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地方で情報工学を学ぶ人たちへ

本記事は CTOA Advent Calendar2020 の17日目の記事です。

CTOA Advent Calendar2020 はめちゃめちゃ内容が濃いのでハードルが上がるばかりですが、自分にしか書けない内容と想いをまとめてみたいと思います。自分は北海道苫小牧で生まれ、苫小牧高専を卒業、合計22年間を苫小牧で過ごし、そのうち7年間で情報工学を学びました。

地方と東京の比較

自分は就職のために北海道苫小牧から東京に出てきました。そのため、地方で学べなかったことや、東京で非常に新鮮に映ったこと、逆に地方の強みがわかります。これらの多くのことは情報量の違いから来る、prosとconsに分類できます。

東京
pros
- カンファレンスや勉強会が頻繁に行われており、学びの機会が多い
- オンライン上だとわからないリアルの繋がりがあり、適切なアドバイスをくれる人が多い
- インターンシップなど、学んだことをすぐに実践できる環境がある
- 就職先がたくさんある
cons
- 情報が過多で、誘惑も多いので、自ら取捨選択する必要がある
- 人間も過多なので、移動すると満員電車などで疲れる
- 給与も高いが、家賃も高い

地方
pros
- 誘惑が少ないので、自分のやりたいことに集中できる
- 家賃が安くご飯も美味しいので、QoLが上がる
- IT関連で困っている人がたくさんいるので、解くべき課題が山ほどある
- 地域を盛り上げようとしてくれる人には優しく、コミュニティが容易に受け入れてくれる
cons
- 給与も安く、しかも就職先がない
- 最新の技術を取り入れている会社が少なく、間違った情報、あるいは古い情報を取り込んでしまう
- 外からコミュニティに入っていくのは大変で、完全な部外者として関わるのは難しい

地方にいることは東京にいることに比べて暇なので、自分の好きなことに使う時間が多いとも言えます。逆に情報量が多い東京と比べて、自分のやっていることに対して盲目的になりがちです。このあたり、うまいバランスで日々を過ごせると良いと思っています。地方で何を意識して過ごしていくべきかは後ほど書きます。

自分は約10年前に北海道から東京に上京して、自社サービスの開発を中心としてキャリアを歩んできました。今現在、スタートアップやベンチャーで働く人たちが使っている技術が育っていき、広まっていくのを間近に見てきた人間の一人だと思います。こういった地方の学生時代と、東京の社会人次代の分析が出来るのは、自分がギリギリの世代かなと思い、良い機会なのでまとめてみました。

自己紹介

こういった場で記事を書いたり、発表することが少ないので、自己紹介を挟んでおきます。いつもの自己紹介をぺたり。

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1986年生まれ、2002年苫小牧高専本科、2007年苫小牧高専専攻科、2009年に日立製作所に入社、2010年に退職、自社サービス開発・リリース (新刊のメールお知らせサービス、今のアルみたいなもの)、2011年にチームをマージする形でフラー株式会社を立ち上げてCTO就任というのがざっくりした経歴です。

書いてあるとおり、最近はクラフトビールにハマっています。会社のメンバーをクラフトビールにハメるのも趣味の一環です。

10年前と現在の比較

次は10年前と現在を、ソフトウェア開発に絞って比較してみます。主にコミュニケーションと開発ツールの面で、多くのことが変革したように思います。情報収集や仲間とのコラボレーションが圧倒的に楽になりました。

約10年前 (2008〜2010年)
- ソースコード管理とチケット管理: GitHubのローンチが2008年、2009〜2010年ごろから日本で良く名前を聞くようになった、チケット管理はRedmineやTrac、自分でホスティングしてた
- 開発コミュニケーション: 開発時のコミュニケーションはSkype、イケてるチャットサービスがなかった
- インフラ: AWSのローンチが2006年、JAWS-UGの発足が2010年、自分は2008年ごろにさくらのホスティングを使ってサービスをリリース、2010年頃はVPSという言葉がよく聞こえてきて、Linodeを使っていた
- フレームワーク: RoRが日本で流行ってきていた気がする、開発フレームワークが流行る、自分はPHP版RoRのCakePHPをメインで使っていた
- エディタ: あまりイケてるIDEがなかった気がする、Eclipse使いにくかった... 自分はずっとvim使っていた
- カンファレンス: PHP Conference、RubyKaigiなど言語に関連するカンファレンスに加えて、フレームワークに関連する勉強会、有志が集まる小さな勉強会がこのころから増えてきた印象

現在 (2020年)
- ソースコード管理とチケット管理: GitHubが当たり前、OSS開発と自社プロダクトの開発、チケット管理からコミュニケーションまでGitHubで完結する時代
- 開発コミュニケーション: Slackから始まるオンラインコミュニケーション、サービス連携が便利
- インフラ: AWSが当たり前、GCPも使える、用途に応じて色々なクラウドサービスがある、サービス開始時には面倒な環境を自前で用意しなくて良くなった
- フレームワーク: たくさんある、マイクロサービス化が進んで、適材適所でフレームワークを適用できるようになった、フルスタックフレームワークは一巡して、薄すぎず厚すぎず、ちょうど良いバランスのフレームワークが選ばれるようになった
- エディタ: VSCodeが使いやすい、みんなのノウハウが共有されて、VSCodeに蓄積されていく
- カンファレンス: 小さい勉強会を入れると無数にある、コロナ渦でオンラインで視聴できるようになった

ここ半年はコロナ渦になって、急速にリモート化が進みましたが、ソフトウェア開発においてはその準備が整っていたように思います。このタイミングで、一番の恩恵を感じたのはカンファレンスや勉強会のオンライン化です。自分はMeetupを使って海外カンファレンスや勉強会をフォローしていますが、多くのものがオンライン化しており、学習のための地理的不利を本当に感じなくなりました。

高専とCTO

CTOAのアドベントカレンダーなので、CTOについても触れておこうと思います。元々、この記事のタイトルは小賀さんがお題として提案してくれた 「高専 x CTO」にするつもりでした。

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自分自身、ちょうど良い節目ということもあり、高専を始めとする地方の学生に向けた内容、あるいはこの業界にいる人々が少し昔を思い出して、次の新しい世界を造り続ける原動力になるような内容にしたいと思い、「地方で情報工学を学ぶ人たちへ」というタイトルにしました。

ただ、その地方の中においても高専は異質な存在です。

- たくさんある (2020年現在、全国で57高専)
- 地方の、しかも山際にありがち
- 5年間、同じクラスで専門を学び続ける (最近は少し変わった)
- 就職率が未だに100%近い

こんな特殊な状況で専門を学ぶのが高専です。そして、活躍している人々がたくさんいます。CTOのタイトルがついている、ついていないに関わらず、経営に携わる高専卒の方々を上げてみようと思います (過不足はご指摘いただければ、修正します)。

- 井手直行さん (ヤッホーブルーイング代表取締役社長)
- 伊林義博さん (株式会社ゲームエイト CTO)
- 大蔵峰樹さん (株式会社ZOZOテクノロジーズ取締役)
- 奥本隼さん (株式会社TwoGate取締役 CTO)
- 小賀昌法さん (株式会社VOYAGE GROUP CTO)
- 齊藤裕介さん (株式会社NoSchool CTO)
- 渋谷修太 (フラー株式会社 代表取締役 会長)
- 鈴木たかのりさん (PyCon JP 2016座長、株式会社ビープラウド役員)
- 関喜史さん (株式会社Gunosy 上席研究員 共同創業者)
- 田中邦裕さん (さくらインターネット株式会社 代表取締役社長)
- 田尻智さん (ゲームフリーク代表取締役)
- 高野遼さん (クラウドエース株式会社取締役 CTO)
- 馬場功淳さん (株式会社コロプラ 代表取締役社長)
- 尾藤正人さん - BTOさん (元Unoh CTO)
- 藤門千明さん (ヤフー株式会社 取締役 常務執行役員 CTO)
- 福嶋将さん (株式会社ALJ DXTech CTO)
- 福野泰介さん (株式会社jig.jp 創業者&会長)
- 道井俊介さん - はるかさん (ピクシブ株式会社 CTO)

個人的に、田尻智さんと井手直行さんのことを尊敬しています。田尻智さんは当時高額だった、ファミコンの開発ソフトを自作、それを使ってソフトを開発、井手直行さんは楽天でいち早くクラフトビールを売り始め、ショップオブザイヤーを受賞。新しいことに取り組んで行く姿勢や、なんでも自分でやってしまう姿勢が高専生らしいと思っています。いつか、お会いしてみたいお二人です。

言うまでもなく、日本CTO協会理事の小賀さんも高専卒です。しかも釧路高専なので、勝手に親近感を沸かせています。最近はエンジニア組織づくりに関して相談に乗っていただき、大変感謝しています。

高専コミュニティは不思議なもので、各地方にあり距離的に離れているにも関わらず、高専と言うだけで仲良くなれます。卒業生の数も、年間約1万人と他の大学に比べて多く、出会う確率も高いです。CTOAの中にも高専コミュニティが出来たので、一緒に高専トークしましょう。

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地方で情報工学を学ぶ人たちへ

最後に、地方で情報工学を学んでいる学生に向けたアドバイスをまとめて終えようと思います。

コンピューターサイエンスをひたすら勉強する
前段に書いたとおり、地方にいるととにかく暇です。逆に上京して仕事を始めると、時間がなくなります。応用をたくさんやる機会は得られますが、それに伴って時間がなくなり、ベースとなるコンピューターサイエンスを学ぶ機会を失います。
暇な時間を使ってがっつりと、コンピューターサイエンスの基礎を学んでおくのが重要だと思います。社会人になってから、(一部の人を除き) アセンブラを書いたり、CPUを作る機会なんてありません。
もっと深い知識がほしければ、海外のカンファレンスや論文を覗いて見るのが良いかもしれません。全て地方にいながら情報が手に入る良い時代になりました。

OSSの活動に参加したり、友達と組んでサービスを作ってみたりする
基礎ばっかりやってると飽きてしまうので、学んだことを使って何か作ってみましょう。基本的にGitHubだけあれば大丈夫です。GitHubを使う良い練習になります。コントリビュートの仕方や、サービス開発の仕方がわからなければ、Twitterを通じて先輩にコンタクトを取ってみましょう。OSSやスタートアップは、やる気がある人には寛大なコミュニティです。

インターンシップに参加する
昔よりも実践で働く機会が非常に増えました。各社がインターンシップを募集しているので、応募してみましょう。地方にいながら東京の働き方を知る良い機会になると思います。現在、コロナ渦で難しいかもしれませんが、オンラインで働かせてくれるところもあると思います。SNSを活用して、こういった情報に目を光らせておきましょう。

自分はものすごく東京に憧れて、実際に上京しましたが、地方にいるからこそやれることもあったなと振り返って思います。昔よりももっと、インターネットは世界に繋がっています。今現在学んでいる学生の方々は、前の世代が築いてきたことをうまく利用して、より多くの価値を生み出していけば良いと思います。

これからの抱負

こんなことに思いを馳せながら、12/14(月)に新潟県新潟市に引っ越しました。口だけならいくらでも言えるので、本当に地方と東京、良いところ取りをしながら生活できるか、新しいチャレンジとして取り組んでいきます。そのうち、CTOA新潟支部、作りたいですね。

明日は Ryosuke Tsuji さんです。

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