 最近歴史に興味があります。